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第三十九話 「それはそうと、リハーサルだ!」

 山本先生の車で、移動すること約一時間。目的の場所である老人ホームに到着する。


「よーし! 着いたぞ」


 全員が車から降りて、施設の出入りに歩き始めた。


「思ったより……でかい施設ですね」


 建物を見るた僕は、想像していたよりも大きいことにおどろく。


「うむ、立派な施設だな」


 金本も同じように思っていたのか、そう話す。


「ほらほら、突っ立ってないで中に入るぞ」


 山本先生の声に、僕らは施設へ入る。


「それじゃあ私はあいさつしてくるから、そこで待ってろ」


 山本先生は受付があるところへ向かっていった。


「なんか、独特の匂いがするな」


 荒木はクンクンと鼻をかいでいる。全員で鼻をかき、その匂いを確認する。


「たしかに! なんか、保育園の手洗い場のような懐かしさがあるな」


 どこか懐かしさを感じるような匂いに、僕もそう思った。


「こら!おまえたち、担当者の方がいらしたぞ」


 山本先生が僕らにそう話すと、となりに若い女の人が現れる。


「今日の担当をします須藤です。皆さんよろしくお願いします」


 ニコニコと笑顔で話す介護士の女性に、僕らは照れくさくなった。


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 金本はいつもより元気そうにあいさつをする。


「女の人に話しかけられて、テンションが上がってるな……あいつ」


 ボソッと荒木は金本の様子を見て、そう口にする。


「けど、イメージ通りですね」


 すると僕らを見た須藤さんは、笑いをこらえているようだった。


「イメージ通りって?」


 なぜ笑いをこらえているのかわからず、僕らはお互いに顔を見合わせる。


「だって……その格好」


 ついに我慢の限界が来たのか、須藤さんは笑い始めた。


 格好と言われても、以前にライブをした時と同じTシャツを着ている。


「あははは! だって、可愛いイラストがシャツの真ん中に」


 須藤さんは笑いながら金本を指差していた。


「またその服かよ! しかも、前と微妙に違うじゃねーか」


 金本の服は、前よりも派手なイラストが描かれている。


「いやあ、音楽の他にキャラ絵も知ってもらおうかと」


「恥ずかしいからやめれ……」


 荒木と金本のやりとりを聞いていた須藤さんはさらにバカ笑いをしている。


「あははは、面白いですね! おっと、こうしちゃいられない」


 須藤さんは時計を見ながら、時間を確認する。


「とりあえず時間まで、会場で準備をしてもらってていいですか?」


 そう言われた僕はらは、会場へと案内された。到着すると、中はとても広い部屋だった。


 部屋には椅子が何脚も置かれていたり、施設の人が作ったであろうステージがある。


「おお! いい感じのステージですね、芸人さんとかがやる感じの」


 目の前にあるステージを見ながら、金本は嬉しそうに話す。


「演奏する形ですからね、それっぽく作ってみました」


 そう説明する須藤さんの言葉に、僕はありがたい気持ちになった。


 こんな僕らのために、作ってもらったステージ。


 ーー絶対に、いい演奏にする!


 そう僕は気合いが入った。


「まだ始まるまで時間がありますから、演奏のリハーサルをしてもらっても構いませんよ」


 演奏が始まるまで、一時間ほど空いた時間がある。


 僕らはさっそくステージに上がり、楽器を取り出した。


「よーし! 始まるまで練習だ」


 金本のかけ声を合図に、練習を始める。


「立ち位置とかどうしよう? それも一緒に決めようか」


 練習の最中に、和田は声をかける。


 金本の人形劇をセンターにして、その後ろで演奏する形にしていた。


「金本が前だと、演奏する僕らは目立たないよね」


「おいおい! 今回は、僕の劇が中心の演奏だろう?」


 金本は納得しない様子で、和田に話しかけてくる。


 せっかく演奏するのだから、やはり弾いている姿も見てもらいたい。僕はそう思いながら、立ち位置を考えてみる。


 いろいろな場所から、変えてみてもイマイチしっくりこない。


「難しいですよね? 立ち位置を決めるのって」


 全員で意見を出し合いながら決めていくが、いまだに決まらない。


 早く決めておかないと、練習する時間がなくなってしまう。


 そんな状況を見ていた山本先生が、助け船を出す。


「ステージの台には和田たちが立って、金本は下の方でやってたらどうしようだ?」


 床の上にステージの台が置かれており、少し高い位置になっている。


 その段差を利用すれば、両方とも見れる形だと山本先生は言う。


「ああ! たしかに、全員がステージの台に立つ必要ないですよね」


 山本先生のアイデアに、僕らは納得する。


「金本も目立ちたいなら、劇で実力を発揮しろ」


「わかってますよ! 僕の人形劇は世界一! なんてな」


 寒いジョークを言う金本を無視するように、僕らは配置を決める。


 ステージでは僕を真ん中にして、横にベースとギター。後ろにドラムと、基本的なバンドの演奏スタイルになった。


 金本はその下のほうに机を置いて、劇をやる形に落ち着く。


「よーし! 位置も決まったし、最後の練習だ」


 本番まで時間は少ない。


 僕らはそれぞれ、気合いを入れて練習を始める。


 マイクスタンドに立つ僕は、ギターを持ち歌うのだった。リハーサルの最中、お互いの演奏を確認しつつ弾いては止めての繰り返し。


「岩崎君岩崎君! そこはもう少し、音を小さくして弾いてくれ」


 その中で僕が何度も、注意をうける。


 僕は言われたように、細かいところを調整して弾き直す。


 ーージャジャーン!


 演奏する曲をすべて通しで弾き終わると、全員は黙る。


「どうですかね? うまく弾けてますか?」


 しばらく沈黙が続き、僕がそう尋ねる。


「……完璧だね」


 金本が一言。そう静かに話す。


「今までで一番うまくできてるじゃないか! すばらしい」


 テンションが上がった金本は、バンザイをしながら舞い上がっていた。


「そうだね、岩崎君の声もきちんと出ていたし」


 和田はペットボトルのお茶を飲みながら、僕に話す。


「本当ですか?」


 僕は嬉しさのあまり、何度も聞き返した。


「本当本当! 成長したじゃないか岩崎君」


 荒木は僕の肩をたたきながら、ほめる。


「どうです山本先生? 顧問として聴いた感想は」


 椅子に座りながら聴いていた山本に、荒木は尋ねた。


「……おまえら」


 山本先生は椅子から立ち上がり、僕らのいるステージまで歩いてくる。


「わっはっは! あまりのうまい演奏に感動したのかな?」


 金本は気分よく大笑いして、そう話している。


 そして山本先生は、その口を開いた。


「演奏は良かったし金本の劇も面白い、けどな……」


「けど、なんです?」


 僕はそう山本先生に尋ねる。


「……おっぱいとか歌うのは、セクハラじゃないか? 女性の職員さんが多いし」


 山本先生の言葉に、僕らは固まる。


 ーーガラガラ。


 すると、ドアが開く音が聞こえた。


「そろそろお時間です! 入居者の方々をお連れしますねー」


 須藤さんがそう伝え、去っていった。


「……さあ! 気合いを入れて頑張ろう!」


「おいおい、私の話を聞いてだな」


 金本は山本先生を無視して、僕らに話しかける。


「……大丈夫かな」


 微妙な空気の中、僕は不安を感じるも老人ホームでのライブは始まる。

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