第三十一話 「一つ違えば、みなギャルゲー」
二週間が過ぎ、ついに同好会の活動が再開される。
「ついにきたー! やっと同好会ができるではないか」
部室で金本はそう喜んでいた。
「意外に長いよな? 二週間ってさ」
部室に来た僕らは、荒木の言葉にうなずく。
部室で集まることはなかったが、他の場所で集まっていた僕は、普段と大して違いはなかった。
「それじゃあ、本格的に老人ホームでのライブを計画しましょう!」
僕がそう言うと、全員が椅子に座る。
「とりあえず、演奏する曲の残りを決めてしまおうか」
金本は以前に決めた曲の他に、どういうジャンルをやるかを決めたいようだ。
「うーん、やっぱりボーカルがある曲も入れたほうがいいのかな?」
みんなで話し合っている中、和田はそう話す。今のところ、歌がないBGMを二曲ほど決めている。
「相手はお年寄りだろう? 前にも言っていたけど、ロックぽいのはダメだろう」
バンドのような曲調が多いギャルゲーの歌では、ウケないと荒木は言っている。
今回の演奏は、他よりも難しい年代なだけに、話が進まない。
「僕にいい考えがある!」
意見がでない中、金本は人差し指を立てながら話し出す。
「今回は場所と年齢層を踏まえて、特例を出す」
言葉の意味がわからない僕は、どういうことか尋ねた。
「ん? 特例ってなんですか?」
すると金本は机の上に、大量のCDをカバンから出す。
「ギャルゲーソングだけでなく、普通の童謡を演奏するのだよ」
ーーはい? それって、この同好会の趣旨に反してないか?
普段はアニソンだ、ギャルゲーソングだと言っていた金本にしてはめずらしい。こういったジャンルは聴かないだろうと僕は思った。
「けど、いいんですか? ギャルゲーソングじゃないですよ?」
僕はなにかの間違いではないかと思い、金本に確認する。
「よくない! と言いたいけど、前回のライブを経験してまたトラブルになったら嫌だしな」
前の失敗を踏まえてか、今回はまともな演奏を目指している。
「ただし! 多少のアレンジはするつもりだ」
ーーアレンジ? 原曲通りにはやらないことか。
とにかくライブができればいいだろうと思った僕は、気にしないことにした。
「まあ、いいんじゃない? はっきりなにやるか決まってないしさ」
荒木が言うように、誰も反対はしない。
「それで? どんな曲をやるんだ?」
全員が金本のほうを見ると、ニヤリと笑っている。
「それはだね……」
曲が決まり、老人ホームでの演奏に向けて活動が始まった。
授業を終えた放課後、老人ホームへ連絡をすることに気づく。
ーー山本先生から、そう言われてたっけ。
忘れてしまうところだった僕は、すぐに電話をかける。
「ええ、はい……そうです。それで、具体的な日程などを決めたいのですが」
電話に出た介護士さんに、詳しい日時などを尋ねたりする。
ところが、他にイベントなどが入っているらしく、施設側の予定が確認でき次第、あらためて連絡することになった。
「あの、本当に僕らが演奏して大丈夫なんですか?」
話の最後に、どうしても聞きたかったことを尋ねてみた。
前回のライブがひどいのに、なぜ僕らに演奏を申し出たか、知りたかったからだ。
「いやー、単純に面白いなと思ったからですよ? あそこまで笑ったのは久しぶりでして」
電話越しから、クスクスと笑い声が聞こえる。
「はあ、面白いですか」
少し暗めなトーンで、僕はそう返す。
「あっ……すみません。けど、演奏はとてもお上手でしたし、施設の皆さんも喜ぶと思います」
電話を終えると、僕は複雑な気持ちになる。
ーーうーん。どう反応したらいいのだろうか。
お笑い芸人がやるような演奏を期待されてるのか。部室に向かいながら、僕は考えるのだった。
部室の中に入ると、金本は楽譜を作る作業をしている。
「今回も楽譜がないからね、一から作らなければ」
そう話しながら、ペンで譜面を書いている。
「童謡を演奏するのはいいけどさ、替え歌にするのはどうなんだよ?」
荒木の言葉に、僕は金本が言ったことを思い出す。
ーーギャルゲーっぽい童謡を作ろう!
金本はそう僕らに話していた。
「ギャルゲーっぽい童謡ってなんですか?」
和田に聞いてみるも、彼もわからずにいる。
「ふふふ、ボーカルがある曲もやはり欲しいだろ? ならば、歌詞をそれっぽくしようではないか」
僕らのやりとりを聞いていた金本は、ニヤつきながら話してくる。
「というか…… 作曲家にすごい失礼な気がするけど、いいのかよ」
勝手に歌詞を変えたり、アレンジしていいものかと、荒木は頭を悩ませている。
「いいんだよ! 著作権が切れた童謡なら誰も文句は言わないだろう?」
ーーそうは言うけど、まさかあの曲を弾かなきゃなのか。
演奏する曲を聞かされた時、僕らは難色を示していた。
それが昔、どこかで聴いたことがある、たぬきの歌。
「まさか、高校生にもなって保育園で歌う曲をやるとは……」
後悔したという顔をする荒木を見た僕は、同じくそう思うのだった。
「歌詞とかはどうするの? 誰が考える?」
替え歌にするにしろ、歌詞を変えなければならない。
それを誰が担当するか和田は金本に尋ねる。
「とりあえず、一人ずつ歌詞を書くことにしよう」
金本は白紙を僕らに渡す。
「各自、ギャルゲーみたいな歌詞を考えてくるように!」
ーー歌詞なんか書いたことすらないのに無理だろ! ましてや、ギャルゲーぽい歌詞なんて。
白紙を見る僕は、これまで以上に難解な課題を出された気がした。
金本は先ほどの譜面作りを再開している。
荒木たちも机に座ると、さっそく歌詞を考えている様子だ。
「僕も、とりあえず書いてみるか……」
椅子に座り、紙の前でペンを持つ。
ーー数時間後。
「まったく、思いつかない!」
僕の紙には、文字が一つも書かれてはいなかった。
頭の中を何回もフル回転させてみるが、それらしい歌詞が出てこない。
「……くん、岩崎君!」
和田が僕に声をかけてくる。
「もう帰る時間だよ? 学校が閉まっちゃうよ」
すでに部活動が終わる時間まで過ぎていたようだった。
「もうそんな時間なんですか? 全然、気づかなかった」
和田たちは帰り支度を終え、僕を待っている。
「なはは! 岩崎君は必死に紙と、にらめっこをしてたよ」
結局、歌詞を書けないまま、僕は帰り支度をする。
「ああ、そうだ。岩崎君はアコースティックギターって持ってる?」
帰り際に、金本からそう言われる。
「持ってないですよ? 僕はエレキギターしかやらないですし」
ーーバンドやるならエレキギター!
そういう考えを持っている僕は金本に答えてる。
「うーむ、今回はエレキギターは使わないからなあ。一本くらいは買っておいたほうがいいよ?」
言われたものの、今月はおこづかいがピンチで、新品を買うお金がない。
「急に言われても、僕はそんな大金を待ってないですよ!」
僕の言葉を聞いた金本は、笑いながら話す。
「なはは! そんな高いギターを買えとは言ってないよ? 中古でいいんだよ」
バンドをやるには、お金がかかるとマンガで読んだことがある。
「はあ……明日にでも、楽器屋に行ってみようかな」
そう思いながら、僕は部室を出るのだった。




