第二十二話 「練習に無駄はない!」
学校での練習が最後になり、僕らは全員で合わせて練習をしている。僕のギターとボーカルは、始めた頃に比べてかなり良くなっていた。
「……聴けるようにはなりましたよね?」
僕は自信がなさそうに、そっと金本たちに聞いてみる。
金本たちも本番が近いのか、自分の演奏に納得していない様子でいて、尋ねたことを聞いているようで聞いていない。
そんな様子だった。
「え? ああ、弾けてるよ! 大丈夫大丈夫」
金本はそう僕に向かって答えて話し終わると、自分の楽譜を読み返している。
ーーやっぱり先輩達も、自信がないのかな?
以前のような明るい雰囲気はなく、どこかソワソワしているなと僕は思った。
「先輩たち! もう一回、最初から通して演奏しましょう」
全員が納得するまで、繰り返し弾くように僕は誘う。金本たちはうなずくと、また練習を始めた。
ーージャララーン!
休憩なしで演奏し続け、最後のところを弾き終わる。
「うむ。まあ、今日はこのくらいでいいんじゃないか?」
金本は弾き終わると、そう僕らに言う。
「明日は楽器屋の貸しスタジオで、最終的な調整をすればいいな」
学校での練習では、設備の関係で本番のような大きい音は出せない。貸しスタジオの設備で、全体のバランスを考えるということらしい。
僕らは片付けを済ませて、部室を後にした。
「明後日は、ついに初ライブだな」
帰り際に、荒木はそうつぶやいた。
同好会でのライブは初めてで、どうなるかはわからない。
「大丈夫ですよ、きっと成功します!」
人前で演奏をしたことがない彼らは、おそらく不安があるだろうと僕は思った。自宅に帰えると、妹の若葉が荷物をまとめている。
「なにしてるんだ? おまえ」
僕がそう聞くなり、若葉は答える。
「え? 明日の準備よ、日曜日のライブに向けて明日は練習するの」
ーー僕らと同じ考えかよ。
まさかのことに、僕はおどろく。若葉も同じイベントライブに出ることをすっかり忘れていた。
「ふっ、ふーん! まあ頑張れよな」
僕は少し動揺しながら、自分の部屋へ歩く。
「……お兄ちゃんもね」
部屋に向かう僕に若葉は、そう一言だけ言った。
自室に戻った僕は、いろいろと考え始める。ライブでの不安感、若葉のバンド演奏のことを。
「ああ、悩ましい悩ましい」
考えていたら、むしゃくしゃしてきた。
ーーとりあえずは!!
僕はギターを手に持つと、軽く弾く。
嫌なことがある時や、なにか悩んだ時、僕はギターを弾く。今回はライブで演奏する曲を無意識に弾いていた。
弾き終わると、僕はあることに気がつく。
「あれ? 今さらだけど、ギターが上手くなっている気がする」
放課後の時にも感じだが、日に日に上達しているのがわかる。
以前はよくミスしてつっかえたり、音が変になっていたが、今はすらすら弾けるようになっている。
「やっぱり、毎日弾いてれば僕でも上達するんだな」
自分に感心しながら、明日のスタジオ練習にそなえて早めに寝ることにした。
「あれ? 僕って、なんか悩んでたっけ?」
さっきまでなにに悩んでたか忘れた僕は、そのまま眠りについた。
ーー翌日。
「ふあー、よく寝た!」
目が覚めると、いつもより早く起床した。
「今日が練習最終日だ! 気合いを入れて頑張ろう」
窓に向かってそう叫んだ僕は、今日の準備を始めた。朝食を済ませた僕は、若葉がいないことに気がつく。
「母さん、若葉は?」
洗い物をしている母にそう尋ねる。
「え? なんか部活の練習とかで、朝早くから出ていたったわよ?」
僕は時計を見る。
「今は、朝の七時半か……」
つまり、それよりも早く家を出たということになる。
ーーそんな早くから練習するってことは、若葉のバンドも大したことはないな。
そう思った僕は、部屋に戻る。
「さて、着替えて早めに出発しよう」
集合時間まで時間はかなりあるが、早く出ようと仕度をする。
「いってきまーす!」
家を出た僕は、貸しスタジオがある楽器店に向かった。
「しかし、やっぱりギターケースを持ってると目立つな」
電車に乗った僕は、そう感じた。
物珍しいのか、周りからチラチラと見られている。
バンドマンって感じに見られていると思うと、少し上機嫌だ。
「ん? 僕のほかに、ギターケースを持ってる人がいるな」
同じ電車の中で、同じような人を僕は見つけた。見るからに僕と同い年のような、若い女の子だ。
「女の人がギターケースを持っているのも、なんか珍しいな」
若葉もそうだが、最近はよく女性もバンドをやるのだろうか。
そう思っていると、目的の駅まで着く。僕は電車を降りると、改札口を出た。
しばらく歩いて楽器店の前に到着する。
「先輩たちは……まだ来てないな」
時間はまだ予定より早いため、僕はその場で待つことにした。
その後、楽器店には人が出入りしている。先ほどのギターケースを持った女の子も、なぜかそこにいる。
「へえ、さっきの女の子も楽器店に用事か」
女の子が一人で楽器店に入るのも、珍しい。
「やあ! 岩崎君、待たせたね」
後ろから金本が僕に話しかけてきた。
「うわ! びっくりさせないでくださいよ」
おどろいた僕はそう金本に言う。
金本はニヤニヤしながら、僕を見ている。
「いやあー、岩崎君がさっきから女の子を見てたから、声がかけづらくてね」
ーーさっきのを見てやがったのか!
恥ずかしくなった僕は適当に言い訳をする。金本たちは、僕の話を聞かずに冷やかしてくる。
「岩崎君も女の子に興味があるんだねー」
荒木までもそう言うと、金本は真顔になり言う。
「だが……三次元はダメだ、二次元を愛しなさい」
ーー次元? なに言ってるんだ。
わけがわからない言葉に僕は、とまどう。
「とっ、とにかく! 早く貸しスタジオに入って練習しましょう」
これ以上は話を続けるとダメな気がした僕は、先に店内に入った。
金本たちも店内に入り受け付けをして、貸しスタジオの中に入るとさっそく練習の準備に入った。
「さあ! 明日の本番に向けて、今日は徹底的に練習するぞ!」
全員が気合いを入れ、練習が始まる。




