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第二十一話 「イエス!岩崎マジック」

 ほとんどの部活が終わる中、僕ら、音楽研究同好会はまだ部室に残っていた。


 ギターソロの練習がメインで、僕は金本たちから指導を受けている。


「そう弾くんじゃなく、こう弾くんだよ」


 和田から弾き方を教わるも、なかなかうまくいかない。難しいギターソロに、僕は悪戦苦闘していた。


 楽譜を見ても、弾いてみると手が追いつかない。曲を流しながら、ゆっくりと一音ずつ覚えていく。


「くそう! こんなにも難しいのか、聴いてるだけなら簡単そうなのに」


 自分の出来のなさに、僕はつい口にしてしまった。そんな僕を見る金本は、黙ってなにか考えている。


「まあ、最初はそんなものだよ。……って金本、なに黙っているんだ」


 そんな金本に和田は声をかける。


 しばらくすると突然、金本はスマートフォンを取り出した。


 スマートフォンのカメラに設定して、岡山に自分を撮るように頼んでくる。


「こっ、これって写真じゃなくて動画か?」


 岡山はそう聞くと、金本はうなずく。


「なにしてるんだ? 金本は」


 ベースを片付けていた荒木は僕らに聞いてくる。


 金本の行動が分からずに僕はどうしていいか戸惑っている。


「静かに! 岡山、とにかく録画を始めてくれ! 手元を中心に頼むぞ」


 岡山は言われた通り、録画ボタンを押す。金本はギターを構えると、ギターソロの部分を弾く。


 最初は普通のテンポで弾き、次にスローテンポで弾いている。


 ーーギュワワワーン!


 ギターの歪ませた音は、ミスすることなく完璧なギターソロだった。弾き終わった金本は、きちんと録画されているか岡山に確認する。


「どうだい? ちゃんと撮れている?」


 スマートフォンを見ると、金本の弾いている手元がばっちりと写っている。


「なあ、そろそろなにしてるか教えてくれよ」


 荒木はそう聞くと、金本は答えた。


「うん? 岩崎君のために、わかりやすく動画にしたほうがいいかなってね」


 簡単に言うなら、ギターソロ講座みたいなものだと金本が説明する。


 ーー確かに楽譜では分からない部分を動画にするとわかりやすいかも。


「だったら……最初からそうすれば良かっただろうが」


 これまでの練習はなんだったのかと、荒木はあきれながら言う。


 しかし僕にとってはありがたい話だ。


 文字で見るよりは、動画を見たほうが覚えられる。


 ーー前にアニメの曲を覚えた時は、 動画を見てたっけ。


 そんなことを思い出していた僕は、これならできると思った。


「とにかくやれることは、なんでもやりましょう! 頑張りますから」


 僕がそう声をかけると、金本たちはさらに練習を見てくれる。


「うむ! 動画は後で岩崎君に送っておくよ、今は練習あるのみだ」


 その後も、僕はギターソロを繰り返して練習する。


「さすがに何時間も部室には入れないな、 そろそろ学校を出よう」


 気がつくと時計の針は七時を指していた。


 荷物をまとめた僕らは、急いで玄関へと向かう。


「それじゃあ、今日はここで解散しよう」


 金本たちと別れてから、僕は自宅に帰る。


 帰った後は、金本から送ってもらった動画を参考に、練習は始める。


「よし! 今日は徹夜してでも覚えてやる」


 ギターを持ち、動画を見ながら弾いてみる。


 たどたどしいが、楽譜を読んでは動画を見るの繰り返し。


「ゆっくりと、一音ずつ弾いてみよう」


 ギターのリフと違ってすべての弦を押さえることはなく、一つずつ音を出す。


 簡単そうに見えるが、高いテクニックが必要だ。


 ーーブツ!!


 弦が切れた音がした。


 途中で入るチョーキングをしたせいで一弦が切れてしまった。


「くそう! 弦を引っ張ったら、なんで切れちゃうんだよ」


 チョーキングは弦を引っ張ったり、持ち上げて音程を変えるテクニックだ。

 ギターソロを弾く時は、大体取り入れられている。


 ーーギュイーンとキレイに弾けてたら、カッコいいのに。


 僕は切れた弦を張り替えて、もう一度挑戦する。


「今度は、優しく優しく」


 先ほどより慎重にチョーキングをするが、原曲よりもなにか違うような気がする。


 僕は頭をかきながら、もう一度最初から弾き直す。


 気がつくと四時間以上は、ずっと弾いていた。


 僕は時計を見ると、すでに深夜の二時になっていた。


「よし! なんか、ギターソロっぽく弾けてるような気がするぞ」


 眠たい目をこすりながら、そう思った。


 金本たちに見てもらおうと考えていると、僕はベッドに倒れる。

 目が覚めて時計を見るなり、僕はおどろいた。


「やばい! もう昼だ」


 慌てて制服に着替えて、家を飛び出す。


 学校はもう始まっている、お昼休みの時間になっている頃だ。

 

 教室の前に着くと、先生が話す声が聞こえる。どうやら午後の授業が始まっているらしい。


「どう頑張っても 昼休みまでに来るのは無理だったな」


 一人、教室の前でそう話すと、正々堂々と扉を開ける。


「すみません! 寝坊しました」


 教室に入るとクラス全員が僕を見ている。


 恥ずかしさもあるが、それ以上に恥ずかしい思いをしたことがあるから問題はない。


「岩崎……放課後になったら、職員室に来なさい」


 先生が静かにそう一言を言うと、僕は席に座って授業を受ける。


 ーー放課後。


 職員室で説教と反省文を書かされた僕は、部室へと向かった。


「ふあー、お疲れさまです」


 寝不足のせいか、僕は気の抜けたあいさつをする。


 僕の顔を見るなり、金本たちはおどろく。


「大丈夫か? 岩崎君、顔がいつも以上にやばいぞ」


 和田がそう言うと、金本たちもうなずく。


 昨日、夜中まで起きてギターソロを練習していたと僕は説明する。


「あまり無理はするなよ? イベントライブ当日に寝坊しないようにだな」


 荒木は心配そうに、僕にそう話す。


 僕はそんなことよりも、練習を始めるように金本たちに頼む。


「せっかくギターソロを練習してきたんです、とりあえず聴いてみてください」


 ギターを構えると、僕はギターソロの部分を弾き始める。

 ゆっくりではあるが、楽譜通りに弾いてみせた。


「おお! 弾けてる弾けてる」


 僕のギターソロを聴いた和田は手を叩きながらそう言う。


 荒木や岡山も、笑顔で拍手をしている。

 

 しかし、金本は一人黙っている。


「ここまでできたなら、後は早く弾けるように練習だよな? そうだろう金本」


 荒木は金本にそう聞くと、彼は口を開く。


「うむー、弾けてはいるよ? ただ……」


 ただ?と全員が金本に尋ねる。


「感情がまったくこもっていない! ギターソロは、感情を伝えるもんだろう!」


 そう言うと金本は僕の前に来てギターを取り出す。


「今日は徹底的に教え込むぞ! さあ、ギターを構えるんだ」


 イベントライブまで残りわずか、ギリギリまで僕らは練習を続けるのだった。

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