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第十七話 「これもすべて山岸ひなたって奴の仕業なんだ」

 部屋に戻った僕は、若葉の言葉におどろいていた。


「まさか……あいつも出るなんて」


 若葉が中学でバンドを組んでいることは知っていた。しかし、同じイベントライブに出るとは初耳だ。


「いったい、どういう曲を演奏するんだろう」


 たまに聴こえる若葉のギターは僕よりもうまい。


 ーー間違いなく、あいつのバンドは高いレベルなはずだ。


 僕はそんなことを考えると、焦りが強くなる。


「こうしちゃいらない! 僕も、ギターを練習しなきゃだ」


 ギターを持つと、ひたすら楽譜を見ながら練習を始める。


 ーープルルル、プルルル。


 ギターを弾いていると、突然スマートフォンが鳴り出す。


「誰だよ! 今は忙しいのに」


 僕はイライラしながら電話に出る。


「はい! もしもし?」


 スマートフォンを耳にあてると、女の声が聞こえる。


「あっ、がんちゃん? わたし、ひなただけど」


 電話の相手はひなただった。


「あ? なんだよ、忙しいんだけど」


 そう話すと、ひなたは僕を無視して話を続ける。


「がんちゃんって、明日は暇?」


 そう聞かれると、同好会の日程表を取り出して見る。


 明日は土曜の休みで、同好会の活動はない。


 特に予定はないが、バンドの個人練習をしたい。


 僕はそうひなたに伝えた。


「え? もしかして、忘れてるの?」


 なにか約束してきただろうか、僕は思い出してみる。


「……もしかして、あれか?」


 歌の練習相手になってもらうことだろうか、僕はそのことを話してみた。


「あれだろ? 曲の歌を教えてくれるってことだろ?」


 ひなたは僕の言葉を聞くと、強い口調で話す。


「違うよ! それもあるけど、そうじゃないでしょう!」


 あまりのでかい声に、思わずスマートフォンを耳から離す。


「わたしが歌を教えてる代わりに、新作のギャルゲーを買ってくれるって話」


 そういえば、そんなことを言っていた気がする。


「え? まさか、もう買わなきゃいけないのか?」


 ーー歌を教えてもらうのは、今日約束したばかりなのにそれは早すぎる。


「とにかく! 明日は予定を空けておいてね、歌の練習とギャルゲーを買いに行くんだから」


 ひなたはそう一方的に言うと電話を切った。


「おっ、おい! まだ話は終わってないぞ」


 すでに通話が終了しているが、僕はそのまま話続けていた。


「まさか……これって、デートってやつですか?」


 休日に女の子と出かけるとか、僕にとっては生まれて始めてだ。

 ギターを弾くのをやめた僕は、ベッドに倒れた。


「え? どうしよう、なにが起きてるかわからない」


 今日だけでいろいろなことが起きたため、完全に混乱している。しばらくベッドであたふたしていた僕は、やっと冷静になった。


「アホか僕は! 歌を教えてもらってギャルゲーを買いにいくだけだろうが」


 これはデートではないと言い聞かせながら、眠ることにした。


 ーー次の日。


「やばい、完全に遅刻だ」


 結局、眠ることができなかった僕は中途半端な時間に目覚めてしまった。


 ひなたと約束した場所へ着くと、すでに彼女はそこにいた。


 よく見るとかなり怖い顔をしている。


「悪い! 遅れた」


 僕はひなたに手を合わせて謝るが、表情が変わっていないように見える。


「遅すぎ! いったい、どれだけ待たせるのよ」


 そう説教するひなたに何度も謝ると、彼女は時計を見る。


「はあ……時間がもったいない! さっさと行くわよ」


 ひなたは歩き出すと、僕も後をついていくことにした。


「おい、どこに行くんだよ? 今日は歌の練習がメインなんだろ?」


 そう話すも、ひなたはすでに先に行っている。


 しばらく歩くと、ひなたはとあるお店の前に止まった。


「さあ! 着いたわ、買いに行くわよ」


 店の看板を見ると、そこは大型の家電量販店であった。


「おい、ここって電気屋だろ? なにを買うんだよ」


 ひなたは僕の声を無視して店内に入っていった。


「意味がわからないぞ……」


 僕はひなたを追いかけて店内に入ることにした。


 店内で探していると、とあるゲームコーナーにひなたはいる。


 僕も入るのだが、なにか違和感を感じた。


「なんだ? この空間は」


 ゲームコーナーには、たくさんの可愛らしいイラストが描かれていたり、ポスターが大量に貼ってある。


 それに商品がすべてギャルゲーのように見えた。


 僕は少し引き気味に、ひなたのいるとこまで歩いた。


 彼女はゲームソフトを両手に持って品定めをしている。


「うーん、どちらも捨てがたいのよね……迷うわ」


 悩むひなたに僕はため息をつく。


「なあ、そんなに悩むことか? みんな同じようなゲームだろう?」


 そう言うとひなたはブチ切れた。


「なに言ってんの? 全然違うわよ! がんちゃんは頭がおかしい」


 ーーいやいや、おかしいのはおまえのほうだろうが。


 僕はそう思うも、ひなたはあれこれ説明し始めた。


 原画が違うとかシナリオライターがどうとか言うも、僕はまったくわからない。

 長い時間、説明したひなたは、とあるゲームを僕に差し出した。


「とりあえずこれね、新作の中じゃ一番期待されるやつだし」


 僕はゲームのパッケージを見ると衝撃が走った。


 小さなかわいい女の子のイラストが描かれていた。


「あの? ひなたさん……これは、なんですか?」


 そうひなたに尋ねる。


「なにって、妹ゲーよ」


 その言葉を聞いた僕は、再びパッケージを見る。


 ーーぐぬぬ、ものすごくプレイしたくなるじゃないか。


 妹ゲーにハマっている僕は、そう思った。


「じゃあ、がんちゃん! 約束通りにそれを買ってね」


 ひなたは笑顔で僕に言った。


「歌を教えてもらうためなら、仕方がないか」


 僕はゲームを持ってレジまで持っていくことにした。


「まあゲームくらいなら安い買い物だ、歌の授業料だと思えば安い安い!」


 店員さんにゲームを渡し、財布を取り出す。


「八千八百円のお買い上げでございます」


 店員の声を聞いた僕は、耳を疑った。


「え? あの、いくらですって?」


 僕がそう聞き返すと、店員さんは同じ金額を言う。


 あまりの金額の高さに驚くと、ひなたの方に顔を向けた。


 ーー早く買え。


 ひなたはニコニコしているが、そう言っているような雰囲気だ。


 僕はなけなしの一万円札を差し出す。


「今日って、なにする日なんだっけ?」


 涙ながらに、僕はそう思ったのだった。

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