最終話「オタクがバンドを組んでなにが悪い?!」
仙道たちとのライブが終わり、僕らはいつもの高校生活へと戻った。学校の試験やら行事で、なんら変わりのない日々が続く。
けれど、僕らの同好会は新たなるステージへと向かうことになる。すべての始まりは、打ち上げの時に話した僕の提案からだった。
「本格的なバンド活動をやるだって⁈」
金本は驚きながら、そう叫んだ。
「そうです! これを機会にギャルゲーソングをもっと広めていきましょう!」
僕がみんなに話したのは、同好会としてではなく一つのライブバンドとして活動していくことだ。
今までは、学校の生徒。町内のイベントや他校との交流を兼ねたイベントのみのライブだった。
ギャルゲーソングを広めるには、近場だけでは意味がない。もっとたくさんの人たちに、僕らの活動を広めるべきだと思った。それこそ、仙道たちのように全国を目指すように。
「つまり、ガチなバンドになってやるということかい?」
「はい!」
同好会の活動としてではなく、メジャーデビューを目指すバンドマンのような活動をする。
僕はそんな決意を込めて、返事をした。
「こっ、これまでと変わらずにやるのはダメなのかい?」
「別にそこまで本格的にやらずに、今まで通りでいいんじゃないか?」
岡山と荒木は、そう話す。たしかに、本格的と言ったけれどバンド活動をする意味ではなんら変わらない。
問題は、活動する範囲である。
「僕らのギャルゲーソングを広めるといった活動は、 学校や地域限定でした」
「……ふむ」
「どんなに良さを広めようとも、学生であるがゆえに地元に限られていると思うんです」
僕らのバンドは、そんな小さなものにしたくない。
もっと全国に通用することができると、今回のライブで気づいた。
「まだギャルゲーソングを知らない人はたくさんいる……それこそ全国にか」
和田は僕の言いたいことを理解したのか、そう口にする。
「はい! だから本格的なバンドマンになって、日本中にギャルゲーソングを広めていきましょう」
「はははー! キョウちゃん、夢がでかすぎるでしょー」
笑う響子だが、どこか納得しているようだった。
「仙道たちは、自分たちの音楽を全国に広めると話していました。 僕だって、ギャルゲーソングを全国に広めたいんです」
先ほどから、金本だけが黙っている。
なにか考え込むような表情で、僕らの話を聞いていた。
「金本先輩は……どう思ってます?」
ギャルゲーソングを広めると言ったものの、本格的なバンドは一般の音楽をやる連中と同じだ。金本が嫌う、そこらへんの流行りの曲をやるバンドと変わりないだろう。
果たして、彼がそれを良しとするかが重要になってくる。
僕は金本からの返事を待つ。
「岩崎君……」
「いやあ、さすが今すぐじゃないですよ? そうやっていけたらなあ……と」
反対されるんじゃないかと、つい弱気になってそう話す僕に、金本は叫んだ。
「君がここまでギャルゲーソングを想っていたなんて、 僕は感動した!」
「……金本?」
あまりにも大きすぎる叫びに、荒木たちは驚く。
「岩崎君の言う通りだ! 僕らのギャルゲーソングを広めるには、 地元だけでは意味がない! すべての人に良さをわからせてやるのだ!」
そうさらに叫び、金本は立ち上がる。
「やろうじゃないか! ギャルゲーソングを広める本格的なバンドとして!」
「いいのかよ……」
「金本はもともと、日本中にギャルゲーソングを広めたいと昔から話していたからね」
「あっ、あいつは単純だからなあ」
「ええい! おまえたち、黙らないか!」
そう荒木にたちに話す金本は、僕に手を差し出す。
「岩崎君、君が我が同好会に入ったことは運命だ! ギャルゲーソングを共に広めていこう!」
「金本先輩……はい!」
ガシッと金本の手を握る僕は、力強く答えた。
といったことがあり、僕らの新たなギャルゲーソングを広める活動が始まった。
「それにしても……よくもまあ、思いつくな」
久しぶりに集まった部室で、荒木は感心しながら話す。
「バンドのことになると、すぐに行動に移す岩崎君は恐ろしい……」
金本たちが話す中、僕はギターをケースにしまう。
荷物をまとめ、僕はすっと立ち上がった。
「なにをわけわからないことを言ってるんですか! 先輩たちも準備してくださいよ」
僕らは部活を早く切り上げ、とある所へ向かおうとしていた。ギャルゲーソングを知らないであろう人たちがいる未開拓の地へ。
「はあ、明日は土日で休みなのに……せめてもっと後になってからでいいじゃなあかあ」
「金本先輩……ギャルゲーソングを日本中に知らしめる意気込みはどこいったんですか」
観念したように、金本もギターケースを肩に背負う。
「だが、なぜに東京へ行くんだ? しかも……秋葉原じゃあない!」
「たしかに……まずは、オタクの聖地から攻めていくと思ったんだが」
「だって、秋葉原なんか行ったら先輩たちは間違いなくショップを周るでしょう」
僕らは音楽活動として、東京に行くのだ。決して観光ではない。
ーーまあ、僕も行ってみたいんだけどさ。
まだ見ぬギャルゲーを知ることができる意味では、僕だって行きたい。
だが、僕らの目的は一つ。
「さあ! ギャルゲーソングを聴いたことがない今時の連中がいる渋谷に殴り込みに行きましょう!」
ーー舞台は渋谷。
新幹線に乗り、僕らは行ったことのない場違いな街へ現れた。
シャレたライブハウス。観に来る観客はこれまでとは一味も違う、クセがある人たちだろう。
ライブハウスのステージに立った僕らは、今からギャルゲーソングをやる。
ーーざわざわ。
この手の場所でライブハウスに出演するバンドマンとはイメージが違ったのだろう。
完全に来る場所を間違えたんじゃないかと思われている目が、僕らに集中する。
だが、僕はそんな目線など気にすることなくギターを構える。
ギャルゲーソングを世に知らしめるには、まずは東京から。
この場所から始めなければ、バンドマンとしてもやっていけないだろう。
僕が日本中にギャルゲーソングを広めるために、最初に選んだ活動場所だ。
そしていよいよ、ライブが始まる。
すると、観客がいるほうからヤジが飛んできた。
「あんなオタクみたいなやつが、バンドなんかできんのかよ」
その言葉を聞いた僕は、マイクを掴んで叫ぶ。
「オタクがバンドを組んでなにが悪い! 僕たちだって、最高の曲を弾けるんだ!」
ギターを押さえ、僕は左手を大きく振り上げる。金本たちも、こいつらを黙らせてやろうと同じように構えた。
「さあ、岩崎君! ギャルゲーソングを知らしめてやろうではないか!」
「……はい!」
このライブを見に来た人達に、ギャルゲーソングの良さを伝えよう。
ギャルゲーソングは、決してバカにされるようなものではないのだから。
「さあ、いくぞ! 僕らの弾く最高のギャルゲーソングを」
そうマイクで叫び、僕はギターをかき鳴らす。
世界には、たくさんの音楽に溢れているだろう。常に新しい曲を知って好きになる。それでも、僕らのギャルゲーソングを知らしめるライブは続いていく。
ギャルゲーソングだって、きっと誰かの心に止まるはず音楽だと信じて。
歌い。弾き。そして、伝えていくのだ。
これからもずっと。