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オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
最終章2 ギャルゲーソングバンドの奇跡! 対決バンド編
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第166話「夢のようなライブが終わり、そして夢のライブを追う」

 出演バンドのライブがすべて終わり、あれだけたくさんいた観客ももういない。


 設営したステージもあっという間に片付けられ、公園広場に戻っていく。


「みなさん! イベントの成功と、ライブお疲れ様でしたー! かんぱーい」


「かっ……かんぱーい」


 今は夜の九時が過ぎ、僕らはなぜか居酒屋にいる。


 乾杯の音頭を取った高山さんは、機嫌良くジョッキを一気に飲み始めている。


「先輩……いいんですか? 僕らが、こんなところにいて」


「くちゃくちゃ……うぇ? いいんじゃないか、焼き鳥美味いぞ岩崎君」


 皿に盛られた焼き鳥を、口に含みながら金本はむしゃむしゃと食べている。打ち上げをやるとは聞いてはいたものの、まさか居酒屋とは思わなかった。


 居酒屋に行くのは初めてで、高校生である僕らがいて大丈夫なのか。そんな不安が頭を駆け巡る。


「まあお酒は飲まないんだし、大丈夫だよ。それに……」


 和田がそう話して目を向けた先には、山本先生がテーブルで酒を飲んでいた。


「引率とはいえ、仙道たちの学校の先生と飲んでいるとはな」


「シスターも……お酒飲むんですね」


 今回のイベントには他校との交流を兼ねたものでもあるが、これは許されるのだろうか。


 僕はそう思いながら、ジュースを飲む。


 みんながわいわいと騒ぐけれど、ライブではすごい演奏をしたことに違いない。


 ライブを振り返ると、今回はすごい人たちと一緒にやったんだなと実感していく。


「なにびびった顔してんだよ、ライブの後の打ち上げくらい楽しめよ」


「……仙道」


 僕に気がついた仙道は、コップを片手にこちらにやって来る。話した後、彼は僕のコップにジュースを注いだ。


「今回のライブは、ほとんど高村さんたちのバンドが持っていっちまったな」


「たしかに……観客の盛り上がりも、一番大きかったかも」


 正直、高村さんたちのライブは見ていない。


 あの時は楽屋で動けなかったし、自分たちのライブの余韻に浸っていたからだ。


 それでも遠くから聞こえていた観客の歓声から、その盛り上がりは一番だったのだろう。


「ちっ! 俺たちが提案したイベントなのによ、あの人が全部仕切りやがって」


「けど、高村さんたちがいなければあんな大きなイベントにはならなかったはず」


 ライブ会場の確保から、スタッフの配置。観客へのチケット販売まで、すべてが高村さんたちのおかげだ。


「やっぱり、学生の僕らにはイベントを企画するには早かったのかなあ」


「いーや! 違うな」


 仙道はガタンとコップをテーブルに叩きつけて、そう答えた。


「単に、俺たちがまだ名も無きマイナーバンドだってことだ! もっと有名になってたらイベントくらいすぐ出来るんだよ」


「お、おお……」


 いきなり語り出す仙道に、僕は驚く。


「けど、仙道たちのバンドも盛り上げてたじゃないか。一番手だったのにすごいよ」


「あんなので満足するか! 俺たちは最強最高のロックバンドを目指しているんだよ」


 まるで酒飲みの酔っ払いみたいに、妙なテンションで仙道は話している。


「まだまだだな、俺たちも……おまえらも」


 たしかに、ライブは成功した。


 観客の人たちに、ギャルゲーソングの良さを知ってもらえた気がした。


 だが、高村さんたちのバンドがすごかったのか本当に僕らのライブは記憶に残っているのだろうか。


 すべてのライブが終わり、観客たちにはどのバンドが一番だったのかはわからない。


 そう考えると、僕らのギャルゲーソングを広めていく活動はまだまだだ。


「次のライブは、もう決まってるのか?」


「いや、まだ先のことは決めてないよ」


 仙道の問いに、僕はそう答えた。


「なら、すぐにイベントを考えろ! バンドマンってのはどんどんライブをやらねーと忘れられちまうんもんだ」



 たしかに、言っていることもわかる。


 仙道たちは本格的なバンドマンとして、活動している。それは最高で最強なロックバンドを目指しているからだろう。


 ーー逆に、僕らはどうなのだ?


 僕たちは部活動として、ギャルゲーソングを広めるためにバンドを組んだに過ぎない。


 決して本格的なバンドマンとやっていくとは考えていないのだ。


「俺たちはまた曲を作って、次は全国のライブハウスでライブをやる計画だ! やれるかはわかんねーがな」


 そう話した仙道は立ち上がって、有本君たちがいる席に戻ろうとする。


「あー、それと……」


 なにか言いかけようした仙道は、立ち止まってこちらに振り向く。


「おまえらのライブも悪くなかった、ギャルゲーソングだっけ? いい曲もあるじゃねーか」


「あれ? 仙道、たしか認めねー! とか言わなかったっけ?」


「認めてねー! 俺たちの曲が一番だ!」


 そう言いながら去るも、彼の姿に僕はニヤリと笑う。


 ーーまたどこかで、一緒にライブをやろう。


 そう心の中で言いながら、僕は仙道を見送った。


「全国に向けてのバンド活動か……」


 仙道たちはすでに次の目標があり、前に進んでいる。バンドマンとして。


 僕は、どうしたいのだろうか。


 このまま部活で弾くだけでいいのかと、

思いながらまたジュースを一口飲む。


「岩崎君、彼となにを話していたんだ?」


「え? いや……特にたいしたことでは」


 和田が尋ねてそう答えた僕は、みんなを見る。


 僕にとって彼らは、最高の同好会メンバーでありバンドのメンバーでもある。


僕はみんなの顔を見ながら、ある思いを新たに考え始めていた。


「そういえば結局のところ、岩崎君が見た夢のライブって今日のやつだったのか?」


 荒木は唐突にみんなを囲んで話すと、みんなが僕を見る。


「うーん、そう言われると今日のライブだったような……けど、違うような」


 ライブが始まる前にステージを下見した時には、このイベントがそうだと思っていた。


 けれど、なにか違う。夢のライブの僕らは、もっと輝いてみえた。


「となると、別の場所でライブか」


「ならば! まだ知らない場所で、ギャルゲーソングライブだ!」


 金本の言葉を聞いた僕は、先ほどから考えていたことが次第に大きくなる。


 ーーそうだ、もっと僕らの弾くギャルゲーソングはまだ先があるんだ。


 僕はみんなに向けて、口を開く。


 きっと、金本は反対するかもしれない。けれど、僕はみんなと一緒にこれからもライブをやっていきたい。


 これは、僕からの新たな誘いであり、次なる目標になるものでもあった。

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