第165話「すべてのライブは終わり、僕は倒れた」
光り輝く、ライトの眩しさ。
たくさんの観客が歓声を上げ、盛り上げるステージ。バンドマンならば、きっとこんな空間を望んでいるのだろう。
ギャルゲーソングを弾くバンドの僕らは、まさにその空間の中で熱く弾いている。
ーーギュイィン! ジャジャァァーン!
ギターは激しく歪み、テンポよくリフを奏でる。
スピーカーから爆音が鳴り、ステージから観客がいるところへ伝わっていく。
岡山が叩くパワフルなドラム。荒木が弾く安定したベースライン。この日の彼らは、間違いなく今までにない最高な演奏をしていた。
その音に観客は、さらに盛り上がっている。もちろん、金本や和田が弾くギターサウンドも負けてはいない。
そのテクニックを、これでもかと言わんばかりに披露する。全員の息が合わさった音は、乱れもない完璧なものだ。
そんな音に包まれ、僕と響子は声が枯れてしまうくらい大きな声で歌う。
最初はゆっくりと、次第にテンポが速くなる。
この曲は、一曲なのに二つの曲調がある。ゆったりとした曲から、後半にはアップテンポへと変わるものだ。
いまさら思うことだけど、よくこんな曲を作れたものだと驚く。
ギャルゲーソングに対する想いが詰まっている曲を、僕らはライブで演奏している。
僕は、ちらりと観客がいるほうに目をやった。
最前列のほうには、かなたや鏡香の姿が見えた。
ーーかなた。なんで、あんなにはしゃいでいるんだよ。
僕らの弾く演奏を見つめながら、ひなたは体を動かしノッていた。鏡香は、ただ黙って曲に耳を傾けている。
その様子から、彼女らにはオリジナルソングを受け入れてもらっているようだ。
彼女らだけでなく、生徒会長や山本先生もこちらに歓声を上げている姿がはっきりとわかった。
ーー会長もなんだかんだで、見に来ているじゃないか。
あれだけ僕らに厳しい態度を取っていた会長も、ライブに来てくれたのは素直に嬉しい。
「ヘーイ! 岩崎ボーイ、もっと曲をエンジョイするデース!」
そう叫びジャスティンさんの声が、かすかに聞こえる。
ジャスティンさんがいなければ、僕らはいろいろなことができなかっただろう。
あの時、僕らが出会わなければ今回のライブにも辿り着かなかった。
ーーそうだ、みんながいたから僕らはギャルゲーソングをライブで弾けていたんだ。
人と出会い、様々なことが起きてギャルゲーソングを弾くことができたことに僕はそう感じていく。
少なくとも、僕らに関わってくれた人たちには僕らの想いが伝わっている。
ーーギャルゲーソングは、みんなの心に響かせることができる。
それがはっきりとわかる瞬間だった。
僕も弾くギターが、より激しくなる。すべての感情を六本の弦から、表されていくように。
今この場にいる、すべての観客に伝えたい。
ギャルゲーソングは、こんなにもいい曲がたくさんあるのだと。
曲は進み、曲調は変わって疾走していく。
イントロからのゆったりとしたメロディはなく、まったく違う曲になった。
それを聴く観客は、驚きと同時に歓声がさらにヒートアップする。
ただがむしゃらに、そして加熱する会場に僕らはひたすら弾き続けていく。
歓声。人のうねり。
僕らの弾くオリジナルソングが、会場を沸かせていた。
初めての人前で演奏、途中の雨で機材はそこまでいいものじゃない。
けれど、たしかに僕らの曲は届いている。そう思うくらい、この瞬間を楽しんで弾いていた。
ーージャージャーン! ジャァァァン!
すべて弾き切り、僕らのライブは終わろうとしている。
すでに体力は限界。汗だくになり意識がぼけやる中、僕はマイクを握る。
「はあ……はあ、ありがとうございました」
もっと言いたいことがあったのに、僕は一言だけしか言えなかった。
「すげー良かったぞー! ギャルゲーソング? よくわからないけど、いい曲だった!」
観客の誰かが、そう僕らに向かってさけぶ。
そして、割れんばかりの拍手が大きな音になって響く。
ーーよくわからないじゃあないだろ……ギャルゲーソングってやつは。
そう思っている僕の意識は次第になくなっていく。
真っ白な光景が広がり、その場に倒れ込んだ。
ーーやっぱり、ライブで弾くギャルゲーソングは最高だな。
そこで僕の意識は、なくなった。
「ばっしゃああああん!」
「うわああ! 冷たい、なんだ?」
僕は目覚めるように起き上がると、そこは楽屋の中だった。
頭はなぜか濡れていて、目の前にはペットボトルを持った金本がいる。
「まったく! 最後の最後で気絶するなど、けしからん!」
「けど、驚いたよ。岩崎君がいきなり倒れるんだもん」
そう話す和田だが、その場に座り込んで動かない。
「まー、それだけキョウちゃんが全力でやった証拠じゃーん?」
「いっ、岩崎君だけじゃないよ。僕ももう少しで、倒れそうだったよう」
「岡山……おまえは、パンでも食えば復活するだろうが」
冗談を言う荒木や響子も、和田と同じく疲れ果てている様子だ。
なんの未練もなく、ライブをやり遂げたみんなは疲れながらも満足している。
「きさまらー!」
この中で一番元気である金本が、大きな声で叫ぶ。
「……ありがとう。久しぶりにギャルゲーソングを、そして最高のライブができたことに感謝している」
先ほどまでの調子とは違い、真面目な顔で金本は頭を下げる。
バンドを組む前は、ギャルゲーソングのライブなんてしたことがなかった同好会。
金本の強い願望である、たくさんの人たちにギャルゲーソングを知らしめる。
今日のライブでも、それがきっと少しは叶ったのだろう。
「わああああ! きゃあああ!」
いきなり、大きな悲鳴と歓声が聞こえ始めた。
「ああ、高村さんたちのバンドがライブをし始めたね」
僕らが演奏した時よりも遥かに大きな歓声。
「僕ら……ギャルゲーソングの良さを知ってもらえたんでしょうかね」
倒れる僕は、またそうみんなに尋ねる。
「実際はどうかわからん! だが……僕は信じている」
「ですねえー。でも、今は最高のライブができた余韻を感じましょうよ」
みんなは、ただ黙ってうなずく。
ギャルゲーソングを知らしめることが叶ったと思うよりも、ライブをやった達成感が勝っていた。
こうして僕らのやるギャルゲーソングライブは、無事に終わりを迎えるのだった。