「お兄ちゃんがオタクになりそうで気持ち悪かった件」
主人公の妹をメインにしたお話を書いてみました。
本編とはあまり関係ないですので
読み飛ばしてもらっても大丈夫です!
夜、兄の部屋からいつもようにギターの音が聞こえてくる。
私、岩崎 若葉はギターの音を聴きながら考えていた。
「昔みたいにやらかさないかなぁ」
私は兄の恭介について、少し振り返ってみる。
「お兄ちゃんがギターを始めたのっていつからだっけ?」
昔、家族でバンドのライブを見に行ってからだろうか。テレビかラジオで、聴いた音楽を好きになってからだろうか。
とにかく、私たちが知らない間にいつのまにかギターを始めていた。
中学でもバンドがやりたいと言って、いろいろやらかしたらしい。学校に軽音部がないと知ると、校長に直談判。
音楽室にエレキギターがないと、吹奏楽部に備品購入させる。などといった問題行動を取ることで有名だった。
「はあ……高校生になったらさすがに大丈夫よね」
そう思いながらギターを手に持つ。私自身も兄に影響されて、ギターを始めた。
センスがあるのか、兄よりもギターがうまいと親に言われている。
ーージャラーン!
ギターを軽く弾くと、私はカバンから楽譜を取り出した。
私は中学でバンドを組んでいる。
以前は吹奏楽部に所属していたけど、ガールズバンドが校内で流行りだしたらしく。
多くの生徒が先生にお願いしたら、軽音学部が設立されてしまった。私を含む、数人の生徒が軽音学部に入部し直した。
そのことを兄に話すと、すごい悔しがっていた。
私は学校でのライブに向けて、頑張って曲を覚えている。
「今日までに、サビのとこまでは覚えたいな」
兄の心配をとりあえず置いておいて、楽譜とにらめっこをする。すると兄の部屋からギターの音が消え、なにか話し声が聞こえる。
「お兄ちゃん、大好きだって? バカ……僕だって大好きだよ」
ーー兄の声だ。
私はその声を聞くと、ザワザワと寒気がした。
今まで聞いたことがない気持ち悪い声で、兄がしゃべっている。
「うわ、なに? キモい……」
私は思わず、そう口に出してしまう。
さらに兄の部屋からは気持ち悪い声が続く。
「もう! 練習に集中できない!」
私はギターの練習をやめて、布団の中に入り込む。
寝ようとするも、その日の夜は兄のせいで眠ることができなかった。
次の日、私は朝食の時に兄を睨みつける。
ーーあんたのせいで寝れなかったじゃない。
そう私は、心の中で思っていた。
おそらくなにかのゲームをしていたのだろう。女の子の声や音楽も聞こえてきたので間違いない。
いわゆるオタクがやるようなゲームをしていると私は考えていた。
「……ごちそうさま」
私は朝食を済ませると、すぐに学校へ向かった。
「あっ、若葉ちゃん! おはよう」
教室に入ると、友達の美月ちゃんが話しかけてきた。
「オハヨウ……美月ちゃん、今日も元気だね」
眠たい顔をした私は、だるそうにあいさつを返した。
「若葉ちゃんどうしたの? 顔が死んでるよ」
心配した美月ちゃんはそう話してくる。
「いやあ、寝不足で」
兄のせいで寝れなかったとは言えず、私は適当な理由でごまかした。
「もしかして、ギターの練習をやりすぎたんじゃない?」
彼女もまた、私と同じく軽音学部でベースをしている。美月ちゃんと私は、一緒のバンドを組んでいるメンバーの一人。
「まあ……ね。ライブで演奏する曲って難しいから、つい夜更かしを」
彼女からの言葉に私はそういう理由にしておくことにした。しばらく美月ちゃんと会話をしていると、クラスの男子が盛り上がっている。
彼らがなにかのアニメかゲームの話をしていると美月ちゃんは私に言う。
「なんか気持ち悪いね、あれっていわゆるオタクでしょう?」
男子生徒は妹がかわいいとか、なんとか会話をしている。
「妹が可愛いとか、アニメやゲームで言う人っているの?」
はははと私は苦笑いをしながら、美月ちゃんに話を合わせる。
ーー言えるわけない、私の兄もそんなことを言っていたとは。
放課後になると、私たちは部室でバンド練習をしていた。
四人でバンドを組んで練習している私たちは、人気のガールズバンドの曲をコピーしている。
「いい感じじゃない? 形になってきてるみたい」
全員で音を合わせると、それなりにうまく弾けていると私は思った。
「やっぱりいいよね、この曲! 」
流行りの曲をコピーすれば、ライブで盛り上がること間違いなし。私たちは練習を終えると、好きなバンドについて語り合っていた。
帰宅して部屋で着替えている途中、また兄の部屋からなにか聞こえる。
「今度はなによ……いい加減にしてよね」
アニメを見ているのだろうか、それっぽい音がする。
ーー今まで、ギターだけしかやっていない兄がアニメにハマるなんて。
私は兄が心配になってきた。しばらくすると、今度はギターを弾く音が聞こえる。
「いったいなにがしたいのよ、お兄ちゃん」
その後も、アニメ、ギターと繰り返すように兄の部屋から音が聞こえてきたのだった。
ーー数日後。
私はいつものように教室で友達と話していると、クラスの男子が話しかけてきた。
「なあ岩崎、おまえの兄ちゃんって有名人なの?」
私は、はぁ?という感じでどういうことか聞いてみた。
「いや、俺の姉ちゃんが学校で岩崎が変な音楽に合わせてギター弾いてたって笑ってたからさ」
彼はそう言うとスマートフォンを取り出した。そして画面を私に見せる。
動画だろうか、そこに写っているのは確かに私の兄だ。動画を見ると、兄が家で聴いていたアニメやゲームの音楽に合わせてギターを弾いている。
「これってあれだろ? アニメの曲じゃね?」
気がつくと私はスマートフォンを強く握りしめていた。
ひび割れるような音を立てたスマートフォンを男子生徒に返す。
「おっ、おい! 画面が割れてんぞ」
男子生徒の言葉を無視した私はその場は崩れて落ちる。
「お兄ちゃんが、オタクになっちゃった!」
そして私は嫌な予感をする。
兄はオタクが聴く音楽を、バンドでやるのではと。私はそうならないように、神様にお願いをしながら一日を過ごすのだった。