第163話「僕らのギャルゲーソングライブ!」
ステージの照明が、僕らを照らす。
背景にはスクリーンに映る、ギャルゲーの映像。
その中で、僕らは爆音で楽器を鳴らす。
ーーギュイィン! ジャカッジャカ!
六本の弦が激しく揺れ、そこから曲のコードが鳴る。僕の押さえる指はしなやかに動き、出したい音をきちんと出せている。
一曲目は、何度も弾いてきた最初にみんなでコピーをしたギャルゲーソング。
エレクトロな曲調をロックにアレンジされた曲のイメージは、がらりと変わっていた。
響子のボーカルが音程を外すことなく歌い、僕が歌う声と綺麗にハモっていく。
弾いて歌うことにも慣れて、歌とギターがこんがらがることもない。
「岩崎ボーイ! ユーはリードコーラスボーカルになるのデース」
歌う途中、ジャスティンさんに初めてそう言われたことを思い出す。
意味がわからないと最初は考えていたけど、バンドで歌っていく中でその良さを知る。他のバンドにないパート構成で演奏するには、斬新だった。
ーーハモりをメインに置く構成、悪くないよジャスティンさん。
あの時、そう話してくれたジャスティンさんに感謝しつつ僕はハモりを歌う。
観客はまだ盛り上がってはいない。あきらかに戸惑っているように見える。
ギャルゲーソングという未知のジャンルに、どう反応していいかわからないだろう。
それを打ち破るように、金本と和田のギターが炸裂する。
テクニカルな技法を駆使し、原曲のギターパートをぶち壊していく。
本来あるはずのないギターテクニックが、より曲をアレンジしているのが肌で感じる。
ーーまだ一曲目なのに、先輩たちは大丈夫なのか?
最初から全力で弾く金本たちに、僕はそう思っていた。
しかし、徐々に観客の反応が変わっていく。ギターの音色に惹かれたのか、曲自体を気に入ったのか。
少しずつではあるものの、曲を受け入れているかのような雰囲気だ。
ーーこりゃあ、たしかに全力で弾かなきゃダメだな。
ギャルゲーソングの魅力を伝えるには、金本たちのように力を出すしかない。
僕はギターに合わせ、思いっきり歌う。
まだライブは始まったばかりだが、いきなりの全力に体力が持つかなど考えはしない。
ただ僕は、自分の想いを込めてギャルゲーソングを歌い、弾くのだ。
一曲目もサビ、Bメロと進んでそろそろギターソロに入る。
金本のギターソロだ。
僕が金本のギターソロを聴いて、そのうまさに驚いたのだから観客もきっと同じ気持ちになるはず。
ーー金本先輩、ギターソロは頼みましたよ。
そう目で合図を送り、金本は任せておけと言わんばかりに体を動かしている。
そして、金本のギターソロが始まろうとしていた。
「きえええい!」
テンションが上がっている金本の奇声がこだまする。
それと同時に、金本はギターのポジションをいっきに下げた。
ーーギュワァァン!
ギターの高音が、アンプから鳴り響く。
素早い音の連打が鳴り、左手はまるで生きているかのように気持ち悪く動く。
チョーキング、ハンマリングによる技法。そして、金本が見せるライトハンド奏法。
原曲にないソロを、見事に作り上げていた。
その金本の姿に、何人かの観客が見入っているのを僕はリフを弾きながら見つける。
僕らは金本のギタープレイに、食らいつく。
曲がめちゃくちゃにならないように、そこは気をつけなければならない。
ーー岩崎君、僕も金本のソロに合わせるよ。
和田は僕にアイコンタクトを送ってくる。
あのソロについていけるのは、和田しかいない。
この際、ギャルゲーソングだけでなく僕たちの演奏もすごいと知らしめてやろう。
僕はみんなにギターの音でそう伝えると、さらに音が激しく鳴る。岡山のドラムは勢いを増し、荒木のベースが曲のリズムを支えるように重低音が走る。
そして和田の弾くギターが、コードからソロに切り替わった。
ーーキュイィィィン!
金本と同じように、高い音が放たれて二つが一つに重なる。
ほぼアドリブに近い金本の弾くギターソロに、和田は見事にハモらせて弾いている。金本たちは互いに顔を合わせ、気持ちよさそうに弾き合っている。
岡山や荒木も、ソロを聴きながら同じように演奏していた。
ーーさすが、多くのギャルゲーソングが大好きな先輩たちだ。あの四人には、敵わないな。
金本たちの弾く姿を見た僕は、初めて彼らの演奏を見たことを思い出した。
僕にギャルゲーソングを演奏してくれた時と変わらず、本当に楽しんで弾いている。
だから僕は、彼らと一緒にバンドをやりたかったのだ。あの楽しい輪に、僕も加わりたいと思えたのだから。
すると、観客がいるほうから歓声が上がる。
あの時の衝撃が、僕らの演奏を聴いていた人にもきちんと伝わっている。
それくらい、歓声が大きくなっていった。
ーーよーし、負けていられないな! 僕だって歌とギターでさらに盛り上がてやる。
ギターソロも終わりが近づき、僕はマイクに近づき直した。
響子と呼吸を合わせ、一緒に歌う体勢に入った。再びボーカルパートになり、曲のラストまで全力で歌う。
あれほど最初に冷めていた雰囲気も、次第に熱気に包まれていく。
ギャルゲーソングも悪くはないなと、思ってくれているのを肌で感じる。
今、まさにギャルゲーソングでライブ会場は盛り上がりつつあった。
ーージャララーン! ジャーン!
一曲目が終わり、僕らも体から汗が止まらない。
まだ、残りの曲もある。
この日のために新しく練習した新曲、それに僕らが作ったギャルゲーソング風のオリジナル。
ギャルゲーソングの可能性を、ライブを見に来てくれた人たちにすべてぶつけよう。
息を切らしながら僕は次の曲のタイトルを言おうとマイクを持とうとした時、金本が僕からマイクを取り上げる。
「ぜえ……ぜえ、次の曲もギャルゲーソングです! これまたかっこいい曲で……」
「ちょっ! 金本先輩、マイクを返してくださいよ」
息を切らしながら、金本に取られたマイクを奪い返そうとする。
「さあ! さらにギャルゲーソングの魅力に、酔いしれるがいいいい!」
もう半分はぶっ壊れているんじゃないかと思うくらい、金本はテンションが高い。
せっかく場が盛り上がってきたのに、金本のハイテンションでまた冷めてしまう。
それだけは死守しなければと、まるで漫才のようにステージで騒ぎ出す。
「いくぜ! 次の曲は……最高ニジマス釣りだああああ!」
ーーえ? そんなタイトルだっけ?
勝手に曲のタイトルを告げ、ギターを弾き始める金本。
「というか、なんだよ……最高ニジマス釣りって」
そう疑問に思いながらも、僕はギターをはじいた。