第162話「僕らの想いをライブに込めて〜ライブスタート!」
今までで、一番緊張するライブかもしれない。
仙道たちのライブが終わりが近づき、いよいよ僕らの番が回ってくる。
「ついに……ライブだ」
念入りにギターのセッティングをやり、僕はそう口にしてギターを握る。
「しかし、会場の熱気がすごいね」
「それだけ、あいつらのライブがすごかったってことだろ? 盛り上がりを見たらわかる話しさ」
同じく出番を待っている和田たちが、そう話していた。
そんなことを言わせるほど、仙道たちのライブはすごかった。
「ふ……ふん! まあ、曲はかっこよかったがギャルゲーソングには劣るな。しかし、悪くはない」
「金ちゃん……すでに曲がよかったって言ってるなら、それは認めてることよー?」
「ばっ、馬場さん! それを言ったら、金本が不機嫌になっちゃうよ」
ライブが始まろうとしているのに、どこか緊張感がない響子たち。
ーーこんな感じで、ライブは大丈夫なのかな?
僕がそう思っている間に、ステージに上がる時間が迫る。
「よーし! この良い流れにあやかって、ギャルゲーソングを披露するぞ!」
金本は気合いがこもった声で話し、僕らはうなずく。
「ジ・アゴットさん、そろそろ出番です! 頑張ってください」
「はい!」
スタッフさんに誘導され、僕らはステージへと向かう。ステージへと上がる足は、不思議と重くない。
ーーサワザワザワ。
観客がいる側から、次のバンドを待つようなざわつきを感じる。
「大丈夫だ……僕たちならやれる」
そう小さくつぶやいた僕らは、ステージに上がった。
それぞれが自分の立ち位置に移動して、僕もマイクスタンドがある真ん中に歩む。ギターをシールドケーブルに繋げ、足元のエフェクターを確認する。
下を向いていた目線は、真っ直ぐ観客がいるほうへと向ける。数百という人の数が、会場を埋め尽くしているのだ。その光景は圧巻だ。
これから、僕らのライブが始まろうとしている。
ーーまずは、なにかしゃべらないとだよな。
ライブが始まる前に、なにかしら話さないといけない。
たくさんの人がいる前で話すのは、正直苦手である。
僕は不安になりつつマイクを握り、しゃべろうと顔を近づける。
ーーゴツン! キィィィン。
勢い余って僕はマイクに頭をぶつけてしまい、そのはずみでハウリングが起きてしまう。
耳障りな高音がスピーカーから鳴り、会場に響き渡る。
仙道たちのライブで熱気があった雰囲気が、サーッと冷めていく。
「岩崎君、緊張するでない! リラックスリラックス!」
「や、やっぱり……緊張が」
金本が声をかけてきて、僕は小さな声で
そう伝える。
リハもなし。ましてや仙道たちのライブがすごかったこともあり、緊張がマックス状態だった。
「ギャルゲーソングの良さを、この場にいるすべての人に伝えるんだ! 僕らの目的を思い出すんだ」
そう、僕らはギャルゲーソングをたくさんの人に知らしめるためにこの場にいるのだ。
仙道たちと対バンをするみたいな形になってはいるが、本来の目的はそれだった。
ーーここまで来たなら、びびるな僕。
その想いを観客に向かって叫ぼう。曲だけでなく、言葉でも伝えようと僕は再びマイクを握る。
「……僕らは!」
冷め始めてきている雰囲気を打破するために、僕は力強く声を発しようとした瞬間。
ーーティロティロリーン!
変な音が、聞き覚えのある音楽が流れ始めてくる。
僕は思わず、後ろを振り向く。
「こ、これは……」
後ろにはなぜか巨大なプロジェクタースクリーンがあり、ギャルゲーのオープニングが流れていた。
「ははは! 岩崎君、君には黙っていたが高村さんに頼んでプロジェクターでギャルゲーを流してもらったのだよ」
金本は高らかに笑いながら話すが、僕らは誰一人笑っていない。むしろ、なにが起きたかわからずに驚いている。
「金本先輩……なんすか、これ」
「なにって、ライブの前にギャルゲーをまずは見てもらおうと。サプライズ的な?」
「いや、金本……さすがにこれはやりすぎだろ」
完全に静まり返っている会場に、かわいらしい曲が鳴っている状況。
ただ高村さんの笑う声が、かすかに聞こえくる。
ーーざわざわざわ。
いったい、なにが起きているんだという雰囲気に観客がさらにざわめく。
「……これは、むしろ逆効果じゃないか?」
「そうか? やはり、ギャルゲーソングだけじゃなくその作品も伝えなければと」
「いきなりギャルゲーの映像を流されて、 どこの誰がいい反応するかよ……」
金本のやらかしは今に始まったことではないが、さすがのみんなもドン引きだ。
しかし、僕はにやりと笑い口を開く。
「はは! なら、このまま僕らの演奏でギャルゲーのイメージを変えてやりましょう」
そう話した僕はマイクをスタンドから外し、観客に向かって叫ぶ。
「僕たちは男に夢と青春を与えてくれる、このギャルゲーの音楽を皆さんに聴いて欲しい!」
僕のバカでかい声が、会場全体に響く。
心の底から伝えたい言葉を話したことに、なんの迷いもない。
「ふっ、岩崎君のやつめ」
ーー僕だけが、そう思っているわけではないよ。だって、そうだろう?
僕の問いに応えるように、岡山のドラムが勢いよく叩かれる。
それに合わせてくるかのように、ベースやギターの音がフェードインしてきた。
「それじゃあ……まずは一曲目です! この曲は……」
曲のタイトルを告げ、僕は金本たちが弾く音に自分のギターを重ねた。
隣にいる響子もこちらを見ながらうなづき、マイクを口元に当てる。
さあ、僕らのギャルゲーソングをすべての人に聴かせよう。
そう思いながら、僕はマイクに向かって歌を歌い出す。