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オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
最終章2 ギャルゲーソングバンドの奇跡! 対決バンド編
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第160話「リハ! 突然の雨は、僕らを不安にさせる」

 朝からの眩しい太陽の光は徐々になくなっていき、次第に薄暗くなっていく。


 夕方を過ぎた頃、いよいよリハーサルが始まろうとしていた。


「よう、今日は大丈夫なんだろうな? ライブ本番でびびってんじゃないか?」


「仙道……」


 仙道たちはリハーサルのギリギリになって姿を現し、僕にそう話しかけてくる。


「いや、来るのが遅過ぎだろ! 僕らは朝から来てたんだぞ」


「朝から来る必要ないだろ、会場設営は高村さんたちがやってんだからよ」


 悪びれることもなく、それがさぞ当たり前のような口ぶりで仙道は話す。


「そんなことより、もうすぐリハだろ?」


「ああ、高村さんが言うには演奏する順番でリハをやるんだってさ」


「まあ当たり前だろうな、なら俺たちが最初か」


 本番は、仙道たちの演奏からスタートする。その彼らのリハを、これから見ることになる。


「リハって、僕たちは見ていいものなのか?」


「他のライブがどうリハをやるかはわからないけど……今回は見れるんじゃない?」


 金本が尋ねると、よくわからない感じで和田は答えている。今日のライブは今までやったライブとは違く、僕もどう動いていいかわからない。


「まあなんでもいいけどよ、俺たちのリハを聴いたら戦意喪失しちまうかもな」


「いやあ……晴君、さすがにそこまでは」


 横で話す有本君は仙道と違く、どこか緊張している様子だ。


「ライブって、やっぱり緊張するの?」


「……そうですね、僕らはまだバンドを結成して日が浅いんですよ。まだ雰囲気には慣れてなくて」


「シゲ! 緊張なんかする必要はないだろ、俺たちはさらに先を行くバンドになるんだからな」


 バンドを組んで日が浅いことに驚くが、それでも今までライブを成功させてきた実力は間違いない。


 僕らとは違った形で、自分たちの理想的なバンドを作ったのだろう。


「盛り上がっているところ悪いけど、晴樹……早くステージに上がってリハの準備をやれ」


 高村さんが現れると、仙道たちにそう告げた。


「よっしゃ! さっそくステージの感触でも確かめてやるか、みんな! リハをやるぞ」


 仙道が他のメンバーに声をかけると、ケースから楽器を取り出す。


 すぐさまステージに上がり、リハの準備を始めようとしていた。


「岩崎君たちは晴樹たちの次だからね、とりあえず楽器の調整はしておいて」


 僕らにもそう話した高村さんは、どこかへ去っていく。


「あーあー、マイクテス! こら成瀬! スタッフの女をナンパするな!」


 スピーカーから、仙道の怒号が鳴る。


「有本君以外……緊張している様子はないね」


「ええ、とりあえず楽器の弦を張り替えながら仙道たちのリハでも見てみましょうか」


 僕はそ新しい弦が入った袋を開けてながら、そう話す。ギターに張ってある弦を取り外し、ささっと新しいものに交換していく。


「なんか……空が曇ってきたね」


 和田は空を見上げて、ぽつりとつぶやく。


 たしかに日が暮れてきたにもかかわらず

、雨雲らしきものが僕らがいるところにかかっていた。


 雨でも降ったら、せっかくのライブが台無しになる。


「天気予報じゃあ、今日は一日晴れだぞ?」


「けどさー、なんか降りそうじゃない?」


「はは! 雨ごときで、僕らのライブが止まるわけなかろう!」


 嫌な雨雲を見つつ、金本が高笑いをする。


 ステージでは、仙道たちがそれぞれ演奏する位置にいる。


 それぞれ楽器を構えている姿は、まさしくバンドマンといった風に見える。


「……いよいよだな」


 仙道たちのリハが始まろうとしている。


 本番の演奏とまではいかないけれど、どんな音を出すのか。僕の目は、彼らに向けている。


 リハにも関わらず、空気が変わるのを、肌で感じてきた。


 そして仙道たちは今にも楽器を弾こうとした瞬間、ぽちゃんと頭に水が当たる。


「……雨だ!」


 そう口にした途端に、ざざーっと激しく雨が降ってきた。


「やばい……やばいぞ! 晴樹、コンセントを抜け! 機材が濡れて感電するぞ」


「ああ? せっかくのリハだぞ! 感電が怖くて、なにがロックだ」


 高村さんの話を聞かずに、仙道は弾こうとしている。そんな仙道を、スタッフさんが慌てて引きずっていく。


 そんな様子を、僕は口をぽかんと開けて見ていた。


「いきなりの雨じゃあ、リハはできないだろうな」


「ギターが濡れるのはまずい! 僕らも、避難するぞ」


 金本の声を聞いた僕らは、楽器が濡れないように急いで移動する。


 その後、激しい雨がステージを叩きつける。


「機材はどうだ? アンプと電源コードが濡れてないかチェックしろ!」


「ああ! スピーカーがびしょ濡れだ、早く動かせー」


 などと、高村さんやスタッフさんが慌てていた。


 屋根がない、野外でのステージ。雨が降れば、それだけ機材は致命的なことになりかねない。


 せっかくのステージに置かれたアンプやスピーカーは、撤退されていく。


 雨はいっときで、数十分が過ぎた頃にはすでに雨雲も消えていった。


「ちくしょう! たいした雨じゃないのによ、止んだしリハを再開しようぜ」


 僕らと雨宿りをしていた仙道は、そうイライラしながら有本君たちと話している。


「けど……機材をまた設置したりで、時間がかかりそうだな」


 ステージではなにやら騒がしく作業をしているようで、それを見ながら僕はそう口にする。


 ライブ本番まで、そこまで時間に余裕があるわけではない。


 三つのバンドがそれぞれリハをやるとなると、スケジュール的にはギリギリ間に合うかどうか。


「けど、ライブ本番中じゃなくてよかったね」


「ステージに屋根くらい取り付けておけって話だ! なにやってんだよ、高村さんは」


「晴君……さすがにそこまで高村さんに負担をかけなくても」


 僕らがそれぞれ話し合っていると、高村さんとスタッフさんがこちらに向かってくる。その顔は、疲れきったような重々しい。


「お! 高村さん、雨はなくなったしリハのやり直しっすね」


 気がついたら仙道は、高村さんにそう尋ねる。


「晴樹……それにみんなにも、重要な話がある」


 高村さんは僕らに向かって、ある話を始めた。


 ーーライブ本番まで一時間。


 徐々に人が増え始め、会場である広場はたくさんの人が集まり出している。


 高村さんの人脈を使ってか知らないが、かなりの人がライブを見に来たのだろう。


 僕らはそれを、ステージ近くのテントの中から確認していた。


「ついに……ライブが始まりますね」


 本来ならば、ライブをやる高揚感でいい意味で緊張してくる。


 しかし、僕らは違う意味で緊張していた。それは、同じくテントにいる仙道たちも同じだ。


「いや……さすがにこれはどうなんだ?」


「ええ、前代未聞ですね」


 気分はすっかり沈み、みんなの表情は暗い。


「シゲ、それに成瀬たちも楽器の最終調整をしておけ」


「どうしよう……僕、不安になってきたよ」


 ライブの一番手である仙道たちは、落ち着かない様子で楽器を念入りにチェックをしている。


「なんというか……大丈夫か?」


 僕はそんな仙道たちに、そう尋ねる。


 重い空気を漂わせながら、時間だけが過ぎていく。


「本番まで、あと少しです! 晴樹君たちはステージに行く準備を」


 スタッフさんが入ってきて、仙道たちに伝える。


「よっしゃあ! そろそろ行くか」


 ギターを握りしめ、仙道は立ち上がる。


「僕らが言うのもあれだけど、 頑張れよ……仙道」


 僕は仙道たちに向かって、声をかけた。


「ああ、いいライブにしてやるよ。どんな状況だろうとな」


 そう答え、仙道たちはステージへと向かう。


 僕らはそんな彼らの後ろ姿を、見つめていた。


「まさか……リハなし、ぶっつけ本番で演奏することになるなんてな」


 仙道たちがいなくなった後、荒木が小さくつぶやく。


「ええ、どんなライブになるんでしょうか」


 すべてのバンドが、ぶっつけ本番でパフォーマンスをすることになってしまったライブイベント。


 それは、仙道たちのライブから始まろうとしていた。


 誰もが不安を感じながらも、いよいよライブがスタートする。

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