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オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
最終章2 ギャルゲーソングバンドの奇跡! 対決バンド編
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第159話「山林の練習!ささっとマイクテスト!そして...」

 広場を少し離れ、あまり人がいない場所を見つけた僕らは楽器をケースから取り出した。


「ここなら人が来ないし、目立たずに練習ができそうだな」


「しかし……まさか木に囲まれて、ギターを弾くとは思わなかったなあ」


 変な虫がやってきそうな場所で、金本は気分が悪そうな口ぶりで話す。


 けれど自然の中で弾くことがなかっただけに、どこか斬新だと思いつつ僕はギターのチューニングを合わせる。


「時間までまだまだ余裕がありますし、ささっと始めましょう!」


「岩崎君……君はギターが弾ければ、どこでも構わない人か!」


「当たり前じゃないですか、金本先輩! ほら、ぐちぐち言わずに手を動かしてくださいよ」


 全員が楽器のセッティングが終わり、さっそく練習に入る。マイクもないし、アンプも小さなやつでとりあえずはやる。


「岡山先輩のドラムだけ……さすがに無理でしたね」


「まっ、まあそれは仕方ないよ。 僕は、これでなんとかするさ」


 そう言って岡山が取り出したのは、なにやら四角い木箱。


「岡山先輩、それってなんですか?」


「こっ、これ? カホンっていう打楽器で、たまにドラムの代わりに使っているんだ」


「へえー、打楽器にもいろいろなものがあるんですね」


 ドラムの代わりになるのかは、よくわからない僕は軽くそう答えた。


「あくまでリズムを入れる意味では必要だからね、弾いていれば良さがわかるさ」


 ギターを背負っている和田はそう僕に話すと、岡山に叩く合図を送る。


 全員が楽器を構え、いよいよ練習が始まる。


「それじゃあ、本番までに確認を込めて全曲を通して弾くよ」


「よーし! いっちょ、やってやるか!」


 金本の気合いがこもった声と同時に、曲を演奏する。


 これまでたくさんの練習を繰り返してきた曲のすべては、楽譜などいらないくらいみっちり覚えている。


 木々に囲まれている自然の中で、僕らの弾くギャルゲーソングが鳴り響いた。


「うむ……やはり、いつもと違う環境下なのかイマイチな音だな」


「それは仕方ないですよ、でもどの曲もうまく弾けてましたね」


 練習が始まってしばらく経った後、そんな話をみんなでしている。


「カホンの音が意外にしっかり鳴ってて、驚きましたね。雰囲気がガラッと変わりましたし」


「路上ライブで使う人もいるからね、ライブ本番には使わないけど」


 岡山の叩くカホンの音色に僕が感心していると、僕らの目の前に人が通っていく。


「なんか……チラチラと見られていますね」


「普通に公園の通り道でもあるしな、たまに人が来るのは仕方ないさ」


「けど、まさかギャルゲーソングを弾いているとは思われないでしょう」


 こんなところで、楽器を弾いて歌っている。それも、普段なら聴く人が限られるギャルゲーソングを。


「まあギャルゲーソングだと言わなければ、ただの学生が部活をやっていると思われるだけさ。 あまり、 気にすることはない」


「ですね……ギャルゲーソングだと言わなければ」


 本当はギャルゲーソングだと言ってやりたい。馴染みがないジャンルの曲だけど、決して悪いものではないんだから。


 僕がそう思いながら、歩く人たちがいなくなるのを待っていると金本がいきなり立ち上がる。


「僕らはギャルゲーソングを弾いていますよー! 可愛い女の子がヒロインの、それは甘酸っぱい青春王道ゲームでーす!」


「ちょっとちょっと! 金本先輩、いきなりなにを叫び出しているんですか」


 歩く人に向かって叫ぶ金本に僕がそう話しても、ひたすら大声で叫び続けた。


「ふふふ……なにをそんな慌てる必要があるのだ? 岩崎君、僕らがギャルゲーソングを広めるために存在しているのだぞ?」


「いや、そうですけど……そんな細かくギャルゲーのことも言わなくても」


 ギャルゲーソングの素晴らしさを伝えたい金本の気持ちはわかるが、知らずに聞いた人たちの反応はあまりよくはない。


「まあ、金本の暴走は今に始まったことではないしな。構わずに、練習を再開しよう」


 荒木はそう話してベースを構えると、ゆっくりと弾き始めた。


 それもそうだと思う僕もギターを弾こうとした時、突然僕らを探す声が聞こえてきた。


「おーい! いたいた。そろそろステージの音響をセッティングする時間だ、マイクテストをやるんだろ?」


 僕らを見つけた、おそらく高村さんの知り合いの人がそう話しかけてくる、


「もうそんな時間なんですか? あれ、練習ってかなりしてましたっけ?」


 練習に夢中になってやっていたのか、すでに時間は約束の三時間になろうとしていた。


「高村さんがお呼びだ、ささっとステージまで戻ってくれ」


「練習はここまでか、まあ本番でも大丈夫だろう!」


 金本は自信たっぷりに話すと、楽器をケースにしまう。最後の練習も、よくわからないうちに終わってしまった。


 高村さんの知り合いに言われ、ステージへと向かう。


 ステージがある広場に戻った僕の目は釘付けになる。


「すげえ、野外フェスみたいなステージになってるじゃん」


 高村さんたちが作り上げた、ライブステージ。それはまさにプロがやるような、立派な会場が作られていた。


「おお! 岩崎君たち、やっと来たか」

 

「高村さん、すごいですね! 短時間でこんなすごいステージを作れるなんて」


「ははは! 俺たちも久しぶりのライブだからな、やるからには派手によ」


 高村さんは機嫌が良さそうに話すと、さっそく僕らをステージに上げる。


「さっそくで悪いんだが、ささっとマイクの音量を確認したいから誰かマイクスタンドで声を出してくれないか?」


「ここは岩崎君がやるべきだろう、僕はバンドのボーカルでもあるし」


 みんながステージに上がっている中、和田がそう提案する。


 ボーカルは僕だけではなく、響子だってそうだ。ならば、二人でやったほうがいいと僕は話す。


「あたしはパスー、キョウちゃんに任せるわー」


 ーーこれじゃあ、みんなで手伝う意味がないじゃないか。


 結局のところ、みんなは手伝いをする気がないことに僕はため息をつく。


「誰でもいいから、マイクに向かって歌うか話すかやってくれ! 時間が惜しい」


「はっ、はい!」


 高村さんに急かされながら、僕はステージの真ん中にあるマイクスタンドまで歩く。


「よーし! マイクテストのほうは岩崎君、君に任せる」


 高村さんはスマホを取り出して、どこかへ電話をかける。音響を担当する人に連絡をしたのか、マイクからは軽いノイズ音が入った。


「そんな特別なことをするんわけじゃないから、サクッとやってくれ」


 僕はそう軽く説明され、マイクスタンドに体を近づける。


 ーーとりあえず、なにをしようか。


 声を出せばある程度はいいんだろうけど、せっかくステージに立っているのだ。

 ふいに正面を向いた時、僕はなにかを感じ取った。


「よーし! それじゃあマイクテスト、やります!」


 マイクに向かって叫び、少し間を開けて僕は歌う。ただ純粋になにも考えず、自然と歌を口ずさむ。


 バンドの演奏もない、僕だけの歌声がマイクを通してスピーカーから聴こえてくる。


 マイクの音量を調整するためのテストに過ぎないのに、本番で歌う気持ちで歌い続けた。


「こりゃあ……俺たちも気合いを入れて演奏しなきゃだな」


 音響スタッフさんからオーケーサインが出た後、みんなのところへ戻った時に高村さんが小さくつぶやいた。


 ーーライブ本番まで、残りわずか。


 それぞれの思いが交錯する中、ライブが始まろうとしていた。

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