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第十四話 「人には隠された才能があるんですよ! 」

 ボーカルが決まり、バンドの練習が本格的に始まった。


 金本が書いた楽譜を参考に、ギターを覚えていく。週に一度は、楽器店の貸しスタジオを利用して全員で音合わせ。


 そうじゃない日は、個人で練習という形になっている。


「歌いながらギターを弾くとか、やっぱり無理じゃないか?」


 そう言うと、ボーカルが決まった日のことを思い出す。


「どうして、僕がボーカルなんですか?」


 金本の発言に、僕は納得せずにいた。歌を歌うならば、僕より上手な人がやるべきだろう。


「岩崎君の歌はひどかったよ? だからこそ、やってもらいたい」


 金本はそう僕に話すと、その理由を話し始める。


「君の歌を聴いた瞬間、他の三人にはないものを感じたんだ」


 金本は先ほど書いていた紙を取り出すと僕に見せた。そこには、歌った時の特徴が細かく書かれていた。


「岩崎君はうまく聴かせるより、感情をダイレクトに伝える声をしている」


「バンドをやるなら、うまさよりも感情をぶつけることができるバンドにしたいんだ」


 ーーなにを言ってるんだ? バンドをやるなら、すべてうまくないと意味がない。


 そうでなければ、前に僕が演奏した時の冷めた雰囲気になると思った。


「僕はね、どんなに下手な演奏や歌でも楽しくやっているバンドのほうが好きだよ」


 言い返そうと思ったが、その言葉を聞くとなにも言えない。


「岩崎君は、どういうバンドがしたいんだ?」


 和田が突然、会話に入るなり僕にそう尋ねた。


「え? どういうって……」


 ふと考えると、うまいだけのバンドをしてなにが楽しいのか疑問に思った。ただ演奏を聴いた人から、すごいと言われたいだけではないかと。


「僕がやりたいバンドは……」


 そう。どんなバンドをしたいかなど、決まっている。


「みんなと笑って、楽しいと思えるバンドがしたいです」


 最初に金本たちの演奏を見た時に、彼らは楽しそうに弾いていた。その姿を見た僕も、こんな感じのバンドをしたいと思ったはずだ。


 僕の言葉を聞くと、金本たちは笑顔でこちらを見ている。


「うむ! そういうことだよ、岩崎君」


 金本は突然、ギャルゲーソングを流し始めた。


「僕は、アニメやギャルゲーから音楽の楽しさを知った。 このジャンルだからこそ、 楽しいバンドができると確信している」


 曲を聴いていると、金本の言うこともわかる気がする。


「わかりましたよ……僕、ボーカルもやってみます」

 

 僕は一言、小さい声で答えた。


「お! そうか、君ならギャルゲーソングを楽しく表現できるさ」


 楽しいバンドになるなら頑張ってみるしかない。


「ただ……できるなら、もう少しうまく歌わせてください」


 僕の情けない言葉を聞くと、プレハブ小屋から大笑いする声が広がった。あの日のことを思い出していた僕は、自宅の部屋でカレンダーを見る。


「あれから、まだ数日しか過ぎてないもんな」


 ボーカルも担当すると言ったが、ギターばかり練習して歌はまだ覚えていない。数日あれば歌は覚えられると金本に言われたものの、実際にやってみるが上手くはいかない。


「ギターを弾いて歌うとか、無理じゃねーか」


 それしか言えないくらい、進歩していない。夜な夜な部屋で歌うとか、また家族から変な目で見られてしまう。


「はあ……頑張るしかないか」


 僕は、今日も恥ずかしい気分で歌を練習するのだった。


 次の日、イヤホンで曲を覚えながら学校へ向かう。玄関で靴を履き替えていると、ひなたの姿があった。


「そういえば、あいつとまだ口を聞いてないんだっけ」


 どんな音楽を聴いていたか気になっただけなのに、あそこまで怒るだろうか。

 さすがにもう忘れているだろうと思い、ひなたに話しかけた。


「よ! おはようさん、元気か?」


 すると、ひなたは僕をにらみつけてくる。


「おい、まだ怒ってるのか? いい加減に機嫌を直せよ」


 話しかけても無視して、廊下を歩いていく。後を追うように、僕も教室へ向かった。


「僕が悪かったよ、謝るからさー」


 何度そう言ってもひなたから返事はなく、教室に着いてしまった。


 席に座るとまだ怒っているのか、不機嫌そうに授業の支度をしている。


「はあ、こりゃダメか」


 しばらく会話は難しいと、ため息をついて教科書を机に出した。


「授業が始まる前に、イヤホンをスマートフォンから外すか」


 イヤホンを抜くと、大音量で音楽が鳴り出す。バンドの練習で聴いていた曲を止めるのを忘れていた。


 ーーやばい、早く止めなきゃ。


 僕は急いで電源を切るが、あまりの大きな音でクラスメイトがざわついている。ひなたも聞こえていただろう、さすがにバカにしてくると思い彼女のほうを見る。


「なっ……なんで」


 プルプルと震えるひなたは、小声で言う。


「なんでがんちゃんが、その曲を知ってるのよ」


 すると、余計なことを口走ったようで恥ずかしそうな顔をしている。


「おっ……お前、もしかして」


 ーーはは、そんなわけないだろ。


 僕はまさかと思い、冗談ぽく聞いてみた。


「ギャルゲーがお好きなんですか? ひなたさん……」


 真っ赤な顔をして席を立つと、勢いよく教室を出ていった。


「おっ、おい! もう授業が始まるぞ」


 僕の声を聞くことなく去ったひなたは結局、午前の授業を受けることはなかった。ひなたの意外な趣味に驚いたが、僕はあることに気づいく。


「ひょっとしたらあいつ、あの曲を歌えるんじゃないか?」


 そんなことを考えながら、授業を受けていた僕であった。

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