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オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
最終章1 ギャルゲーバンドの奇跡! オリジナルソング編
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第138話「いざレコーディング! 岩崎のギター」

 ついに、僕のギターを録る日がやってきた。


 休みの日になり、本田さんがいるレコーディングスタジオに向かう。


「いいかい岩崎君。とりあえず、食料と水は多めに持っていくんだよ」


 スタジオに向かう前日、和田からそう言われた。


 理由はわからないが、とにかく絶対に持っていくように念を押されてしまった。


「重いな……背中にはギターケース。両手には、エフェクターと買い物袋」


 言われた通り、僕は大量に食料と水を買い込んでいた。


 正直、まったく意味がわからない。どうして、こんなに買い込む必要があるのか。


 僕はやけに重たい足取りで、スタジオのドアを引く。


「こんにちはー、岩崎です」


 ドアを開けてそう口にすると、本田さんが出迎える。


「やあ、今日は岩崎君のギターを録るんだったね」


「はい、よろしくお願いします」


 軽くあいさつを終え、僕は録音をするブースへと案内される。


 あらためて録音をする場所を見るけれど、いかにもプロが使う機材ばかりが置いてあった。


 アンプの種類も豊富で、大きいのから小さいのまでいろいろだ。


「ギターはラインで撮るから、今回はアンプを使わないよ」


「ということは、パソコンにつなげて音を録るってことですか?」


「まあそんな感じだね、どんな感じかはわかっているだろう?」


 もちろん本田さんの言うように、どういったものかは理解している。


 和田の家でラインで録るということを、すでにやっていたからだ。


「オー! 岩崎ボーイ、よく来ましたネー」


 本田さんと話していると、ジャスティンさんの声が聞こえてくる。


 遅れて来たようで、ブースに入ってくるなりそう声をかけてきた。


「今日はじっくり、ねっとりと時間をかけて最高のサウンドをテイクデース」


「言い方が嫌なんですが……というか、ジャスティンさん!」


 僕は疑問に思っていたことを、ジャスティンさんに尋ねる。


「金本先輩たちがボロボロになっていましたけど、なにしたんですか」


「ハッハッハ! これも、素晴らしい曲にするために必要なことデース」


「いやいや……なにをしたかを聞いているんですよ」


 質問に答えず、笑ってごまかすジャスティンさんに僕は少しだけイライラしてしまう。


「彼らには何回も撮り直させたからね、あれは、かなりきつかったと思うよ?」


 レコーディングの準備をしている本田さんが代わりに答えた。


「え、先輩たちがですか? あんなにうまく弾けるのに?」


「まあうまいだけでは、意味がないからね。その他にも必要なことはあるし」


「テクニックだけでなく、フィーリングも大切なのデース」


 金本たちですら、何回も録り直していたことに僕はおどろく。


 それと同時に、金本たちよりもギターがうまくない自分は大丈夫なのかと不安になっていく。


「まあトークはそれまでにして、ささっとレコーディングをスタートさせましょう!」


「……うす」


 結局、詳しいことは教えてもらえずに僕のギターを録るのが始まる。


 僕はケースからギターを取り出して、新しく弦を張り替えた。


 チューニングを済ませた僕は、渡されたヘッドホンをかぶる。


 ーーなんか、いまさらだけど緊張してきたな。


 金本たちもいなく、一人でのレコーディング。


 見守ってくれる人がいないのと、うまく弾けるかどうかの不安でいっぱいだ。


「じゃあ岩崎君、軽く音を出してくれるかい?」


「はっ、はい!」


 突然、ヘッドホンから本田さんの声が聞こえて僕はびっくりする。


 ギターを持つ手が震えながら、言われた通りに音を出す。


 ーージャララ、ポワワーン。


 なんとも情けない音が、ヘッドホンから鳴った。


 ギターを弾いた中で、一番ヘタな音。


「ヘイヘーイ! 岩崎ボーイ、リラックスしてリラックス」


 音を向こうの部屋で聴いているジャスティンさんが声をかけてくる。


 ヘッドホンからとはいえ、ジャスティンさんの声に僕はさらに緊張が増していく。


「その通りだよ、岩崎君。まずは落ち着いて、深呼吸だ」


「ハッハッハ! びびる必要はないデスヨー」


「……うす、すうはあ」


 僕はすうっと息を吸い、ゆっくり吐き出す。


「この曲をさらによくするために、頑張ってね」


 本田さんから励まされた僕は、次第に緊張が解けていった。


 ーーそうだ、この曲を完全な形で作り上げなければ。


 そう考えた僕の手から震えが消え、ギターの弦をはじく。


 先ほどまでの弱々しく自信がないギターの音ではなく、力強い音が鳴り出した。


「よし、じゃあさっそく始めようか」


 本田さんは僕のギターを聴いて、そう話す。


 部屋には雑音が、なに一つ聴こえない。聴こえるのは僕の息づかいと、心臓の動く音のみだ。


 すべての感覚を耳に集中させ、僕は曲が流れるのを待った。


 すると、曲が流れるカウントの音が鳴り出す。


 カウントが鳴り終わった後、それがギターを弾く合図だ。僕は先に弦を押さえて、いつでも弾けるようにしておく。


 ーーカッカッカッカ……カッ!


 最後のカウント音が鳴り止む瞬間、僕はギターの弦を勢いよくはじいた。


 六本もある弦のすべてが、揺れると同時に音が鳴る。


 流れる曲と僕の弾くギターの音、それが重なった。しかし、ギターを弾く指が止まってしまう。


「ん? どうしたんだ、岩崎君」


 曲が止まり、本田さんが僕に尋ねる。


「いや……その」


 僕は聴いた音源に、ついおどろいてしまった。


 ドラム、ベース。そして、ギターのクオリティが高すぎたからだ。


 金たちがうまく弾けるのは、もちろんわかってはいる。けれど、あまりにもすごすぎて本当に彼らが弾いたものなのかと疑ってしまう。


「本当にこの音って、先輩たちが弾いたものですよね?」


「ああ、そうだよ? 彼らに弾き直させた音に間違いないさ」


 だとしても、この音源はすごすぎる。


「フッフッフー! 岩崎ボーイも負けないように、ギターを弾くのデース」


 ジャスティンさんに言われても、この音源を聴いてそうできるかわからない。


 だが、不思議と僕もこのようなすごみを出してみたくなる。


 ーーパチン!


 僕は頬を叩いて、気合いを入れ直す。


「すみませんでした! また最初からお願いします」


 とにかく、今は自分のギターに集中をするべきだ。


 僕はギターを持ち直して、また弾く構えに入る。


 おそらく、金本たちのような音になるには時間がかかるだろう。それでも、僕は何度でも弾いてやる覚悟だ。


 そして、ギターのレコーディングは再開される。


「よっしゃあ! 弾いていくぜー」


 レコーディングのモチベーションが上がった僕は、またギターを弾くのだった。

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