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第十三話 「その時、歌の神は降りて来なかった」

 金本は、机をどかしてマイクスタンドをセットしている。


「あの……なにを始めるつもりですか?」


 ボーカルのオーディションをすると言っていたが、僕は嫌な気持ちになりつつある。


「では! これから一人ずつ、マイクスタンドの前で歌ってもらいます」


 こちらを無視して、金本は話を進めている。


「ちなみに、僕は歌いません! 審査員(しんさいん)として参加します」


 金本は椅子に座ると、カバンからCDを出した。


「いやいや、金本先輩! それはないでしょう? なぜ歌わないんですか」


 僕は、納得できずに金本に言うと、岡山は話す。


「いっ、いや。あいつは、歌わないほうがいいかも」


 岡山の言葉に、残りの二人もうなずいた。


「あいつ……ドン引きするくらい、歌が下手なんだよ」


 荒木はそう言うが、まさかと思う僕に彼は話を続ける。


「カラオケに行った時は、どこかのガキ大将のリサイタルくらいひどかったよ」


 引きつった顔をした荒木を見ると、なんとなく察した。


「けど、なんであんなに張り切ってるんですかね? オーディションとか言ってますし」


 一人だけ異様にテンションが高い金本に疑問を持った。


「ああ、気にしないでいいよ。たまに、変なキャラになるだけだから」


 慣れているのか、和田は平然と言うと金本の準備を手伝う。


「それで、なにを歌うんだ?」


 パソコンを機材にセットしている金本は、荒木の問いに答える。


「なにを言っているんだ? バンドで演奏する曲に決まっているだろう」


 そう言うと、スピーカーから曲が流れてくる。


「おいおい……俺たちは歌えるけど、岩崎君はまだ歌えるまでギャルゲーソングを知らないだろう?」


 荒木の言う通り、僕はまだ歌をわかっていない。曲はみんなで決めた時に、初めて聴いただけであった。


「そうですよ……いきなり、歌えって言われても無理ですよ」


 僕が言うと、金本は問題がないという顔をしている。


「大丈夫! 岩崎君は、みんなが歌っている間に歌を覚えてもらう」


 金本は、歌詞カードを僕に渡した。


「全部は歌わなくてもいいよ、サビのフレーズだけで大丈夫!」


 大丈夫と言われても僕は、ポカンとするしかない。


 ーーまあ、適当に覚えて歌えば僕がボーカルになることはないか。


 軽い気持ちでやれば大丈夫だろうと考えた僕は、歌詞を覚えることにした。


「よーし! では、さっそくオーディションを始めるぞ」


 準備が終えた金本は、パソコンの前に座る。


「とりあえず、順番は適当でいいから歌ってくれ」


 荒木たちは、じゃんけんをして順番を決めている。


「くっ……くそう、俺が一番かよ」


 最初に歌うのは、荒木のようだ。マイクの前に立つと、歌う姿勢になる。


「いつでもいいぞ、さっさとやろうぜ」


 荒木の言葉を聞いた金本は、曲を流す。


 曲の歌い出しになると、荒木は歌い始めた。


 歌詞を覚えながら、その様子を見ていた僕はおどろく。


 ーー普通にうまいじゃないか、音程も外れていない。


 独特の歌い方ではあるが、ロックよりバラードが合うイメージだ。

 僕がそう思いながら聴いていると、金本は曲を止める。


「うーむ、あまり曲に合っていない声だな」


 歌を聴いた金本はそう話すと、荒木が言い返す。


「うるせー! なぜ、おまえがボーカルを決めるんだよ」


 金本は、立ち上がると大きな声で言う。


「僕が誰よりも、ギャルゲーソングを聴いてるからだよ!」


 さらに金本は言葉を続けた。


「このメンバーの中で、誰よりもギャルゲーソングを研究しているのはこの僕だ……だから僕が決める!」


 よくわからない理由に、荒木は少しイラつきながら。


「おまえは、一体何者なんだよ!」


 そうツッコミをいれると、和田が間に割って入った。


「まあまあ、さっさとこんな茶番は終わりにしよう。 次は僕が歌うから」


 荒木と代わるように、和田はマイクの前に立つと金本に曲を流すように指示する。

 歌い終わると、岡山も同じように歌う。二人の歌も、普通な感じで悪くはない。


 金本は、歌う度になにか紙に書いていた。


「じゃあ、最後に岩崎君か……歌は覚えたかい?」


 そう聞かれると、あまり自信はないが僕はうなずく。


「すみません、覚えたのはサビのところだけなんですが……大丈夫ですか?」


 正直なところ、適当に覚えたので、曲をすべてを覚えることはしなかった。


「むむ! まあ大丈夫か……では、歌ってみようか」


 金本は、サビのところまで曲を早送りをしてスタンバイをする。

 僕は、マイクの前に立つと緊張しているのか体が震えていた。


「岩崎君、リラックス! たかが歌じゃないか」


 金本はそう言うが、人が見ている中で歌うのは恥ずかしい。


 ーーもう、どうにでもなれ!


 覚悟を決めた僕は、曲が流れると目を閉じて歌い出す。

 歌うというより、叫ぶような感じで歌ってしまっただろうか。


 歌い終わって目を開けると、全員がおどろいたような顔でこちらを見ている。


 ーーあれ? もしかして……うまく歌えてビックリしているのか?


 そう考えている僕に、金本は口を開いた。


「岩崎君……すごい、下手くそだね」


 まさかの言葉に、ショックを受けてしまった。


「けど、もしかするとおもしろいことになるかも」


 なにか納得した金本は、僕を指差して言う。


「決めた! ボーカルは岩崎君だ」


 衝撃(しょうげき)の発表に、僕は耳を疑う。


 なぜ僕になったのか、理由がわからなかった。

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