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オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
収録! 僕らの演奏編「後」
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第128話「僕らはインフィニティ」

 学校の長い休みが終わる、ほんの数日前。


 貸しスタジオで、みんなと練習するのも最後になる。その日、僕は作ったメロディと歌詞をひっさげてスタジオに入った。


 事前に響子に連絡をとり、歌を彼女に覚えさせている。


「しっかし、よく作れたね。一人で考えたんでしょう?」


「ああ、おまえはあてにならないからな。作ったからって、文句を言うのはなしだ」


 響子と二人でできた歌を練習した時、僕はそう話す。自分はなにもしていないのに、後から文句を言われたらたまったもんじゃない。


 ーーまあ、文句を言わせるような出来にはなっていないがな。


 それなりによくできたほうだと、僕は思っている。しかし、やはり人に聴かせてなにかを言われる不安はある。


「じゃあ、キョウちゃんが歌ってみてー」


「え? ああ、そうだな。よし……よく聴いておけよ」


 僕はギターを弾きながら、作ったメロディに歌詞をそえて歌う。ギターの音色と合わさった歌を聴いた響子は、しばらく黙っていた。


 初めて作った曲にメロディが重なり、そこへ僕が考えた歌詞がのる。


「どうだ? 歌詞もそこまで悪くはないだろう?」


 この歌詞ならば、金本たちも気にいるだろう。そう考える僕に、響子は口を開く。


「なんていうか、いい意味でギャルゲの歌詞だねえー」


「だろう? 恥ずかしげもなくかわいらしい言葉も、あえて混ぜているんだ」


「いやあ……いいんだけどー、なんかねえ」


 響子は歌詞が書かれた紙を見ながら、頬を指で軽くかいている。


「なんだ? なんか、不満でもあるのか?」


 ふに落ちない態度の響子に、僕はそう尋ねた。


 いかにもなギャルゲーソングみたいな歌詞で、僕は気に入っている。しかし、響子はどこか納得していない様子だった。


「んー、全体的な流れはいいんだけど。歌詞が、つながってないような」


「どこが? 言葉の意味としては、そこそこわかりやすいだろ?」


「例えばAメロのここ、同じ言葉が日本語と英語になってる」


 そう話す響子は、歌詞が書かれたところに指をさす。見ると、たしかに同じ言葉が日本語と英語になっていたところを見つける。


「これじゃあ二重の意味でわけがわからないよー? フラワーの花! みたいな」


ーーたしかに。これでは、歌詞が意味不明だ。


 メロディに歌詞をつける時、歌いやすいかなと思って入れた言葉が裏目に出てしまった。


「ここは、こういうのを歌詞に入れたらしっくりくるんじゃない?」


 シュッシュと歌詞の文字に二重線を引き、その上に違う文字を書く。


 響子が書き直した後、頭から読んでみたらさらにわかりやすいような歌詞になった。


「おお……本当だ、こっちのほうが歌の歌詞っぽい!」


「でしょうー?」


 僕にそう言われた響子は、自慢をするような顔で答える。


「だったらさ、他にも歌詞を変えたほうがいいところがあるなら直してくれよ」


 同好会のメンバーで唯一なにもしていない彼女に、少しでも協力してほしい。せっかくオリジナルソングをみんなで作り出すのだから。


「まあ……それくらいなら、できるかなー!」


「ああ! 僕が作った最強の歌詞を、 おまえがさらに良く仕上げてくれ! 響子ならできる」


「そんな気迫がたっぷりな顔を、近づけないでよー!」


 響子はあたふたしながら、その声にするも手にはペンがにぎられていた。


 こうして、響子に歌詞をアレンジさせて二人で歌を完璧にしていく。もちろん歌の練習もきちんとこなし、曲を覚えていった。


 そして、完成させたボーカルパート。この日の練習で、ついに初お目見えだ。


「なるほどなるほど、そういうことならば期待していようではないか!」


 これまでの作業を話すと、金本は感心しながらそう話した。


「時間がもったいない! さっそく、僕らの曲を弾いてみよう」


 かけ声を聞いた僕らはうなずき、それぞれが楽器を構える。


「ああそうだ、岩崎君には作った楽譜を渡しておこう」


「曲なら覚えましたよ? いまさら楽譜なんて」


「前に録音した時よりも、さらに改良を加えたからね。けど、岩崎君の負担が増えないように配慮しているから」


 金本から渡された楽譜を見る僕に、和田はそう話した。


 よくわからないが、とりあえず楽譜を確認する。見た感じでは、やたら簡略化されているのがわかる。


「だいぶ……優しいというか、ボーカルに集中しやすい譜面ですね」


「ふふふ、それは弾いてみればわかる……さあ! さっそく合わせるぞ」


 すでにスタンバイができている金本は、ギターを構えている。


「とにかく合わせてから、問題点があれば調整していこう」


「そうですね! やりましょう」


 貸しスタジオにあるアンプにギターをつなぎ、マイクスタンドに立つ。響子もマイクをにぎり、歌う準備はできているようだ。


 全員が演奏できるタイミングができると、金本は合図を送る。


「では……いくぞ」


 まるで、ライブをやる時のような緊張感がスタジオに流れる。僕は、手から汗が少し出ているのがわかった。


 ーージャカジャカ! ジャラーン。


 和田が弾くギターの音色が鳴り、それに合わせるように全員が楽器を奏でる。


 そして僕と響子のボーカルが歌い出すと、演奏が始まるのだった。


 最後のパートまで弾き終わり、バンドの音がフェードアウトすると、僕らは誰一人も話さない。


 話さない、というよりも話せない状況だ。


 出来上がったものを自分たちで聴いて、そのすごさにおどろいているからだ。


「……どうだった?」


 誰も口を開かない中、最初にそう言葉を発したのは金本だった。


 金本に尋ねられた僕らは、一人ずつ答える。


「すごい曲ができてしまったね……これを、ダメだという人はいないよ」


「ああ、久しぶりにすごいと思ったな」


 和田や荒木が、純粋におどろきながら話すと、僕はただうなずく。


「だねー! 歌と演奏が、ぴったり合ってて雰囲気が出てた!」


「かっ、歌詞もギャルゲーソングっぽさが表れててよかったよな」


 曲に対して、反対する人は誰もいない。


「……ということは?」


「うむ! 僕らの、オリジナルギャルゲーソングの完成だあああ!」


 金本は満足げに、興奮しながらさけぶ。


「どうだい岩崎君、君が見た夢のような曲の感じになってたかい?」


「ええ、多分! 間違いなく、聴く人をうならせる。そんな、ギャルゲーソングになったと思います」


 夢の内容と同じだとか、今はどうでもいい。


 みんなで一緒に作り上げた曲を完成させることができた。それだけで、僕はうれしさと達成感に包まれる。


 まだ微調整をする必要はあると金本たちは話すが、曲自体はこのままでいい。


 ついに、僕らが作ったオリジナルソングが完成した。


「曲のタイトルって、考えてあるのかい?」


 その言葉に僕は、うなずく。


「もちろんです! 曲のタイトルは……」


 すでに頭の中で考えてあった曲名を、僕は告げた。


「岩崎君らしい名前だね」


 曲のタイトルを聞いた金本たちは、ただニヤリと笑う。


 それが、僕らのギャルゲーソングだ。

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