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第十一話 「夜更かしは身体に毒ですよ?」

 音合わせが終えると、金本たちからギター指導を受けていた。


 基礎的なことや、覚えておくといいことなど、勉強になることが多かった。


「みなさんは、どうやって上達(じょうたつ)したんですか?」


 前から気になっていた疑問を、金本たちに尋ねてみる。


「え? どうって……ギャルゲーソングか、アニソンを聴いたりしたからかな」


 金本はギターを弾きながらそう答えた。


「まあ、 始めた頃はコードとかを覚えてたけどね」


 僕はその言葉を聞いて、驚く(おどろく)しかない。難しいテクニックや、ギターソロを難なく弾けている理由が、そんな理由だったなんて。


「ギャルゲーソングはいろいろなジャンルあるからな、まねしながら弾くといい練習になるもんさ」


 和田はそう言うと、ギターでジャズのフレーズを弾き始めた。


「これも、ギャルゲーに使われていた曲だよ」


 ギターのうまさだけでなく、ギャルゲーにジャズがあるのもおどろいた。


「今度、そのゲームを貸してあげるよ」


 金本はそう言うと、スタジオにある機材にスマホを接続する。


「おしゃべりはここまでだね、時間が少ないから練習しよう」


 機材のスピーカーから、放課後に決めた曲が鳴り始めた。


「練習? 今日、決めたばかりじゃないか? いきなりは無理だろ」


 荒木は、腕を組みながらそう言う。


 確かに、楽譜がない今の段階では、練習するには難しい。すると、金本は僕らを無視して曲を聴き始めた。


「僕ら、なにしてればいいんですかね」


 無視する金本を見ながら僕は和田たちに尋ねた。


「とっ、とりあえず。金本が指示をするまで待とうか」


 岡山は答えると、アニメ雑誌を読む。


 やることがない僕は、ギターを適当に弾くことにした。しばらくすると、金本は曲を聴き終えて紙になにかを書き始める。


「なに書いているんだ?」


 荒木は、金本が書いた紙を取り上げると読み始める。


「なんだ、ギターのコードか」


 見ると、曲の歌詞にギターコードが手書きされていた。


「金本は相対音感があるからな、これくらいはできたか」


 和田は紙に書かれているギターコードを見るとそう言った。


「相対音感? 確か一つの音さえわかれば、曲のコピーとかできちゃうアレ?」


 もしそうなら、地味にすごい能力だなと僕は思った。


「まだコードだけだよ、これから正確な譜面を作るつもりさ」


 そう言うと、金本は紙を見ながらギターを弾き始める。


 コード進行を弾いた音を聴いた僕らは、それが原曲に似た感じに思えた。


「それっぽい音だけど、ギターだけだとなー」


 荒木はベースがないことに不満なのか、そう金本に言う。


「ベースもちゃんと譜面作るから、安心してくれい」


 そう答えた金本は、僕と和田にギターコードを覚えるように指示した。僕は和田に教わりながら、さっそく練習を始める。


 コードを覚えて、実際に弾いてみる。


「うわ……なんか、すごい弾きにくいコードもあるな」


 僕が難しそうに弾くのに対して、和田はスラスラと弾いてみせる。


 和田とのレベルの差にくやしい気持ちになっても、僕は練習を繰り返した。


 しばらくすると、金本は時計を見るなり言う。


「そろそろ時間が来ちゃうね、片付けて出ようか」


 そう言われると、すでに終わる予定の時間になるのに気がついく。物足りなさを感じながらも、僕はギターを片付けた。


 全員がスタジオから出て、店内のカウンターで支払いを済ませると店を後にした。


「次のスタジオに来る時は、本格的に練習をしよう」


 金本の言葉に全員がうなずくと、今日は解散となった。


 僕は、自宅に帰る途中に考えごとをしている。


 ーー今のままでは、金本たちに追いつかない


 自分のギターは、ダメであることが今日の練習ではっきりしてまった。


 コードを覚えるだけで苦戦しているようでは、足を引っ張っていくだろう。


 自宅へ着くなり、すぐに自分の部屋へと向かった。


「お兄ちゃん、夕飯は?」


 廊下で妹の若葉にそう聞かれたが、食べてきたとウソをついて部屋に入った。


 制服を脱いで、すぐにギターを取り出して練習する。


 なにかに取り憑かれたと言われるくらい、夢中になってギターを弾く。すると突然、 スマートフォンが鳴り出した。


「ん? 誰からだろう」


 画面を見ると、金本からメールが来ていた。


 ーー明日には楽譜が完成してるから、期待しててね。


 短い内容だが、そう書かれていた。


「明日って、どれだけ早く作ったんだよ……」


 ギターだけでなく、楽譜を聴いて作れる才能があることにおどろいた。


「よし! 明日までに、ギターコードだけは覚えよう」


 僕だけでなく、金本たちも頑張っている。


 そう思った僕は、やる気が出てきたのか夜中までギターを弾くのだった。

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