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オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
収録! 僕らの演奏編「前」
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第104話 「古いギャルゲーソングでも輝ける!」

 パソコンからCDを読み込む音が、部室に鳴る。


 山本先生が持ってきた、古いギャルゲーのサントラ。どんな曲なのか、僕らは今かと待っている。


「いや……読み込みが遅くないか? いつになったら、曲が流れるんだよ」


「パソコンが壊れているとかはない?」


「僕のパソコンはまだ新しいぞ! CDが古すぎて、時間がかかるんだ」

 

 なかなか流れないCDに、金本たちはそう話していた。


「いやあ、十年くらい前のだからな。ディスクに傷があるからかも」


 陽気に笑う山本先生に、僕らはため息をつく。


「こういうのは、ちょっと小突けはいけますよ!」


「ちょっ、岩崎君!」


「……ふんっ!」


 止めようとする金本に構わず、僕はパソコンをゴツンとたたく。


「ああっ! 僕のハイスペックPCがあああ!」


 金本がパソコンの画面に顔を近づけたと同時に、CDが回る音が聞こえる。


 パソコンにつながっていたスピーカーから曲が流れた。曲の出だしが始まると、すぐに僕はビビッとくる。


 耳に残るギターのリフ、アップテンポで弾いている音はとてもかっこいい。


「おお……いきなり、すげえ」


 思わず息を飲む僕は、そう口にした。


「しー! 岩崎君、しゃべるんじゃない」


 同じようにおどろく和田は、僕の口をふさいだ。ボーカルの声が入ってくると、さらに曲が盛り上がる。


「へー、古い曲のわりにいい歌声だねー」


「だよな、なんか聴いていて耳に残る歌だよ」


 小さくささやくように響子が話しかけてくると、僕は小声でそう返した。


 しばらく全員が黙って、曲に集中している。騒がしかった金本も、いつのまにか黙って耳を傾けていた。


 曲が終わり、次の曲が始まる前に金本は停止ボタンを押す。


「……」


 この場にいる全員は、しばらく誰も声を出さない。


「……あれ? みんな、どうした? 先生、なんかやらかしたか?」


 最初に声を出したのは、山本先生だった。僕らを見ながら、気まずそうに話す。


「先生……あんたって人はー!」


 金本は立ち上がって、山本先生のとこまで向かっていく。


 ーーガシッ!


 すると、先生の手をにぎる金本はブンブンと手を振るう。


「最高だよ! 古いギャルゲーソングかと思ったけど、なんかこう……くるね!」


 うまく説明できないように、とにかくほめている。だが、金本が言うようにこの曲はなにかを感じさせる曲だった。


 僕は、この曲を演奏してみたいと思った。


「みんなもそう思うだろう? こりゃあ、演奏しなければならん!」


「まあな。音質は、なんか古いけどさ」


「それは今風にアレンジすれば、曲もよくなるさ」


 金本の言葉に、和田たちはうなずきながら答える。全員が、この曲をやりたい気持ちになったようだ。


「おお! そうか、先生はうれしいぞ! おまえたちがこの曲を弾いてくれるとは」


 先生のにぎった手を払いのけた金本は、大声でさけぶ。


「よーし、まずは曲をきちんと研究しようじゃないか!」


「おー!」


 バタバタとみんなが立ち上がり、パソコンの前に集まる。


「やはり、どんなゲームだったのか調べよう」


「原画とライター。後は、CVがあるかだ!」


「よし! ウォチペディアだ、後はギャルゲー批評空間もチェック」


 曲の練習をするのかと思ったが、なぜかゲームから調べ始める金本たち。


「……こんな感じで、スタートしていいのだろうか」


「まっ、まあ……先生はいいと思うぞ?」


 ひとまず、新しく演奏する曲が決まった。本格的に曲を練習し始めたのは、それから数日たった後だ。


「えっと、ここのギターはどうしましょうか?」


 この日も、部室に集まった僕らはパートごとに話し合う。


「リードギターは金本に任せて、僕らはこんな風に弾けばいいかな」


 僕は和田とギターの音を確認しながら、お互いに弾くところを決めている。


 古いギャルゲーソングであるものの、曲としてはまだまだ時代遅れではない。今でも通用する、そんな曲調だった。


 ーージャカジャカ、ジャラン。


 曲を流しては、ギターの音を確認しつつ弾く。


「楽譜はまだ完成していないからね。それまで、耳で音を覚えていこうか」


「はい、けどこのコードで合ってますかね?」


 楽譜がない今、頼るのは耳のみ。たくさんあるコードの中から、それっぽいのを探っていく。


「そのコードだね。後は、そこから音が上がるか下がるかだからわかりやすいさ」


 和田はそう話すと、手際よくコードの進行を当てていった。


 僕は、その様子を見ながらおどろく。


 ーーやっぱり、長くギターをやっているとこのくらいは簡単なのだろうか?


 気がつけば、和田は曲の半分くらいをギターを弾いてみせる。曲に合わせて弾いているギターの音は、完璧に合わさっていた。


「岩崎君はボーカルもやらなきゃだから、なるべく負担にならないようにしようか」


「となると……ギターも簡単になるのか」


 できるならば、かっこよくギターを奏でたいものだ。ボーカルも嫌いではないけれど、ギターに集中して弾いてみたい。


 しかしやはりバンドかな、わがままを言ってはいられない。


 僕はギター一本で弾きたい気持ちを抑え、和田のアドバイスを聞きながら自分のパートを確認する。


「キョウちゃーん! ちょっといい?」


 向こうのほうで曲を聴いていた響子から声をかけられる。


「なんだよ? 今は、ギターで忙しいんだよ」


 そう話す僕は、ギターを置いて響子のところへ向かう。


「ボーカルなんだけどさ、どういう風にしようか」


「あー、この曲ってハモって歌うようなところがあまりないしな」


 ギターよりも、ボーカルのパートが難しいのかもしれない。


 どう歌っていいものか、僕らは迷っている。


「とりあえず鼻歌で歌ってみて、どうなるかみてみるか」


 僕は響子にそう提案して、一度鼻歌で歌ってみることにした。


 まだ歌を覚えたわけではない僕らは、CDの音を流す。


「よし、とりあえずサビからだな。せーの」


 僕の合図に合わせて、鼻で歌う。


「ふふーん、ふーん」


 曲のボーカルに重ねるように歌ってみた僕らは、すぐに違和感を覚える。


「あれ? なんか変なハモりになるな」


「ねー、もう一回やってみようかー」


 その後、何度も試したが同じような感じになる。響子のパートはおかしいところはない。歌手の音程どおりに歌っているのだから。


「やはり、僕がおかしいのか」


 今まではどの曲も、しっくりくるようなハモりを出すことができた。しかし、この曲だけはなぜかうまくハモれない。


「まあ、人には合う合わない歌もあるしねー。なんとかなるよ」


 響子はそうフォローをするが、僕はそうは思わない。


「こりゃあ、修行しなきゃだな……」


 まさか、こんなにハモるのが難しいとは思っていなかった僕はそうつぶやく。


「よし! 今すぐ修行だ、ちょっと行ってくるぜ」


「ええー、どこに行くのー? って、もういない……」


 響子の言葉を聞く前に、僕は部室を飛び出した。


 ーーピッピ。


 すぐにスマートフォンを取り出して、電話をかけた。


「もしもし、岩崎ですけど。ちょっといいですか?」


 そう伝え終わり、電話の相手がいる場所に向かう。相談に乗ってくれる人は、あの人しかいない。


 僕はそう思いながら、走り出した。

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