第九話 「みなさんの好きな曲はなんですか?」
帰宅した僕は、パソコンでウェブサイトを見ていた。
「バンドで演奏する曲を三つは探してくるように!」
全員で話し合った後、金本からそう言われた。
「ギャルゲーソングって、金本先輩から借りたCDの曲しかわからないぞ」
ギャルゲーなどの存在を今まで、知らなかった僕は探し方に困惑する。
検索サイトで調べてみようにも、なにをどう検索するか悩んでいた。
「とりあえず、ギャルゲーって単語で調べるか」
ーーカタカタ。
キーボードで文字を打つとたくさんのタイトルや、通販サイトがヒットする。作中のキャラクター紹介や、イベントのCGなどが表示されていた。
「ほうほう……って違うだろ! 歌の詳細が知りたいんだよ、僕は」
パソコンの画面をゆらしながら、僕はそうツッコミを入れる。
「まとめて書いてあるサイトとか、ないのかよ」
しばらく探してみるが、どれも微妙なサイトばかりだった。
「はあ……気分を変えて、ギター講座の動画でも見ようかな」
そう思った僕は、さっそく動画投稿サイトにアクセスする。
「今日は、どんな内容のやつでも見ようかな」
適当に動画を見ていると、ふと思いつく。
「そういえばアニソンを弾いてた動画があったな、ギャルゲーもあったりするのかな?」
もしかしてと思った僕は、検索ワードでギャルゲー、ギターと検索してみる。
すると、ギャルゲーの曲を弾いてる動画がたくさんあった。
「あるのかよ! こっちで、調べたほうが早いじゃんか!」
再生数が多い動画を見るが、ギターの音が入ってないイントロが始まる。
「あれ? ギターが入ってないのに、なにを弾くんだ?」
動画内に映る人はリズムを取るも、ギターを弾かずにいる。だが、ボーカルが歌い始めると同時にギターを弾き始めた。
電子音が中心となっている曲調なのに、ギターから歪ませたハイゲインな音が流れる。曲に合わないだろうと思っていた僕の予想を裏切り、見事にマッチしていた。
「すごいな……コードもきちんと合っているし、ところどころに小技を入れてる」
僕が弾く場合、その曲のギターを覚えて弾いてるだけで、アレンジして弾く技術も才能も今はない。
こういった演奏動画を見ると、自分がまだまだ初心者だと気付かされる。
「こんな演奏を、僕もしたい!」
そう思うと、ギャルゲーソングで自分が弾いてみたい曲をリストアップしていった。
ーー次の日。
授業を終えて同好会へ向かう。廊下を歩いていると、会いたくない連中と出くわす。
「あれ? 前に部室でキレた岩崎君じゃん」
軽音学部に入部しようとした時に、教室で僕を笑っていた部員だった。
僕を見つけると、からかいながら僕に絡んでくる。
「よくあんなキモい歌の曲なんか演奏できるよね、 笑える」
僕は少しイライラしながらも無視して通り過ぎようとする。
軽音学部の連中を素通りした時、 僕に聞こえるようにボソッとつぶやいてきた。
「オタクみたいな奴はさ、ギターとかやらねーでキモいアニメでも見てろよ」
嫌味っぽく、笑いながら話している。その言葉を聞いた僕は、完全にキレてしまった。
「うるせえ! てめーらにとやかく言われる筋合いねえ、好き勝手に言いやがって!」
連中のところまで戻って胸ぐらを掴むと、睨みつけながら言い返す。
「僕の演奏をバカにするのはわかる。 けどな、オタクの音楽を悪く言うのだけは許せねえぞ!」
僕も初めは、オタクが聴く音楽なんて大したことないと思っていた。
だが真剣に聴いてみると、バカにできない楽曲がたくさんあるということに気づく。
それをキモいとか、オタクだからという理由でバカにされるのだけは許せなかった。
「おまえらがやるバンドの曲より、よっぽどマシなんだよ!」
ーー女の子にキャーキャーと言われるだけのバンドなんかクソッタレだ。
そう思った僕の顔にびびったのか、軽音学部のやつらは黙っていた。
僕が言い終わると、相手をつき飛ばして僕は後を去った。
「クソが! あんな奴らがバンドをやっているなんて、反吐が出る」
ボロ小屋に着いた僕は、イライラしながら言うと椅子に座った。
「いっ、岩崎君どうしたんだ? 着くなり、ものすごい怒っているみたいだけど」
プンスカする僕を見ながら、岡山は金本に話しかけている。
「なんか軽音学部の人にバカにされたらしくて、ずっとあんな感じなんだよ」
金本たちはヒソヒソと話している。
僕は机を叩きながら、今日の曲決めをどうするか尋ねた。
「みなさん! 演奏する曲は、決めてきたんですか?」
いらつきながら僕が言うと、金本たちはカバンからCDなどを取り出した。
「もっ、もちろんだよ? いい曲を選んできたんだから」
それぞれ机にCDを並べて、バンドでやりたい曲を紹介していく。
「こっ、こういう曲ってみんなで演奏すると楽しいと思うんだよね」
岡山は自分が持ってきた楽曲をみんなに聴かせながら話す。
「うーむ。 神ゲーの曲をチョイスするのは素晴らしいけど、バンドでやるには難しくないか?」
金本はそう反論すると、自分が選んできた曲を流し始める。
「ここはやっぱり、王道なロックサウンドの曲をやるべきだろう」
曲はテンポが速く、余計な音色がないのが印象的な楽曲だ。
バンドでやるには、難易度が高いイメージだと僕は思った。
「なんだよ、これ! ベースが難しいぞ、俺が弾けねーよ」
荒木は、自分のパートであるベースを聴くと、この曲はできないと言い張った。
「わっ、和田はなにを選んできたんだ?」
言い争いを始める二人を無視して、岡山は和田に話しかけた。
「……僕?」
和田はスマートフォンを取り出し、僕らに見せた。
「なんですか? これ」
スマートフォンには可愛らしいアニメのキャラがピアノを弾く絵が見える。
「さあ曲が始まるよ! よく聴くんだ」
すると、スマートフォンから音楽が流れてきた。曲は、ピアノの音だけが鳴っている。
「その曲……ピアノだけじゃねーか! バンドでできるか!」
金本と荒木は、口を合わせてツッコミをいれる。
「どいつもこいつも、バンドで出来ないような曲を選びやがってー!」
金本は頭を掻きながら苛立っている。
「じゃあ、最後に岩崎くん。君の選んだ曲を教えてくれ」
そう言われた僕は、部室にあるパソコンを使って曲のあるサイトを表示する。
「僕が選んだのは……この曲です」
僕は動画の再生ボタンをクリックすると、曲が始まるのだった。