2.揺れ動いた羽
其田の家で過ごした夏の数日間。それはたぶん…僕は…生涯忘れる事に無い。そんな夏のようだったと思う。
嘉利の思いにある事だった。
そして季節はいつしか夏も過ぎ…暮秋というようにもあるようになっていた事にも嘉利は気がつくと、それに思う暇も無く…その季節は移り変わって行っていた。
その頃の咲菜の容態はというと、それはいつもと変わらずに…あの日の事にあった朝にいた侭に…一人医院の部屋に睡眠り続けてもいた。
……そんなある日の事……。
浮屠…目が醒めた。それはいつもの朝よりも少し早い。それにいて寒さもあるように感じた。
そんなような事にも思う嘉利は、普段ではそれと住んでいる自宅も、そこは東京に近い場所というようでもある事にもいる。
嘉利は、JGSストリームトレジャーという。企業が幾つか集まり事業をしている代表企業での仕事にある。その仕事もエネルギー資源開発の関係にある仕事をしているが、そんな仕事に都合があるようだという事にも、嘉利は仕事に休みがあるような時以外では大体は会社の近くにある。それにある宿舎…社員寮で、一年のその殆どを一人過ごす事が多いようになっていた。
……日本に帰国すると、その一ヶ月後とかにある。それという間隔を空けてから、また異国での仕事に向かう事もあった……。
仕事にある都合で…会社の宿舎…社員寮などに住んでいたのも…ほんの数日間の時間を日本にいた事からでもある。それは…その数日間という時間を、嘉利は、殆どを会社で過ごす事が多い。
……会議や異国にある現地での仕事の報告。…その事業体での設備の建設…資材調達。その調整など…。
然し…それが咲菜が睡眠り続けるようになってしまってから、嘉利は会社で用意もされている宿舎…社員寮に住む事をしなくなった。
……でもそれは…その日からの…数日から一ヶ月後ほどになってからでもある……。
それにある事は…異国での仕事につく事を暫く離れたいという事を会社に伝えると、その嘉利の後任。異国での事業の指揮を執る人材も選定出来ず、なかなかそれにいい返事がもらえなかった。それにある事業体の都合にも、嘉利は全体からも見た責任者でもあった事にもいる。
そんな事にも嘉利の事に、会社としては…縦に頷く事がなかなか通らず、でも…嘉利の抱えた事情に解るようにもあった事にも、難題を持ちかけられた。それにする時間にも調整がいる。そんなようでもある事だった。
それにあって嘉利は退職も考えた。
然し…嘉利の会社の方から…異国での事業をよく知る嘉利がいる事にも、当分は日本での仕事。それは変わらずに異国での事業を進める役職に異動させてくれた。
そこは…今までは東京の本社に通勤していた嘉利だったが、それという咲菜の事にある事情都合にもあって、嘉利の自宅のある地域に置いていた支社の方に転勤をさせてくれた。でも…その立場は少しだけ…然しそれにあった肩書も少々変わったが、会社にある事での待遇面などにある事は何の変わる事にも無かったようだった。
それが嘉利は嬉しかった。でもそれは嘉利のしていた今までの仕事内容からしても、嘉利はある意味からでも、会社にとっての重要な人材だったという事になる。
今の嘉利の転勤した先にある。その支社というのも、それは偶然にも本社でいた時の嘉利のしていたエネルギー資源開発事業というような部門と同じ系統を専門にしている支社である事にもあった。
そうした事にも、その役職待遇にしても、その支社長と同じぐらい…たぶん…それよりも本社に向けた事業にある事での意見力…発言力が嘉利の方があったりもする。支社の方でも、役職者でも役員会とかでも、何かにと…嘉利に頼る話の事も少なく無かった。
そんなようにもある偶然に重なったような、自宅からもほど近いようでもある仕事場に当日の朝に出勤をすると、その日の夕方に帰宅も出来る。でも、仕事もそれ自体は日本にいるだけで、会社の事業での指示系統などにも何も変わる事になかったが、嘉利の今までの貢献…功績に思った。嘉利の働いているその会社は、それは…たぶん特別な待遇としての立場に嘉利の事を置いておく。そんなようにもある事に話も決まったような事にもあるようにいた。
そして日本にいる。…それにある事で嘉利は咲菜の事をおいていたようにも…待たせていた。東京に近い場所にある。そんなようにもある嘉利の自宅から会社へと通勤をしていたりする。
……それはある程度に嘉利の思うようにもあったりした結果でもある……。
普段から仕事での事から自宅に不在時にある事が多いようだった嘉利。
……今になって思う……
。
……何かに想いも詰まっていた。そこに仕事という事にあまり帰宅するようにも無かった。咲菜と暮らしていた自宅……。
それは…咲菜の睡眠り続けている医院のある場所も、自宅からも近い。それにある利便がよかった。
……でもそれも…嘉利の思う心のなかでは……。
……たぶん…咲菜の近くでいたい……。
それは咲菜と暮らしていた自宅に…何か…どこかに咲菜を感じる事が出来る……。
それはほんの小さな事。
そこに見えるような…何かの弾みで出来たテーブルの天板の上にある小さな傷だったり。いつも嘉利が咲菜の待つ自宅に帰宅も出来た時に、それに意識もせずに何気無く見ていた自宅のなか…。
……それも一年にほんの数ヵ月の時間だった……。
そんな事にも思えば…いつも嘉利の帰宅も出来た時の事に、咲菜は異国での仕事に疲れて帰宅してくる夫…嘉利に手料理を作ってくれた。嘉利も…それと見ていた場所。いつも微笑んでいた妻…咲菜。久しぶりにある家庭的な風景だった事…。咲菜の作る手料理。それを盛りつけ…飾りつけた食器棚のなかに重ね合わせた皿。
咲菜が原因不明なように睡眠り続けるようになる前日に着ていた。今は嘉利が綺麗に畳んで置いてある。咲菜の着ていた洋服。玄関に揃えた侭にある靴。
……そこにあるまだそれは早いばかりのようにもある思い出のような記憶……。
そうして思うと…その時の侭にして置いてある。淡く滲んだような紫色をした春物のマフラーを、今にも咲菜は……それとリビングにあるソファーに腰かけて座っている嘉利に向かって…似合うかな…と、それに何かに尋ねて来るような……そんなようにも思う気が嘉利はするからだった。
いつものようにある。起床する時間になって行くまでを、それにある事を思い…微睡ながらも…それにある時間まで寝台にいてそこで軽く目を瞑り、ただ…身体を横にした侭でいる。
それはいつもに無い肌寒さがあった事に感じたようにもあったが、嘉利はそれにまだ寝台で休むようにしている。
然し…いつもよりも少しだけ早く目が醒めてしまっていたようにもある事にもでも…そこで睡眠ってもいたようにも無い。
朝もそろそろ明け方になる。そんな事にもいつしか微睡にいて…うとうと…していた嘉利は、何か…いつもとは違う寒さがある事にも気がついたように、そんな浅くあった微睡から…目が醒めた。
それという事にも、嘉利は寝台の側にかけて置いていた上着を肩に被せるようにしてそれを身体に引っかけると、それにいた場所にある自宅の寝台も置いていた部屋の窓辺にまで歩いて行く。
まだ…寝間着にもある事にも…そんなようにもある事に、嘉利は、起きがけたようにもある様子もその侭に、部屋の窓辺にあるカーテンの隙間を手で持って僅に開ける事をした。
雪が降っていた。
それにいた部屋のカーテンの隙間。
……窓辺から外に見える風景……。
その頃の季節では…それも珍しい。そんなようにもある事だったりした。
そんな風景に…夏の限られた時期に訪れた。其田の家がその時に何故か懐かしくも感じられたように思う。
「…ふうぅ…それは室内でも寒く感じるわけだ。外はその風景も降る雪のある。そんなようにあるんだものな……。でも、その事もいつもよりも少しだけ時期も早くも思うが。起きてから窓辺から外を見たら…真っ白い風景……冬景色なんだものな……」
いつもの季節。それは思えば…例年よりも少しだけ早い時期に訪れた雪の降る風景。
暫くの時間に…嘉利は、肌寒く感じた室内から見てそれと眺めた外にある。窓の外。そんな風景のなかに…雪の降り続く、淡く白い色に包まれた風景にあるなかに、嘉利にある何かの思いも心の底に少しずつ降り積もっても行くような…そんなような気がする。
何かに思う。どこか…そんなようにあった事にも、肌寒さを感じながらも身支度も済ませた嘉利は、思わずに呟く。
「んうう…何だか今日は寒い。仕事に行くまでの事は…その着替えでもそうだったが。……何か大変に思うようだ……」
着替えも済ませた嘉利は、何かにあるそれを思ったのか。たぶん冷たいフローリングからの感覚に…寝起きた寝台から降りた時に履いていたスリッパをもう一度履き直した。
そして、何か…今よりも肌寒く感じる。それに思うようにもある台所に歩いて向かうと、いつものように…冷蔵庫の開閉扉を開ける。すると昨日の夕方に作っておいたおかずを詰めた弁当箱の包みを手に持つようにすると、それとは別にある容器に、白米を炊いてある炊飯器から白飯だけを詰めるようにした。
「ええ…っと…確か…この辺にしまっておいていた…ああ…あったよ」
白米を炊いてある炊飯器から容器に詰めた白飯に、それを詰めるようにもした梅干。
「何か…それというのも…以前に咲菜に聞いていたからな。こうするといいらしい」
嘉利はそれとある容器も二つ。テーブルの上に置いていた。おかずを詰めた容器と、さっきの梅干を埋め込んだ白飯を詰めた容器のそれと一緒に重ねるようにして一つに纏めると、そのしぼりの色も疎ら淡い紫色をした風呂敷に包んだようにもしてから、弁当箱の包みごとこれからの仕事に向かう時に持って行く鞄のなかにそれを丁寧にしまう。
……するとその時に思う事が嘉利にあった……。
昨日の食事。弁当箱に詰めるようにもあった。…食材の残り物で簡単な朝食を作り。その皿の並べてあるテーブルの上に載っていた物…。それに浮屠して気が向く。
……それは嘉利の横で優しく微笑う。咲菜と一緒に写っている写真……。
……そこにある写真立てだった……。
何かに見ればどこか懐かしくも感じた。
浮屠…何かを思う。
「……いつかに咲菜と一緒に……出かけた時の……」
そこに写る咲菜は、嘉利の隣で軽く微笑んでいる。まだその年齢も若い頃の侭にある。それは嘉利も同じで、今よりもずっと以前に其田の家のある艟那市の海岸で一緒に撮った写真だった。
「これは…咲菜と艟那市で最初に出会った頃から…数年後…だったかなぁ…それより以前でいたあの頃は、いつでも…どこかいいつき会いにいた友人たちと毎日にあるようにいた。…んん…? でも…あの頃…どうして艟那市の方に出かけて行ったのか? 」
嘉利はその頃に、それは…まだ今の自分にあるよりも溢れる若さでいた。そんな時の頃の事に、何か思っていたりもした。
咲菜と嘉利が知り合うきっかけにあった事は、其田の家もある艟那市での海岸に、その頃の若い嘉利と、その友人たちと出かけて行った事が始まりのようでもある。
「あの頃っていうのは…まだ僕も年齢も確か…二十歳も半ばそこそこ過ぎてもいた頃か…。今の会社に就職採用の内定の話があって…それで…ん…? そうか…その頃の…夏の最後の休みだという事に…社会人になる前に友人たちと出かけて行ったんだった」
嘉利は高校での生活が終るとその侭すぐに進学し、そこで打ち解け合うようにして知り合ったようにもいた友人たちと、それにある期間の数年間を毎年のようにどこかに出かけていたりした。それはちょうど夏や冬の休みの時のような事にある。それを利用してどこかに小さな旅をする。
……その頃にだけいた気持ちも通じていた友人たちと一緒に……。
そんな事にもある話は、これから訪れて来るようでもある。そんな世の中という。その頃の自分たちが今までに見た事に無い世界…これからの実社会に出発をしていく前に、どうせならたぶんそれと行く事にも無いだろう。それにある嘉利の住んでいた地元からも、その友人たちの育ったようにいた地元からも遠い場所に旅をしようという話の事にもあったようだったのを、嘉利は思い出す記憶のなか…いつかにある思い出のなかでいる事にそれをさっき思い出した。
艟那市に到着たその当日の事だった。
嘉利はその日から以前…半年ほど以前にある話の事に知り合いつき合い始めた女性がいたが、それは異性交際というにまでは到らなかったようだった。でも、嘉利本人は多少の気落ちからの青吐息はあったものの…それからも至って気分も元気なように見せていた。
そんな嘉利をからかうかのようにしてみようと、その時にいた友人たちが嘉利に内緒で話しをして、そのなかにいた一人が、それといるようにもある海岸に疎らいた人から見つけた。それにいた女性に声をかけた。
……それも、嘉利がその女性に好意的な印象の興味を持った……。
そんな事にした話にあった。
そこは夏の熱い日射しを浴びていて、青く生い茂った。木の枝についた葉は屋根のような役目にあり日陰を作る。そんな海岸に…疎ら数本見えるようにもある夏木立。
それに見える場所の日陰のなかにいて、夏の空から照りつけられた熱く乾いたようにある海砂。大きなふわりと浮いた雲もある。蒼空からの暑い日射しを避けるかのようにして、そんな日陰のある海砂に小さな草が生えている場所の上にいた。そこに腰を地面に着けて座って涼んでいた女性。
それは緩い編目にあるような鐔の大きな白帽子を軽く頭に載せるようにして被り、それを幾らか横に傾けていたようにしていて…。
……だからなのか……。
その姿に嘉利も見ていた気持ちも…それも何か印象に残るように思った事を今も憶えている。
時々に通り抜けて行くような風…に、ふうわり…と揺れたような白い生地にある洋服で纏まっていた格好でいた。そんな女性でもある事だったのも、それに思った一の事だったのかも知れない。
話もそれというようにあった嘉利の事をからかうようにもいた友人たちのその一人は、それという事から声をかけた女性と話しているようにも見えた。
でも…それも女性にしてみては、何の無関心からというようにもあっての事にもいるからなのか…。
嘉利たちのいる場所からもそれという話にある事にその場所から離れ、そこからも少しだけ向こうにあるようにいた友人の一人がいる。
それも話しかけた女性に向けて随分と話しかけた言葉にもある事にも…それにいた女性は反応するようにも無い様子にある。
何かそんな事も…時間も十数分というぐらいにいて、それからも…もう幾らか時間も経った…。
それは何かにある話しからだったのかは分からない事にあったが、何かにあるその友人の暫くの頑張りからなのか…夏木立の下…。
日陰になっていた海砂の上にいたその女性は、漸く何かの話しもする。そうある話しも出来るようになった事だった。
それは少し離れた場所でいた嘉利たちの事を見ていた。それにある女性は、その声をかけた友人と何かに話している仕種があるようにもある。
何かそれにある様子が嘉利たちがいる場所からも見えると、それに呼んでいるような身振り手振りをしている友人の一人が見えた。
「あいつ…どうにも」
「凄いよ」
「おーい、もういいから…こっちに戻って来いよー」
するとそれに呼びかけられた声のある事に、どこか渋々とした様子に戻って来る。それにある友人の一人がいる事が見えた。
「何だよーもう少しで話も続けられたのに」
「どうした? 嘉利の事。ちゃんと伝えたのか? 」
夏木立のなか。夏の蒼空からの日射しを遮る日陰のなかにいた女性に話しかけた友人とは違う。またそれとは別のもう一人の友人がそう尋ねる。
「…ん…? 何の話だ? 伝えたのか…とかって…何の事だ」
嘉利を除いた。他の友人たちのその内緒話のような…。嘉利をからかったようにしようと話していた事を、嘉利はその時の今になって気がついたようにある。
「いやあ…この海岸に、あの場所にいる女性の事が…気になって気になって…というヤツがいるってな…。そんな嘉利がいるっていうだけの話をしていただけだよ」
「おい…何を勝手に…」
「漸くだったけど…嘉利と話しも少しならしてもいいってよ。やったじゃないか…最近まで振られた寂しさをひた隠しにいた。この色男の嘉利め」
……それにある話しからも……。
それは偶然にも、嘉利たちの今の普段にいる東京からこの海岸に来たという事に。それもこの街が地元でもあるように話していたようだった。
話ではもう暫く地元でもあるこの街にいるようだという事。大体いつもならこの場所で過ごす時間にあるようだという事にある。それにいた女性はそんなように話していたようだったと、嘉利の事をからかうつもりで声をかけて来た友人たちのその一人が、嘉利たちの待っていた場所に戻って来ると、そう話していたりした。
そんな日が数日間ほどあり。話もそのうちに何故か嘉利とその時の海岸にいた女性は少しの会話もあるような…そんな感じになって行った。
……そして夏木立の下にある日陰のなか……。
その場所で嘉利とその時の女性…咲菜は、いつしか嘉利たちが帰京する前日の日の午前にある時間帯に…自然と互いに連絡先の交換をした。
「ふっ…咲菜とは…僕は不思議な出会いだったと思う」
テーブルの上。そこに置いてある写真立て。いつかの嘉利と咲菜がいる。
それは出会いから知り合い…そしてつき合うようになった。その時間も数ヵ月も無かっただろう。
何故かその時…咲菜は嘉利に…ある願いを聞いてもらった。
「ねえ…お願いがあるの…。聞いて…くれる? 最初に私と嘉利が出会った場所…嘉利はそこを憶えいる? そこで…さっきの話し…もう一度そこでさっきの嘉利の言ってくれた…私への言葉…私…そこで聞いてみたい」
それが嘉利の自宅のテーブルの上の写真立てのなかに入れた写真にもある。その時に一緒に撮った嘉利と咲菜の二人の思い出の写真。
……もし…私たちが困難に出会った時は…この場所で逢おう……。
嘉利と咲菜がつき合うようになる事に、思い出の場所を作りに二人だけで行った。それにある事からの嘉利と咲菜…。そこは誰も知る事にない。二人だけの約束の場所になった。
「さて…そろそろ家からも出かけないと…会社への出勤時間にも少しだけ早いが…。今日は外も真っ白な雪の降り続けている風景だ。少し早めに出かけないと」
気がつけば…そんなように呟くようにもある事にも…息が空気に触れては、吐き出した小さな息も白くまあるく浮いた。
嘉利のそんな呟きもあった事にも、それと会社に向かうように思う。
「…じゃぁ…行って来るよ」
そんなように嘉利と咲菜。二人して写っている。嘉利の隣で微笑んでいる写真立てのなかに入れた写真にいる咲菜にそう話しかけていた。
まだ朝も早いうちに嘉利は出かけた。すると自宅に自動車を置いてある駐車庫に向かう。
「自動車に向かうまでは家から屋根続きになっているようにある建物だからいいが…この侭雪も降り続けていると…帰宅する頃にでは随分と積もってもいるはずのようだな。会社の上にある立体駐車場は、特に場所も場所ながらそれも問題も無く大丈夫だろうが…そうだな…帰宅する前に、一応でも自動車も冬用の護謨車輪に交換してくるようにするようにしないといけないかな…」
まだ朝も早い。薄暗くある空から降る雪のある朝も…そんな呟きからもあるようだった。
「ええ…と…。とりあえずは…そうだな…まだ自動車も普通の護謨車輪だから…それに…どれどれ…どこに…あったかな…? 」
嘉利は駐車庫に置いてある自動車に施錠した車鍵を手探りに、それと着ている上着の背広に作られている。その脇の辺りにある雨蓋がついた衣嚢から自動車の鍵を探して取り出す。
するとそれに重ね着するように思うようにした。外着用の黒い色にある。腿丈下ほどの外套を、一度鞄も持っている反対の手に持ち変えてから、その腰辺りに腕で挟むようにした。
「よいしょっ…んん…手に持っている鞄に外着も…持っているだけでも…んん」
……カチッ…ピピ…カシャ…ドッ……。
自動車の施錠を解除した機械の作動音がした。
すると嘉利は、解除開錠した自動車の運転席の開閉扉を開ける。
そうしてから手にしていて、それと持っていた鞄と黒い色をした外着の外套を、自動車の運転席側から助手席の座席にある座面に置いた。
「ええ…と」
嘉利は自分の自動車の後部の方にある。…荷箱に収納ってあるはずの物を探す事を思う。
それは今日のように雪の降っているような日では、今にある嘉利の自動車の護謨車輪では、アスファルトを敷いた道路に積もった雪とかにある事に疾駆る事に向いてはいない。
それにある事に、自動車の護謨車輪に装着する。簡易的な滑り止めを探している。
「この辺りに…確か…ああ…あったこれだ」
するとそれにある自動車の荷箱の内側を覗き込んでいる嘉利は、それとある底板を動かすと、そのなかに見えた収納の出来るようになっている。
そこに入れていた自動車に使う道具類のある下辺りからそれを見つけると取り出した。
それは自動車一台用にある。今日のような突然の雪の降り積もるような日に使う。簡易的な滑り止め。
然し、その使い方自体は簡単ではあるものの、それもなかなか慣れてもいない。
そんな事にもあっての嘉利は、仕事に向かうまでの時間も気になりながらもいるが…それにあっても…雪も降っているような日に使うようにある。
さっき見つけた簡易的な滑り止めのそれを、自動車にある四ヶ所の護謨車輪に、一つずつ装着をしている。
暫くしてから…それはほんの十分ほどの時間だった事にも、何か今日のような天候にあってからそうしていた嘉利は、漸く自動車にある護謨車輪の滑り止めの装着も済んだ事に呟くようにいた。
「ふうぅ…出来た。さて…こんなもんで大丈夫だろう。何か時間も気になるとこだが…今日のような天候の日にあれば、自動車の運転も気をつけて、然し、それに安全に向かうようにとしないとな」
そんな事を一人呟く嘉利。
そしてさっきまでしていた手の保護などにも使うようにもある作業手袋も、自動車の後部の方にある荷箱。その内側の道具類を入れていた場所に軽く畳んで、そこに置くようにした。
すると…それにある荷箱の内側に敷いていた底板を、元通りにあったようにしてきちんと戻してから、その嘉利の自動車の荷箱を確りと閉じるようにした。
珍しく降った季節外れの雪は、昨日までは乾いていたアスファルト敷にある道路を、仄暗い雲にぼんやりと覆われたような空から降り続く。どこか…ゆらゆらと、そこに吹く風に舞うように揺れながらも見えるようにある。
そんな様子にもあって、嘉利の自動車での通勤で通っている。いつもにある会社の仕事での往路にしているアスファルト敷の道路を、例年ではあまり見た事が無い時期にそれは雪道に変えていたりした。
「然し…降り積もったな。慎重に行かなければ…こういった日の自動車の運転も何があるか…それもあまり慣れてもいないしな」
自宅から続いている駐車庫から乗り込んだ自動車は、普通の護謨車輪に簡易的な滑り止めを装着していた。その少しの時間。
それまでにいた時間に、自動車のなかに暖房をかけていて暖気をしていた嘉利。
「うんん…自動車のなか…暖かい。でも…それにしても…突然に外に雪も降っていたら、それは寒さも感じるわけだ。それにしても暖気していた自動車のなかでも…まだそれという寒さも感じるようだよ」
そんな事にも漸く乗り込んだ自動車を発進させた嘉利は、自動車を駐車ていた駐車庫から、会社の仕事場にまでを向かう。
昨日まで見えていたアスファルト敷の道路のあったその色も、どこか疎らでしか見えない雪道にある。
そんなようにもある事に、嘉利はそこをゆっくりと慎重に運転もして行く事を思うようだった。