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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

春夏秋冬、四度死ぬ彼女に

作者: 歯車とけい
掲載日:2016/12/16

 春、桜舞う季節。

「わたしが死んだら、桜の木の下に埋めてね。燃やしちゃ駄目よ、ちゃんと肉のまま埋めてね」

 翌日、彼女は首をつった。

 それが彼女の一度目の死。




 夏、太陽盛る季節。

 僕は彼女と再会した。

「どうして生きているんだい」

「生きてなんかいないわ。死ねなかっただけ。だってあなた、桜の木の下に埋めてくれなかったでしょう」

 ああそうか。

 僕は納得する。

「来年埋めてあげるよ」

「必要ないわ」

 彼女の唇が魔法のように動く。

 夜桜色の、つやつやした唇。

「燃やして、骨にして、粉々に砕いて、それから海に撒いて頂戴。母なる海に還るの。母体回帰なんて、素敵だと思わない?」

 翌日、彼女は手首を切った。

 それが彼女の二度目の死。




 秋、実りの季節。

 再び彼女が現れた。

「やぁ、久しぶり」

「驚かないのね」

「知ってたからね」

 彼女は愉快そうに笑った。

「海に撒いてくれなかったものね」

「そうだね。撒かなかった」

「どうして?」

「もう忘れてしまったよ」

 真っ赤な紅葉。滴る血液。

 このふたつはよく似ている。

「それで、次はどうしてほしい?」

「話がはやくて助かるわ」

 彼女の目が楽しそうに細められる。

 海のようにきらめく瞳。

「今度は、畑。畑がいいわ。すり潰して、肥やしにして。来年の実りの糧になりたいの」

 翌日、彼女はバスタブで溺れた。

 それが彼女の三度目の死。




 冬、霜降る季節。

 僕は彼女を待っていた。

「久しぶりね」

「久しぶり」

「肥やしにしてって、お願いしたでしょう」

「ああ、された」

 彼女が首をかしげる。

「どうして言うとおりにしてくれないの?」

「さあね」

「そう」

 彼女が目を伏せた、その直後。

 ざくり、と。

 腹が冷たい刃物に貫かれた。

 ぬるりとした感触。傷口が灼熱する。地面が揺らぎ、冷たい雪に倒れふす。

 白雪が赤く染まる。

 紅葉。

「死んだら、どうしてほしい?」

 彼女の声。

 しびれる身体をぎこちなく動かした。

「きみと、一緒に、いさせてほしい」

「そう」

 彼女が雪の中に膝をついた。雪に溶けてしまいそうな、白くて小さい、可愛らしい膝。

「なら、わたしはこうするわ」

 肉の裂ける音。

 鮮血。

 季節外れの紅葉が踊る。

「これで、ずっと一緒」

 血の泡を吐きながら彼女は言った。その身体がゆっくりとかしぎ、倒れる。まるで僕に寄り添うように。

 手を伸ばし、彼女を抱き寄せた。――温かい。

 彼女が微笑んだ。海の瞳が、夜桜の唇が、死に侵されてゆく。

 ほしいものは手にはいった。引き止める理由も、留まる理由もなくなった。

 僕は、世界で一番の幸せ者だ。

 薄れゆく意識の中、遠のく世界に最後の言葉を放った。

 腕の中の体温が消えゆく。


 これが彼女の四度目の死。

 そして僕の一度目の死。

 もう、次はないだろう。

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