19.ちょっとした過去
「ああもう、ぜんっぜん分かんなぁい!」
放課後の静まりかえった教室に赤川の情けない悲鳴が響いた。
あれから月日は少したち、高校生活初めてのテストを迎えるまで残りわずかとなった。
「いやでも、これを公式にあてはめるとこうなんだって、」
俺の解説とも言えない解説は更なる彼女の声にもならない声にかき消される。
「ううえぇぇぇぇ、ほんとに数学無理ぃ!」
「赤川って頭良いイメージあったのにな…」
ぽそりと呟くと、うなだれた様子の赤川が小さな声で言った。
「別に、バカな訳じゃないよ。」
特段傷ついた様子でもなく言い放った赤川だったが、どこか悲しげな雰囲気を帯びていた。
「でもさ、本当に行きたかった高校に落ちて、滑り止めのつもりで受けた併願校に合格して、勉強する気とか出てこないよ」
「赤川も、併願受験だったの?」
まあね、と答えた彼女は、パンと大きく手を叩いた後、
「よっしゃ、暗い話は終了!ちゃちゃっと範囲終わらせて赤川はクールに去るぜ!」
趣味の少年漫画の口調を真似つつ、さっきとはうって変わった笑顔で話しかけてきたので若干戸惑いつつも、俺も「おー」と返して再び勉学に励むのであった。