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25》三年越しの強さ

 死ぬことを甘受するように目を瞑る。ずっと《ファミリー》を裏切ってきた自分が、ようやく罪悪感から解放される。悪夢のような現実から醒めることができるからか、安らぐように自然と唇が歪む。

 武器をパッと手放して、相手の凶刃が身体を刺し貫く時を待ち焦がれる。いまさら謝ってもどうしようもなかったけれど、一言だけでもいいから謝りたかった。でも、もしも謝ってしまったら、きっと許されてしまいそうだ。そんなことは許されない。生きているだけで、誰かを傷つける人間は確かに存在する。そんな人間は、大切な人に憎悪されながら死ぬのがお似合いなのだ。そんな咎人には懺悔の時間すら与えられない。

 救いがあるとするならば、止めを刺してくれる相手。他の誰かじゃなく、こんな自分のことを思ってくれた相手に殺されてこそ本望だ。もう誰も傷つかなくてすむのなら、きっとこんな自分にも意味のある死なのだろう。……なのに、


 眼前にいたカナルは剣を捨てていた。


 エニスは見開いた目をさらに驚いたように開く。斜め下にはエニスが投げ捨てた炎の鎌が転がっていた。

 それに、カナルの剣も。生きるつもりなどなかったのに、カナルと同時に武装解除してしまったらしい。最後の一撃を無抵抗に受けることで、全てを終わらせようとしていた。カナルとは戦いたくないから、そうしたのに。どうして。もしかして、カナルも自分と同じようなことを考えて。どちらも止めを刺さされることを覚悟して、武器を放棄した? 死ぬのが分かっていながら、もうこれ以上傷つけたくないから。大切な《ファミリー》を、殺すことなどできないと思ったのか。

「……エニス。お前、本当は誰も傷つけたくなかったのか」

 能力の暴走。エニスの意志とは関係なしに発動した能力はあまりにも強大で、三年前の自分では制御ができなかった。きっかけは、もっと幸せになりたいとか、些細なことだったような気がする。あまりその時の気持ちは覚えてない。それほどまでに平凡で、誰もが一度は考えたようなことだった。

 それなのに、能力が暴走したせいで色々な人を傷つけた。誰かが幸せになるためには、誰かの不幸が絶対につきまとう。ということは、誰かが不幸になれば逆説的に自分が幸せになれるのだと思ったのだろうか。

 とにかく一人が傷ついて、そしてエニスに反撃してきた。わざとではないとどれだけ泣き叫んでも、攻撃を受けた相手は知ったことではない。でも、傷つくのが嫌で、そして誰かを傷つけるのも嫌というエニスの意志が、さらに能力を暴発させた。

 自分の手は汚さずに、攻撃をしかけてきた相手を排除した。誰かを操って争わせた。エニスの能力は本来頭に触れなければならないはずなのに、その時は触れずに操った。暴走した能力はそれほどまでに強力で、押さえつけることなどできなかった。

「そんなことあるわけないでしょ! 私は! みんなを殺したいんだよ!!」

 そうして、『グルマタの惨禍』は引き起こされてしまった。大勢の人間が大挙として押し寄せてきた。自分という化け物を退治するために、数えきれないほどの人数が集結した。あまりにもそれが怖くて。自分は悪くないと思い込んで、何人もの倒れていく《デバイサー》を目にしながらも、必死になって耳を塞いでいた。目を瞑って逃げ出した。でも、それでもやはり全ては自分のせいで。

 それを自覚した時には、もう手遅れだった。

 残っていたのは、《フルハートファミリー》だけだった。苦しみながらも、解放されるためには自分が消えてしまうしかない。でも、自分じゃ自分を消し去る勇気がなくて。無意識的に懇願した気がする。速く殺して欲しいと。

 でも、こんな自分の味方になってくれる人間がいた。

 そんな人間がいるとは思えなくて、耳を疑った。でも、それは真実で。でも、そのせいでその人間は裏切り者になってしまった。自分が傷つくのも辛いけれど、その男が傷つくのを見るのはもっと辛かった。だから、記憶が蘇った時、自分だけが悪者になろうと思った。

 蟹の《バク》を討伐した時に発生した『メモリーダスト現象』では完全に記憶が再生されることはなく。完全に思い出したのはついさきほどのことだ。自分の頭に自分の手を当てて、ようやく全てを思い出した。いや、全てを思い出した気になった。

 どこまでが正しく。どこまでが嘘なのかは定かではない。

 暴走した能力はエニスの脳細胞をどれだけ破壊したのか分からないし、今の自分は三年前の暴走時より落ち着いているが故に弱体化している。だから、記憶の真偽は判別つかない。二重三重に記憶を塗り替えられているかもしれない。

 しかし、確かなことが一つ。エニスの能力によってグルマタの《デバイサー》の記憶が全て捏造したということだ。暴走した能力を大勢の人間に使うことによって鎮静化できたのは、あまりにも皮肉なことだった。だが、記憶を差し替えた《デバイサー》の中に、自分を入れたのは最悪なことだった。

「そもそも、カナルの《フルハートファミリー》ってなんなんなの? 他人が家族ごっこしていてホントに気持ち悪いんだけど!」

 カナルが《フルハートファミリー》を裏切ったことをなかったことにしたかった。それだけならただの罪滅ぼしだった。なのに、エニスは自らを《フルハートファミリー》の一員であると刷り込ませた。それは、あまりにも羨ましかったからだ。カナルのような人の傍にいたいと思った。

 でも、《惨禍の死神》のままでは輪に入ることはできない。だから、偽物の家族になることにした。でも、それは間違いだった。

「死ね! 速く死ねばいいんだ!!」

 あのデバイサーに退治されてしまえば、ただの美談に終わったはずだった。それなのに、エニスは安らぎを得るために、偽りの日常を手にした。そのせいでカナルは同じ《ファミリー》の一員と戦う羽目になってしまった。ぼろぼろになったその躰を見て、やっぱり自分のやってきたことは全て間違いだ――


「大丈夫だよ、エニス」


 死ねばいいのは自分ひとりだけ。そう思っているエニスを包み込むような優しい声で、カナルは呟く。

「俺はお前に記憶を差し替えられて良かったとさえ思ってるんだから」

 呼吸が止まる。

 気休めであったとしても、《惨禍の死神》にそんなことを告げられることができるだろうか。油断しきっているエニスに今こそ引導を渡せるチャンスで。それこそ死ぬほど恨んでいる相手なはずなのに、カナルはエニスの存在を許容している。それどころか、許されない所業をも、肯定している。

「あの時の俺は力がなくて、エニスを助けられなかった。でもこんな俺でも三年の月日の内に強くなれたんだ。その時間を作ってくれて本当にありがとう。強くなれた俺なら、あの時救えなかったエニスのことを、今度こそ救える気がするんだ」

「私は生きてちゃいけないのに……」

「生きていちゃいけないなんて言うなよ。俺はお前に生きていて欲しいんだ。この気持ちは三年前からずっと変わっていないよ」

 グッ、と堪えたはずなのに、涙が瞳にたまる。

「私は――」

 どうあっても死のうと思った。卑怯にも三年前と同じように他人の手に委ねた。自殺するわけではなく、他人にその重荷を背負わせようとした。記憶を改竄して、カナルのことを傷つけた。みんなを不幸のどん底に叩き落としてしまった。そんな自分でもカナルは生きていて欲しいと言ってくれている。それはきっと――


「ご苦労様」


 カチャ、と銃の引き金を引く音が木霊する。それと同時に、地下道に大勢の人間が押し寄せてきた。その誰もが見たことのある人物ばかりで。三年前に、エニスが傷つけた者たちばかりで。みんなが恨みをこめた眼で、エニスのことを睨んでいた。それを率いているのは、一番隊隊長にして、《灰かぶりの銃弾》の纏め役のヴァルヴォルテだった。

「君がその死神の気を引いてくれたおかげで、僕たちもここまで無傷で来れたようだ。協力感謝しますよ、カナルくん」


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