表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

18》戦闘経験の格差

 フローラが右手を突き出すと同時に、カナルは剣を地面と水平にして虚空を斬りつける。ガガガガ!! と、剣は不可視の壁に阻まれる。しかし伝わる感触は、壁というよりも、まるで砂利。まるで水のように複雑に動くことができる『それ』は、うねりながらカナルを突き飛ばす。

 カナルは倒れたまま瓦礫を能力で投擲するが、それはフローラの障壁によって塞がれる。粒子によって構築された見えざる壁は、凝縮されることによってその全容を明らかにする。それは――

「『花粉』……。それが私の能力なのは、おにいちゃんも知ってる通りです。逃げ足が速いのはおにいちゃんの特徴ですが、この地下という密閉空間なら、逃げ場は少ないですよね」

 花粉が天井近くまで伸びあがると、津波のように襲い掛かってくる。固める花粉の質量が大きければ大きいほど、鮮明に花粉を正視することができる。だが、いくら瞳に映すことができたとしても、それを避けられるかどうかは別問題だ。

 ドパンッ!! と、花粉の波がカナルの立っていたところを覆った。ただの花粉ではない。蟹の《バク》の猛攻を防護したほどの耐久力を持つ花粉だ。それが拡散した花粉の表面は尖っていて、まるで一粒一粒が剣のように鋭利。斬撃そのものが無数に増えたのと同義で。花粉の津波は岩ですら切り刻んでしまう。そんな空間そのものを削るような花粉の先に――カナルはいなかった。

 

 カナルは、フローラの後方の水中から飛び上がる。


 カナルは花粉の津波が押し寄せてくる直前に、地下道に流れている水に飛び込んでいた。巻き上がった土煙を目くらましにして、水中を能力で高速移動した。下水道の水を、束ねた糸のように手に纏わせながら放出する。

 驚愕に満ちた顔をしたフローラが振り返ると、花粉の塊で迎撃する。が、障壁を構築できる時間もなかったフローラは威力を出し切れなかった。

「くっ!」

 悪態をつくフローラに、能力で瓦礫を投擲する。正面から何の策もなしに投擲された瓦礫を、フローラはしっかりと障壁で防ぐ。だが、その直後に、フローラの足元から、下水が蛇のように牙をむく。

「――うっ――あっ――!」

 今度こそフローラに攻撃が直撃する。花粉による障壁は、咄嗟に一面しか覆うことができない。無から有を生み出す能力は、顕現範囲に制限があるケースが多い。フローラの花粉の能力も御多分に漏れず、それだ。

「瓦礫は布石。正面に意識を裂かせ、後方に仕掛けておいた罠を私に気がつかせないように作動するためのもの!!」

 たじろいでいる隙に、一気にフローラとの距離を詰める。遠距離から花粉を飛ばされてしまったら、手の内ようがない。

「うおおおおおお!!」

 斜め下から剣を振り上げると、束ねられた花粉で受け止められる。ここで引いてしまったら、花粉の餌食。花粉の隙間を狙って、幾度となく剣を振り回す。が、ギィン! ギィン! と、まるで剣戟のような音が地下に木霊する。

 密度がある分、花粉の方が一撃は重い。だが、フローラはカナルの剣捌きについてこれていない。そのせいで、花粉を収束させるタイミングがワンテンポ遅れてしまっている。

 《バク》のほとんどは、化け物じみた力と容貌をしている。そのため巨大な敵を想定して、フローラは火力のある攻撃を身に着けている。そのせいで、対人戦において意外な脆さを露呈させてしまっている。

 しかも、フローラとアローンは代わる代わる戦うため、他の《デバイサー》よりも人間との戦闘経験値を積みづらい。

「よしっ!」

 フローラがカナルの剣を上に弾く。勝利を確信したフローラは一瞬気を緩めながらも、衝撃で倒れるカナルを切り刻むために花粉を集束させる。が――だからこそ、防御が間に合わない。

 カナルはフローラと戦いながら、地下水を球体にしてフヨフヨと浮かせていた。自身の背中に張り付けるように。フローラに見つからないようにしていた水を、一気に放出する。ドボォオオン!! と脊髄から叩きつけられたフローラに、カナルは剣を拾い上げると特攻する。ここで一気に決める。

「……私は元々、戦闘能力は弱いんですよね。だから後方支援ばかりしているんです。それでも、おにいちゃんと戦わなきゃいけなかった。勝たなきゃならなかった。でも、もう私はダメみたいです。だから――」


「あとはお願い。アローン」


 剣を振り下ろしたが、倒れていた奴が最低限の動作で首を動かして避ける。凶悪そうな笑みを携えながら、カナルの脇腹を蹴り上げる。がはっ――と、カナルは悶絶しながらも、立ち上がる。

 戦うスタイルが、さっきまでとまるで違う。それに、こちらが与えた傷が、次第に修復していく。それどころか、筋肉や骨格までが変わっていく。バキバキッとまるで全身が悲鳴を上げているかのような音がすると、そいつは尻についた土埃を乱暴に振り払いながら、やおら立ち上がる。

 双子なので、フローラと顔は瓜二つなのは当然なのだが、それでも別人であることは漂ってくる雰囲気や立ち振る舞いから誰であろうと察する。誰よりも優しい、まるで花畑のど真ん中で踊っているようなフローラと違って、彼は殺伐としたこの地下道が似合いすぎている。

 猫背気味に立っていて、両の手はポケットに入れている。隙だらけの恰好をしているのに、それでも攻められない。フローラと違って、彼は戦闘経験が豊富だ。今ではフローラが表立って行動をしているが、こと戦闘に関してはほとんど彼が先陣を切ることが多い。しかも、《バク》相手というより、人間相手をした数の方が多い。もしかしたら、対人戦だけならば、《フルハートファミリー》で最も多く経験しているかもしれない。

「……ようやく起きたのか、アローン」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ