1話〜今夜もふたりで〜
「ねえ、矢野くん。今日は角煮が食べたい。」
まるで自分の家にいるかのように、ソファーに寝転ぶ彼女。もうこんな関係になってから約一年が経つ。
彼女の名前は石居春姫。大学の同学部の先輩だ。
太く整った眉に綺麗な鼻筋。短過ぎず、だが、くっきりとラインをつくる睫毛に、綺麗な二重瞼。それと、ちょこんと付いているピンク色の唇に、濃すぎないメイク。髪は黒のロング。寝坊した日なんかにはこれがクシャッとしているので、すぐにバレる。とにかく、俺にとっての理想のルックスだ。
実家は山の方にあるお結構な屋敷で、長い休みの時なんかにはよく連れて行ってくれる。畳が何十枚も在る部屋に通されたのをよく覚えている。
どうやら彼女は、年下を構うのが好きらしく、僕もその対象の一人なのだろう。だが、その中でも俺はかなり特別な方である。…と自負しているつもりだ。
ところで、これだけ話しておいて何だが、彼女は別に俺の恋人と言うわけではない。
彼女には別に相手がいたし、俺にも他に大切にしている人がいた。
じゃあ何故こんな関係にあるかって、よく周りに聞かれるが、正直俺にもわからない。もう一年も前からこんなかんじだ。きっかけとかそういうのは一切忘れてしまった。
「いくらなんでもそれは無理です。オムライスでいいですか。」
そう言うと彼女は、無表情で冷蔵庫を指差した。
「駄目。今日は角煮がいいの。」
「えー。」
と言いながら、冷蔵庫をのぞいてみると、そこには高そうな肉が入っていた。
「どうしたんすか、これ。」
少し間があって、ゆっくりと振り返った先輩は、口を横にしてニヤニヤながら言った。
「美味しそうでしょう。」
「美味しそう…ですけど、まずは質問にこたえ…」
「矢野ー、めんどい男は嫌われるわよー。男は黙ってお料理お料理。」
「…と言われても、今からですか?もう十時っすよ?」
「馬鹿ねぇー、夜はこれからよ。」
…ふと、彼女の手元を見てみる。
とても終わりそうとは思えない量の…
「ちょっと、憐れむような目で見ないでよ。」
「え、あ、いや、見てませんよ。」
彼女には本当に呆れたものだ。提出日前夜はいつもこんな感じで、俺を巻き込んでくる。
「…先輩」
「え…っんぁ…」
そのたびに俺は、こうやって…
「ぁあっつうぅぅぅぅぅヴ!!」
淹れたてほかほかのはちみつレモンの入ったカップを先輩の首にあてて、先輩をいじめる。
「寝そうでしたら、俺がこうやって起こしますんで、安心してレポートに励んでください♪二人で乗り切りましょう。」
「…」
1話 今夜は二人で 終
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