表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

かえるの夢

作者: ガチャガチャ
掲載日:2014/03/27

ある田んぼの水の中で、かえるが一匹、考え事をしていました。

ああ、とうとう大人になってしまった。

尻尾も取れて、やはり当然だが、かえるの姿になってしまった。

かえるの子はかえるだから、大人になると、この姿になるのは、仕方ないことだけど、やっぱりぼくは、もっと大きな姿になりたかったなあ。


そんなところに、さぎが一羽飛んで来ました。

身の危険を感じて逃げる仲間をよそに、かえるは、もう死んでもいいやと諦めて、そこにただ佇んでいました。

さぎは、この変わったかえるの様子を、しばらくじっと見ていましたが、なんだか少し不思議に思って、声をかけました。


かえるよお、なぜ逃げないんだ?


かえるは、すっかり食べられるものと思っていましたから、なんだか拍子抜けしましたが、相変わらず憂鬱なので、独り言のようにぽつりと言いました。


ぼくは、さっさと死んでしまったほうがいいんだ。いくら考えても、どうすることもできない。ぼくは、もっと大きな姿になりたかったんだ。


さぎは、笑いました。この滑稽なかえるを笑いました。しかし、あまりに真剣な様子のかえるを見て、だんだん可哀想になりました。

さぎは、このかえるを食べることを辞めました。そして、自分の羽根を一つとって、そのかえるに渡しました。白いきれいな羽根でした。


この羽根を君の体にくくりつければ、あるいは大きく見えるかもしれん。まあ、元気を出しなさい。


そう言うと、さぎは、大きな翼を広げて、あっという間に飛んで行ってしまいました。

かえるは、少し泣き、さぎからもらった羽根を背中につけました。

かえるは、気晴らしに、田んぼの畦道を、歩いてみました。

羽根のぶん、大きくなった気がして、少し自信がでてきました。ただ、かえるはかえる。憂鬱な気分は、いっこうに晴れませんでした。


そこへ、しまへびがやって来ました。

しまへびは、この風変わりなかえるを見て、笑いました。かえるは、とても憂鬱なので、しまへびが笑っていても知らんぷりでした。かえるは、無視して、そのまま通り過ぎようとしました。

しまへびは、とても短気な性格でした。


へびに睨まれたかえるなんて言葉があるように、わたしを見ればどのかえるだって、怯え切って動かなくなるのに、無視をして、通り過ぎるとは何事か。


すっかり腹を立てたしまへびは、ちっともお腹は空いていませんでしたが、このかえるを殺してしまおうと、ぐるぐる巻きにして、締め上げ始めました。

しまへびのすごい力に、かえるの体は押し潰されそうになりました。

かえるは、意識が遠のき、ああ、いよいよ死んでしまうんだなあと思いました。


次、もし生まれ変われるなら、もっと大きな生き物に生まれ変わりたい。


しかし、しばらくすると、力がだんだん弱くなり、ついにしまへびはかえるを離してしまいました。

かえるは、不思議に思って、しまへびの顔を見ました。

しまへびは、苦しそうな顔をしています。

動きがだんだん鈍くなり、しまへびは、とうとう動かなくなりました。



しまへびは、それからもう、動きませんでした。



しまへびが死んだのは、病気が原因でした。かえるは、初めて死を間近に見ました。

さっきまで、あれだけ元気だったしまへびが、今はもう生き物ではありません。

まるで、無機質で、物という印象を受けました。

かえるは、なんだか悲しくなりました。

そして、死というものがとても恐ろしくなりました。

背中の羽根を見ると、先ほどまで綺麗だった羽根が、今は少し萎びれて、生命力を失っていました。

かえるは、初めて、生きるということを考えました。


死ぬということは、悲しいことだなあ。


かえるは、死んでもいいやと思うことを辞めました。だからといって、このまま小さい姿で生きていくのは、憂鬱でした。それは、誰かに見られると恥ずかしいと思うくらいでした。そう思うと、この羽根を付けていることだって、自分を大きく見せようという意識が見えて、恥ずかしく思い始めました。


かえるは、さぎからもらった羽根を捨てました。風に乗り、羽根は、遠く遠くへ飛んで行きました。


また、畦道を進むと、ありの行列に出くわしました。

かえるは、憂鬱で、食欲なんてありませんでしたから、でも、立ち止まり、何の気なしにその行列を見つめていました。

ありたちは、かえるに気づかない様子で、忙しそうに働いていました。

しばらくすると、一匹のありが列から離れました。脚が折れていて、触覚が震えています。ありは、ついに動けなくなって、横に倒れてしまいました。

仲間のありはというと、やはりせっせと働いていて、見向きもしませんでした。

かえるは、このありに、なんとかもう少し生きて欲しいと願いました。

ありは、かえるのほうを見ました。

驚きもせず、ただこちらをじっと見ていました。

ありは、死を覚悟しているようでした。

かえるは、どうしてやることもできず、ただ見ていることしかできませんでした。


ありは、かえるに話しかけました。


かえるさん、どうしたのです。早く、食べてしまわないのですか?


かえるは、言葉を探しましたが、少し考えた後、次のように言いました。


ありくん、君は死んでしまうのが、怖くないのかい?


ありは、少し考えた後、


しかし、しょうがないことです。


と、答えました。


かえるは、寂しくなりました。

命を諦めているありとさっきの自分が重なったのです。


ありくん、君は、そんなに小さく弱く生まれて、みじめじゃないかい?


かえるは、ありに問いかけました。


ありは、しばらく沈黙すると、次のように言いました。


わたしは、生まれつき脚が弱く、しかし、この姿に生まれてきたことを有難く思っています。そして、今、脚がとうとうだめになって、あなたに食べられて、死ぬことになっても、それが天命だと思っています。なんの悔いもありません。


なんで、そんなつまらないことを言うのだろう。しかし、ありの顔は真剣でした。かえるは、ますます生きるということが、わからなくなりました。


考えていると、その様子を見て、ありがかえるに言いました。


あなたは、幸せですね。わたしに比べれば。脚は健康だし、わたしより大きくて強いし。でも、とても悲しそうに見えます。


かえるは、堪らなくなって答えました。


ぼくは、もっと大きな姿に生まれたかったんだ。強くてかっこいいじゃないか。

でも、ぼくは、この小さく間抜けな姿に生まれた。情けなくて死にたくなったが、死ぬのも怖い。ぼくは、なんて小さいんだ・・。


ありは、言いました。


羨ましい方ですね。あなたは。

わたしなどは、生きるのに手一杯でそんなことを考えたこともない。

きっと、生きるのに余裕があるのでしょう。


かえるは、ありの言葉を聴いて、ますます恥ずかしくなって、もう、堪らなくなってしまいました。


まるで、ぼくは、このありくんより小さいじゃないか。





このありがいると、どんどん自分がみじめに見える。この、ありを消してしまいたい。そんな、意識がそうさせたのでしょうか。かえるは、咄嗟に舌を伸ばし、ありを食べてしまいました。




それは、一瞬で、気づいたら飲み込んでいたのでした。


かえるは、喉の奥にありがいるのを感じました。すると、無性に気分が悪くなって、げーげー吐きました。

涙が大粒になって出ました。

嗚咽まじりに、おいおい泣きました。



しかし、ありは、もう出てくることは、ありませんでした。



日が暮れ、夜になりました。

かえるは、呆然とし、丘の上に座っていました。

どうやってここに来たかも覚えていません。

のどの奥がじんじん痛みます。

痛むたび、先程のありのことを思い出し、かえるは、また泣くのでした。


幾日か過ぎました。

かえるは、まだ、丘の上に座っていました。

お腹なんて空きません。

だから、かえるは、かなりやつれていました。


ああ、もう生きる気力が湧かない。



かえるは、もう何もかもが嫌になっていました。

誰か強い生き物が現れて、自分をさっさと飲み込んでくれないだろうかと思いました。


かえるは、あれから、一睡もできていませんでした。

しかし、疲れが溜まっていたのでしょう。

かえるは、とうとう、眠りにつきました。






夢を見ました。

夢には、脚の折れたありが出てきました。

先日自分が呑み込んだありでした。

かえるは、慌てました。

そして、謝りました。

ひたすらに頭を下げて、


ごめんなさい。ごめんなさい。


と、繰り返し謝りました。





頭を挙げてください。


それは、ありの声でした。


かえるは、頭を挙げました。


ありは、続けます。


かえるさん、死ぬとは、簡単なものですね。しかし、生きるとは、難しいものですね。


死にたいと思うなら死になさい。それがあなたの天命です。わたしは、次に何に生まれ変わるか知りませんが、どんな姿になったって、一生懸命生きてやりますよ。


かえるさん、あなたは?


そう言うと、ありは、意地悪そうな顔をして、最後ににこりと笑いました。










かえるは、目を覚ましました。

辺りは暗く、夜のようでした。

空は、満天の星空でした。

こんな綺麗な景色を、かえるは、初めて見ました。


かえるは、感動して泣きました。

泣けば泣くほど、力が湧いてくるのを感じました。


かえるは、もう大丈夫な気がしました。

また、この綺麗な景色を、見たいなあと思いました。




遠くで仲間の鳴き声で聞こえます。

そろそろ帰ろうか。

お腹が空いた。


かえるは、丘を下り、田んぼへと帰ります。

ぴょんぴょん跳ねながら、帰ります。


終わり










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ