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旧作1-1  作者: 智枝 理子
Ⅳ.暁を呼ぶ騎士
42/45

76

 オペクァエル山脈の山道に、もう雪は見当たらない。

 流石に夏は、雪がないんだろう

『みんな。久しぶりね』

『ナターシャ』

『おかえり』

『どこまで行ってきたの?』

「ラングリオンよ」

『東の果てか』

『そして西の果てに戻って来たのか』

『そういうことになるわね』

『楽しそうだな』

『エルと一緒に居たら飽きないわ』

『良かったね』

『えぇ』

『雰囲気が変わった』

『人間に影響されてる』

『まだ帰ってこないの?』

『エルが死ぬまで、離れないわ』

『そうか』

『待っているよ』

『気を付けて』

 懐かしいな。ナターシャたちに助けてもらったんだっけ。

「エル、ここだ」

 登山道の入口から、そう離れていない場所に、巨大な魔法陣が描かれている。

「大きすぎて、端が見えないぞ」

 確かに、村が一つ入りそうなぐらいの大きさだ。

 これを六日で作れたという方が奇跡だろう。

 精霊に手伝ってもらったとしても、俺が一人で作るには半月はかかるだろう。

「作ってみるかな」

「は?」

 足元に、魔法陣を描く。

「お前、図柄覚えてるのかよ」

「だいたい。入口の陣なら間近で見たことがある。出口は、ここをこう書けばいいだろ」

「おぉ」

 そして、数歩移動した先に、魔法陣を描く。こっちは入口。

「おい、転移の魔法陣は、女王の魔力の入口と出口を繋ぐんだぞ」

 入り口に手をついて、目を閉じ、魔力を集中する。

 これが、女王の魔力の流れ。これに、少し俺の魔力を流して、出口に繋げれば…。

「エル!」

 眩暈に似た感覚。

 そして、目を開くと、出口側の魔法陣の上に居る。

「お前、今、どうやったんだ」

「アリシアが言ってただろ。自分の魔力で繋ぐこともできるって。女王の魔力を掴んで、ちょっと方向を変えたんだ」

「あぁ。お前に世界の基準は当てはまらなかったな」

「俺にできないことなんてないからな。…ん?」

 なんだ、この感じ。

 慌てて、魔法陣の上から避ける。

 と。

「お前は」

「お前は!」

 イリデッセンスを抜いて、相手に突きつける。

「剣を降ろせ。戦う意思はない」

 見覚えのあるローブを着た、女魔法使いが両手を上げる。

「お前、ソニアだろ。何しに来た」

「リリーシア様は?」

「居ないよ」

「エル。剣を持たない相手に剣を向けるな。アリシアは、お前がリリーシアちゃんを連れてくると思ってるんだぞ。ソニアがここに来た理由はわかるだろ」

 そうだった。

 イリデッセンスを鞘に納める。

「何故、リリーシア様がいらっしゃらないんだ」

「会えなかったから置いてきたんだよ。王都の方が安全だ」

「…そうか」

「なんだよ、お前ら。因縁でもあるのか?」

「戦ったことがある」

「え?」

「あの時は、すまなかった。お前がリリーシア様の障害になると思ったから…」

 ソニアは、ポルトペスタで俺を殺そうとして…。

「そうだ。礼を言おうと思ってたんだ。あの時、リリーの為に氷の盾を使ったんだろ?」

「気づいていたのか?一瞬で焼き尽くされたのに」

 ポラリスに教えてもらうまで気づかなかったけど。

「そのおかげで、リリーが無事だった。感謝してる」

「私を、許すのか」

「リリーが大事なのはお互い様だろ。もう一度俺と戦うって言うなら容赦しないけどな」

「もう、戦う理由がない。お前はリリーシア様を救おうとしてるんだ。私が浅はかだった」

「そうだな。協力してくれれば、もっと早く答えに辿り着けていたかもしれない」

「すまない」

「けど、あの時、あの時点では不可能だった。…この話しはもう終わりだ。お前は、リリーに会いに来ただけか?」

「私はカミーユ様にアリシア様の伝言を伝えに来たんだ。準備は滞りなく進んでいる、明日は朝から魔法陣の傍に居てくれ、と」

「朝から?…了解。早めにアユノトを出るよ」

 カミーユに言った後、ソニアは周囲を見回す。

「この魔法陣はなんだ?私は、あの魔法陣に出る予定だったのに」

 そう言って、ソニアは巨大な魔法陣を見る。

「こいつが勝手に女王の魔力の道を捻じ曲げたからだろ」

 カミーユが俺を指さす。

「捻じ曲げたわけじゃない」

「いつもと違う感覚だったのは、お前の魔力のせいか」

「おい、お前が変な出口作ったせいで、あの魔法陣が使えなくなってたりしないよな」

「それは大丈夫だ。入口側の魔法陣は、この魔法陣と呼応するように作っている。出口の魔法陣以外には転移できない」

「なら、いいけど」

 あぁ、良かった。

「こっちは、入口か?」

「実験してたんだよ。俺も作れるか」

「実験?どうやったら、女王陛下の魔力に干渉できるんだ。この国で入口と出口を作れるのは女王陛下のみだ」

「ソニアちゃん。こいつに一般常識通用しないから」

「信じられない」

「魔法陣の使い方を教えてくれ」

「…は?」

「あちこちに飛べるんだろ?王都まで飛びたい」

「自分で魔法陣が作れるのに、どうして使えないんだ」

「短い距離なら、場所がわかるけど、長い距離の情報のとらえ方がわからない」

「本当に、一般常識が通用しないのだな」

 ソニアが苦笑する。

「魔法陣を使うには、氷の精霊が必要だ」

「氷の精霊とは契約してない」

「それだと、女王陛下の魔力に同調するのは難しいだろう。同調できれば、出口が見えるようになる。…王都まで飛びたいなら、私が案内しよう」

「あぁ。頼むよ。…カミーユ、後は任せた」

「了解」

 ソニアと共に、入口の魔法陣に乗る。

「エル、死ぬなよ」

「もちろん」

 転移の魔法陣が起動する。


 そして、王都の郊外へ。

「便利だな」

 一瞬で、プレザーブ城の見えるところに着くなんて。

「入口が少ないのが難点だ。王都以外に入口はない。オペクァエル山脈にはあるけれど」

 やっぱりそうなのか。

「では、私は城に帰る」

『待ってよソニア』

「イリス?何故、お前がここに?」

『リリーはボクより強い精霊が守ってるからいいんだ。それより、リリーから伝言。酷いこと言ってごめんねって』

「リリーシア様…」

『ソニアは、リリーが城に帰らなかったら、リリーが死ぬかもしれないから、リリーの目的を邪魔しに来たんだろ?リリーはわかってるよ。だから、自分に関わるなって言ったんだ』

「わかっているよ。イリス。リリーシア様は誰よりもお優しいんだ。私に命令を下して、ご自分が傷つかれないわけがない。酷いことをしたのは私なんだ」

『ソニア…』

「言いたいことがあるなら、本人に言え。イリスを通して会話したって、リリーの気持ちはわからないぞ」

「リリーシア様を怒らせたことに変わりない」

「怒ってるなら謝らないだろ。お前、本気で俺を殺せると思ってたのか」

「お前が黄昏の魔法使いだなんて知らなかった」

「もう、うんざりだ」

 いつまで、そう呼ばれ続けるんだ。

「黄昏の魔法使いなんて存在しない。俺は、自分をそう呼んだことは一度もない」

「…では、エルロック」

 ちゃんと俺の名前、知ってるんじゃないか。

「リリーシア様を、救ってくれ」

「それだけが、俺の目的だ」


 ※


 氷砂糖亭。

「おや、いらっしゃい。久しぶりだね」

「久しぶり。空いてるか?」

「あぁ。前と同じ部屋で、ポールが待ってるよ」

「そうか。わかった」

 もう、驚きもしないな。

 階段を上って、一番奥の部屋へ。

「よぉ、エルロック。久しぶりだな」

「ポール」

「リリーシア様を置いてきたんだってな」

 リリーシア様、か。

 椅子を引いて、ポールの向かいに座る。

「いつから気づいてた」

「初めて会った時から気づいてたよ。俺は城の魔法使いだ」

「リリーは気付いてなかった」

 イリスも。

「俺は城の外に居る方が多いんでね」

「オペクァエル山へ俺たちを誘導したのはわざとか」

「フリオ街道を南下された方が襲いにくいからな」

 全部、女王の手の内か。

「でも、リリーシア様がお前と一緒に居て驚いたぜ。テオドールの奴が失敗して、探し回ってたからな。…あぁ、テオドールっていうのは、リリーシア様の教育係な」

「で?今は俺の味方なのか?」

「そういうことだ」

 ポールが紙を一枚出す。

「城の見取り図だ」

「…なんだ、これは」

 扉がほとんどない。

「城の移動は魔法陣で行う。市民の居住区と女王の娘が住む区画、魔法使いが住む区画は、完全に断絶されているんだ」

 市民は絶対に外に出られない。壁に囲まれた作りになっている。

「まぁ、ここまで詳しい見取り図はお前には必要ないだろうけど。お前は明日、城の正面から中に入る。ここは、市民が陳情に来る場所なんだ。誰でも出入り自由な場所」

「ここも氷でできているのか」

「…いや。ここは石造りだ。氷でできてるのは、ここから、全部」

 市民が入れる場所は、崩れる心配はないんだな。

「で、この先には魔法使いが出入りする広間があるんだ。貢物や、商品を中に運ぶための魔法陣。ここは一般市民は立ち入り禁止だが、お前が入れるようにしてある。この広間に、試練の扉があるんだ」

 ポールが見取り図を指さす。

 試練の扉の、その先は…。

「廊下を通った先は、女王の間の目の前。紅のローブが居るホールに続いてる」

「そこに、リリスが」

「試練の扉を開いたら、連絡係がアリシア様に報告する」

「わかった」

「タイミングはお前に任せるそうだ」

「明日の朝でいいんだろ?」

「心の準備はできてるのか」

「なんだよ、それ」

「紅のローブが怖くないのか」

「一度も会ったことのない相手を、怖いなんて思えない」

「俺らにとっては、神様よりも恐ろしい相手だぜ」

「女なんだろ?」

「わからない。顔も見たことがないんだ」

「顔を見たことがない?」

「いつも、深紅のローブで全身を覆っているんだ。声だって、男なんだか女なんだか。リリスなら、絶世の美女なんだろうけどな」

 器になる人間がどんな姿をしていても、悪魔召喚によって、その姿は悪魔のものになる。

 元のリリスの姿をしているかどうかはわからないけれど。ある程度、自分の姿は変えられるだろう。

「何か、質問はあるか?」

「情報屋なら、リリーが今どこに居るか知らないか」

「三日前にポルトペスタを出発したそうだ」

「三日前?」

 どうやったら、そこまで早く追いつけるんだよ。

「指輪なんて作ってるから追いつかれるんだよ」

「なんで、知ってる」

 グラン・リューの知り合いか。

 ポールが笑う。

「結婚おめでとう、エル」

 祝福されてるんだか、馬鹿にされてるんだかわからなくなってきた。

「三日前に出発ってことは、もう近くまで来てるじゃないか。どうやったんだ」

「馬車で移動してるからな」

「あぁ、その手があったか」

 馬車なら、倍の速さで移動できるだろう。

「朝一で行かないと、リリーに追いつかれる」

「リリーシア様に会っていかないのか」

「連れて行けないのに、会う理由がない」

「リリーシア様は強い。その腕は、城内一だ」

「相手が悪いだろ」

「紅のローブは剣術も使う」

「剣術?」

「あぁ。ルミエールに剣を作らせていたらしい。自分で使うと言っていた」

「どんな剣だ」

「知らない」

 どんな剣を使うかわかれば、ある程度、戦闘スタイルや性格を絞れるんだけど。

「だから、魔法使いは不利だ」

「俺は剣も使うから問題ない」

「そういえば、今日はレイピアも持ってるな」

「あぁ」

「黄昏の魔法使いがレイピアを使うなんて、聞いたことがないぞ」

 うんざりだ。

「ポール。お前、情報屋なら、黄昏の魔法使いは死んだって情報流してくれないか」

「え?」

「もう、うんざりなんだよ、そう呼ばれるの」

「…高くつくぜ」

「いくらだ」

「紅のローブの命だ」

「それなら安い」

「お前が生きて帰って来ることも条件に入れる」

「死ぬつもりはないよ」

「じゃあ、生きて帰ってこい」

「交渉成立だ」


 ※


 眠れない。

 寝なくちゃいけないのに。

 リリスを倒せる自信はある。

 けど、何か、嫌な予感がする。

 ポラリスの予言。

 一つは、

―あなたは、大切なものを失う運命。

―失えば、永遠に現世をさまよう運命。

 もう一つは、

―あなたは、愛する者と殺し合う運命。

 これが何を意味するのか。

 リリー。今、どこに居るんだ。

 どうして追いかけて来たんだ。

 すべて終わるまで、安全な場所に居て欲しいのに。

 予言は外れたことがない。

 リリーを失うなんて考えられない。失えば、生きていけない。

 だから、悪魔になることだってないだろう。

 リリーと殺し合いをするなんてことも。あり得ない。

 どちらも、あり得ない予言なのに。

 何を指しているんだ?

 ポラリスは、一つ目の予言の方が強いと言っていた。

 それは、リリーが死ぬ未来?

 もし、リリーが俺の目の前で死んだら?

 目の前に、リリーを殺した相手が居たら?

 俺は、魔力を暴走させて、すべてを焼き尽くしてしまうだろう。周りの多くの物を巻き込んで。

 その結果、悪魔になる。

 でも、俺はリリーを連れてこなかった。リリーがリリスに殺されることはないんだ。

 ポラリスがリリーに告げた予言は、南に行けば、すべて失う、だ。

 俺がリリーとここに来ていないのは、そこが分岐点だったから。

 もしかしたら、リリーが俺とセルメアに行かなかったことで、一つ目の予言は回避されたのかもしれない。

 …じゃあ、二つ目の予言ってなんだ?

 リリーと殺し合いをするなんて、想像がつかない。

 何を指している?

『エル』

「ん…?」

 イリス?

『起きてるのか』

「あぁ」

『エル、ボクはリリーとエルのことが好きだよ』

「あぁ」

『忘れないで』

「どうしたんだ?」

 らしくない。

『いいじゃないか。感傷に浸ったって』

「イリス程、人間らしい精霊は居ないな」

『生まれてからずっとリリーと一緒なんだ。人間と変わらない生き方をしてるに決まってるだろ』

「そうだったな」

『…早く寝なよ。明日も早いんだから』

「イリス。いつもありがとう。俺はお前を、誰よりも信頼してる」

『馬鹿だな、エル。ボクはうそつきなのに』

「そうか」

『いいの、うそつきでも』

「精霊のつく嘘は優しいからな」

『…馬鹿だな、本当に』

 だって、お前はリリーの精霊だ。

 リリーが優しいのに、お前が優しくないわけないだろ。



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