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旧作1-1  作者: 智枝 理子
Ⅳ.暁を呼ぶ騎士
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 立夏。

 夏が始まるというのに、グラシアルは涼しい。

 グラシアル大街道に入って宿場町で一泊し、北上してバンクスへ。

「いらっしゃいませ。…あら、お一人ですか?」

「俺のこと、覚えてるのか」

「えぇ。あんなにワインを飲む方も珍しいですから」

 メイドがくすくすと笑う。

「雨だったからな」

「今日も飲んで行かれるんですか?」

「今日は晴れてる。飲まないよ」

「お連れの方は?」

「留守番だ」

 宿泊帳に名前を書く。

「ご結婚されたんですね」

「…あぁ、指輪で気づいたのか。そうだよ」

「おめでとうございます」

「国外でも言われると思わなかったな」

「お祝い事はどこでも嬉しいものですよ。お部屋にご案内いたしますね」


 リリーと旅をした道程が、そのままグラシアル王都への一番の近道であり、カミーユたちと落ち合う場所になった。

 妙な符号だ。

 もう一度、同じ場所を通ることになるなんて。

 あの時、雨で、リリーとワインを飲んだんだ。

 リリーは一杯しか飲まなかったけれど。

 ユールには散々なこと言われて…。

 あれ?

「ユール」

『なぁに?』

「お前、あの時、なんで、リリーが俺にとって大切にな人になったらまずいって言ったんだ?」

『エル、鈍感だからぁ』

『自分の気持ちにも鈍感だもんねー』

「え?」

『教えてあげようと、思ったのよぅ。エルが、わかってないからぁ』

「俺は、あの時、リリーを好きだったなんて記憶にないぞ」

『エル。一般に恋人がするようなことを想像してみろ』

『むしろ、エルとリリーが恋人じゃなかったってことにびっくしたわ』

 バンクスではキスしそうになったけど。

 ポルトペスタでも襲いそうになったけど。

 でも、それはリリーが無防備すぎたからだ。

『恋人と夜の船に乗るなんてロマンチックよね』

『船の上で痴話げんかしてたけどねぇ』

『リリーにドレス着せたのだって、エルが見たかっただけじゃないのー?』

『アユノトで、リリーに抱き着かれて固まっていたな』

『あれ、エルらしくなかったよねぇ』

「なんで」

『だってぇ、いつもだったら適当にあしらっちゃうじゃなぁい?』

 確かに。いくら寝ぼけていたからって、抱き着かれるようなこと、させるわけがない。

『エル、最初から、リリーにはガードが緩かったよねぇ』

 全然、気づかなかった。

 なんでだ。

 え?そんなに前から、俺はリリーが好きだったのか?

『あたしが気づいたのはぁ、もっとずっと前だけどねぇ』

「いつだよ」

『リリーと初めて手を繋いだ時ぃ』

「手を繋いだ時?」

『エルが、知らない人と手を繋いで歩くの、初めて見たからぁ。びっくりしちゃったぁ』

「いつだ」

『ナ・イ・ショ』

 覚えてないぞ、全然。

 ポルトペスタでは、手を繋いでたと思うんだけど。

 もっと、前に?



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