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旧作1-1  作者: 智枝 理子
Ⅳ.暁を呼ぶ騎士
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 ポルトペスタ三日目。

「後は俺が引き受けるから、お前は散歩でもして来い」

「散歩?」

「俺は職人だ。仕上げぐらい任せてくれ」

「わかったよ」

 任せるしかないか。俺が作るよりも出来は良いはずだ。

 工房から外に出る。

 宝石店の裏通りだが、富裕区だけあって、ここも十分綺麗な石畳が引かれている。

 リリーと歩いたのは、一月半前か。

 ずっと歩かせていたから、リリーとのんびりするつもりで寄ったのに。

 ソニアっていう魔法使いに襲われるし、黄昏の魔法使い討伐を押し付けられるし、ゆっくりできたのは三日目だけだったな。

 それも、ポルトペスタの川沿いを散歩して、夜にポリーズのカフェに行って終わり。

 もっと、何か言ってくれればいいのに。

 リリーは俺に何も求めない。

 俺の求めには、いくらでも応じてくれるのに。

 少しぐらい、我儘を言ってもらわないと、喜ぶことを考えるのが難しい。

 喜ぶこと…。そうだ、マーメイドの話しは喜んでくれたんだっけ。

 本当に、物語が好きなんだろう。

 マーメイドの話しの続きを作るんだったな。

 魚介が食べられないマーメイドと結ばれた人間の話し。

 …なんだ。そんなのたいした問題じゃない。

 好き嫌いなんて誰にでもある。食べられないなら食べなきゃいいし、魚介を食べない国に住めば良い。

 食べ物の好みぐらいで、一緒に居続けることができないわけない。

 そんなの、些細な問題じゃないか。

 泡になって消えるなんて、絶対にさせない。

 真珠の片割れだって絶対に揃えてみせる。

 リリー。

 元気にしてるかな。

 もう王都には帰っているだろうか。

 声が聞きたい。

 会いたくて、会いたくてたまらないのに。

 すべて終わってから帰ったとしても、ラングリオンまでは半月かかるんだ。

 一体、次に会えるのはいつなんだろう。

 会ってない期間の方が長い。

 あんなに一緒に居ようって約束したのに。

 約束を破ってばかりいるのは、俺の方か。

 リリーも、会いたいと思ってくれているだろうか。

 だったら、嬉しいんだけどな。


 ※


「ほらよ。完成だ」

 完成品を受け取る。

 二つの指輪を重ね合わせると、花の模様が浮かび上がる。

 良かった。イメージ通りだ。

 自分用のを左の薬指に嵌める。

 指にもよくなじむ。仕上げを頼んで良かったな。

「いくらだ?」

「これもやる」

「ティアラ?」

 いつの間に、こんなの作ってたんだ。

「余った石で作ったんだよ。国宝級の仕上がりだからな」

「そんなの買い取れないぞ」

「買い取る必要はない。残りの石で代金は相殺だ」

「相殺って」

 このティアラに、ほとんど使っただろう。

 大ぶりな金剛石を中央に置いて、他にも丁寧な細工で石がちりばめられている。

「どっちにしろ、持っていけない」

「どうして」

「これから行くところがあるんだ。持ち歩いてたら壊すかもしれない」

「プロポーズに行くんじゃないのかよ」

「その前に、やることがある」

「…そうかい。じゃあ、帰りに寄って行け」

「そうする。こっちも預かっててくれ」

 リリーに渡す予定の指輪を差し出す。

「おいおい。それぐらい持ち歩けるだろ」

「失くすかもしれない」

「途中で彼女に会ったらどうするんだ。持って行け」

 途中で、リリーと会う?

『リリー、エルのこと追いかけて来てるかもね』

「まさか…」

 でも。

 今までだってそうじゃないか。リリーの行動は読めない。

 アリシアに捕まったときだって、追いかけて来たし。その可能性がないわけじゃ…。

「わかった。持っていく」

 最速のルートを選んでいるのだから、リリーが俺に追いつくことは不可能だろう。

 ただ、帰り道では会うかもしれない。

 会ったら、言いたいことがたくさんあるな。




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