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『エル、一応、教えておいてあげようかぁ?』
「ん?」
『今回は何を頼まれていたんだっけぇ?』
―マーメイドの鱗と呼ばれる琥珀があるらしいよ。
―それでブローチでも作ろうと思ってるんだ。
「あー」
「どうしたんだ?エル」
「ちょっと、買い物に行ってくる。宿、前と同じ場所だろ?」
「あぁ」
「買い物?何買いに行くのよ」
山の麓の街なんだから、原石を取り扱ってる店があってもおかしくない。
「アレクへの土産」
「…了解」
カミーユたちと別れて、メインストリートを選びながら、周囲を見回す。
「なぁ、この辺りで宝石や鉱石を扱ってる店って知らないか?」
「え?…あっちの方じゃない?」
「助かる」
何人か通行人に声をかけながら歩き、鉱石を扱う店の通りへ。
どの店にも琥珀は置いていそうだな。
というか、この山ってそんなに琥珀がとれるのか?露店まであるなんて。
「兄さん、良いのあるよ」
「マーメイドの鱗を探してるんだ」
「あぁ、そういう珍しいのは宝石店にあるぜ」
「お勧めの宝石店はあるか?」
「なんか買ってくれるなら、信頼できるところを教えてやっても良い」
「ん…。じゃあ、その髪飾りと、ポーラータイをもらうよ」
ルイスとキャロルの土産にしよう。
「あと、その眼鏡もくれ」
リリーに似合うだろう。
包んでもらって、代金を渡す。
「お勧めは俺の後ろにある店だよ」
「お前の店か?」
「違うよ。マーメイドの鱗もあるし、変わった石もあるんだ。見ていったら良い」
変わった石って何だ?
男の後ろにある店に入る。
「いらっしゃいませ」
「マーメイドの鱗を探してるんだけど…」
あれ…。
「マーメイドの鱗でしたら…」
「これ、なんだ?」
カウンターの脇にある、透き通った青みのある球体の石。
「珍しいでしょう。真珠なんですよ」
「真珠だって?青い真珠?」
「マーメイドの涙。泡になる直前に流した涙と言われているんですよ」
「いくらだ」
「…これは、お売りできません」
「店に並んでるのに?」
「えぇ。右から流れた涙と、左から流れた涙。二つで一セットなんです。ですから、揃うまで、お売りできないんです」
「もう一つは何処にあるんだ?」
「わかっていません」
「売ってくれ。俺が探す」
「探す?」
「こんな山奥の店で待っていたって、見つからないだろ。俺が探して二つを一つにする」
「…ですが」
「いくらだ。金貨三枚ならすぐに出せる」
「えっ」
「それ以上なら、少し時間がいる。どうしても欲しいんだ。売ってくれ」
「あの…」
「絶対似合うと思うんだ」
「プレゼント、ですか?」
「あぁ。イヤリングにして渡すよ。それなら二つ必要だ。片割れも必ず探す」
「…そうですね。探して下さると言うのなら、お売りいたしましょう」
「ありがとう」
「ですが、金貨三枚ではお売りできません」
「いくらだ」
「銀貨一枚で結構です」
「え?貴重なものなんだろ?」
「いいえ。手にとってご覧ください」
これ、傷がついている…?
「もともと、一つだったのです」
「二つの真珠が一つにくっついてたってことか?」
「はい」
だから、二つで一セットなのか。
「じゃあ、銀貨三枚置いて行く。彼女へのプレゼントが銀貨一枚なんて失礼だろ」
「左様ですか」
店主は笑って、真珠をケースに包む。
早く見つけ出して、イヤリングを作ろう。
ポラリスに聞けば在りかが解るだろう。
『エル。何しに来たんだ』
『そうだよー』
「あ」
また、忘れるところだった。
店を出ようとして、引き返す。
「マーメイドの鱗も買わなきゃいけないんだった。ブローチになるサイズで探してくれないか?」
「あぁ、そうでしたね。少々お待ちください」
『エルってさー。本当に忘れっぽいよね』
『集中しちゃうと、周りが見えなくなっちゃうのよねぇ』
悪かったな。
だって、しょうがないだろ。
マーメイドの涙なんて。
きっと、喜んでくれるに違いない。
片割れは、リリーと一緒に探しに行こう。




