表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作1-1  作者: 智枝 理子
Ⅲ.共和国編
26/45

38

 ラングリオンの王都を出て、七日。

 今日はベリエの二十七日。

 ラングリオン王国とラ・セルメア共和国の関所に到着。

 目薬は検証の結果、朝に二滴使えば、夕方まで黒い瞳を持続できるのがわかってる。

「カミーユ、地図を渡しておく」

「地図?」

「俺が抜けるのに手間取ったら、モーガの街まで行け。三日待って来なかったら、先にウェリンを目指していいから」

「なんだよそれ」

「わかったな?」

「…わかったよ」

 関所の事務所に入って、手形を見せる。

「色んなところ行かれてますねぇ」

 ラングリオンの出国の印をもらう。

「お気をつけて」

 後は、入国ができればいいんだけど。

 関所を抜けて、セルメア側の受け付けに手形を提出する。

「少々、お待ちいただけますか」

 受付嬢が、手形を持って奥に入る。

『引っかかったね』

『まぁ、そうだよねぇ』

 さて。どう出るかな

 違う人間が顔を出す。

「エルロック・クラニスさん?」

「そうだ」

「ラ・セルメア共和国は初めてですか?」

「あぁ」

「事務的なお話ですので、お答えください」

「抜き打ち検査か?」

「えぇ。そうです」

「面倒だな…」

 目薬を使った意味はあんまりなかったな。

「今回の滞在の目的は?」

「旅行。連れが先に行ってるはずだ」

「具体的な目的地は?」

「モールモス地方」

「ご出身は」

「ラングリオン」

「ご家族は」

「いない」

「職業は」

「剣士」

「所属のギルドは?」

「ラングリオン王都の冒険者ギルド。…一体、何の質問だ?個人的なことを聞きすぎだ」

「申し訳ありません、もう少々、お待ちいただけますか」

「待てない。今すぐ、一番偉い奴を出せ。文句を言わなきゃ気が済まない」

「か、かしこまりました。少々お待ちください」

 どうしようかな。

 次は何て言ってくるだろう。

 待っていると、別の人間が来る。

「申し訳ありませんね。ホログラムに不備があるようなので、点検させていただけますか」

「書類に不備なんてないぞ。一体いくつの国を旅して来たと思ってる」

「そうおっしゃられましても…」

「何日で確認作業がとれる?」

「少なくとも三日はかかりますよ」

「わかった。それなら二日で終わらせろ」

「無茶です、」

 押しに弱そうだな。

「セルメアの関所は、一般人を通すのにそんなにしぶるのか?書類の不備だけで何日も通さないなんて、前例がないぞ」

「それは、」

「二日でできないって言うなら、今すぐ王都の友人に連絡をする。新しい書類を届けてくれって。そいつは三日でここまで来られるだろう。王都まで伝令を送るのに二日かかったとしても、五日だ。もちろん、書類の運搬にかかった費用は全額保証してもらうからな」

「困ります、」

「なら、二日で確認作業を終えろ」

「それは、」

「できないなら、今すぐ印を押せ」

「あの、」

「早く!」

「すみませんっ」

 奥の扉が開く。

「…何を騒いでいる」

「隊長、その…」

 こいつが、ここのトップか?

「なんだ。俺は一番偉い奴を呼べって言っただろ。お前じゃなかったのか」

「申し訳ありません」

「セルメアの連中っていうのは嘘つきなんだな。今までこんな目にあったことがない。…ギルドで言いふらしてやるからな」

「何だ?」

「それが…」

 書類を持っている一人が、隊長と呼ばれた相手に手形と書類を見せる。

 武闘派だな。

 鎧に、大きめの片手剣。右利きか。

「剣士の、エルロック?聞いたことがないな」

「セルメアは初めてだ。手形に書いてある通りだよ」

「剣士というのは、手形には書いていない情報だ」

「試すか?俺はお前に負けないぜ」

「面白い。勝てたら、すぐに印を押してやろう」

「話しが早くて助かるよ」

「勝てると思うなよ、小僧」

 隊長、と呼ばれた男が外に出てくる。

 こんな挑発に乗るなんて、トップには向いてないな。

「ここは非戦闘区域だ。ついて来い」

 そのまま、ラ・セルメア共和国領に入る。

 まっすぐ行けば、関所の出口。

 左手にある兵士の詰め所に案内される。

 廊下を抜けると、そのまま開けた場所に出た。おそらく訓練場だろう。

「真剣勝負だ」

 レイピアを抜く。

「殺されても文句はないってことだな」

「殺せるものなら殺してみろ」

「減らず口を。お前、魔法使いじゃないのか」

「なんだよ?それ。魔法なんて使えるわけないだろ」

 相手が剣を抜く。右手に大ぶりな片手剣。

 あぁ。リリーのリュヌリアンは。本当にでかい剣だよな。

 対峙するだけで冷や汗が出るような感覚は、もう味わわないだろう。

「来い」

 レイピアを構える。

 と。相手が剣を薙ぎ払う。

 風の魔法で左斜め後方に飛んで、足を付き、加速して相手の胴体、鎧の隙間に、レイピアを差し込む。

「一回」

 リリーの相手をしていたから、相手の動きがスローモーションにしか見えない。

 背後に回って、相手の首筋ギリギリのところまで、レイピアの腹を当てる。

「二回」

 振り返った相手の剣にレイピアを当ててはじき、レイピアの剣先を相手の鼻に当てる。

「三回、殺せたぞ。…どうした。俺を殺すんじゃなかったのか?」

「くっ」

 上から降ってくる矢が見えて、一歩引く。

「おい、卑怯だろ」

 流石に、目薬を差してたら見えにくいな。弓兵は一人か?

『東の塔に一人だ』

 相手が再び剣を構えて向ってくる。その剣先をはじき、懐に入って、相手の首にレイピアを突きつける。

「生首になりたくなかったら、さっさと約束を果たせ」

 この場所は、東の塔から狙いにくいだろう。

「俺は気が短いんだ。いつ手元が狂ってもおかしくないぞ」

「待て、」

「それに。俺は頭が悪いんだ。数字は十までしか数えられない」

「おい、」

「一、二、三、四、五、六、七、八…」

「エルロック・クラニス様」

 さっきの、受付嬢の声だ。

「書類の確認が終了しました。こちらの不手際の数々、どうかお許しください」

「なんだ。殺す理由がなくなったな」

「くっ…」

 相手が、剣を落とす。それを確認してから、レイピアを鞘にしまって、受付嬢から手形を受け取る。

 セルメアの入国印。

「仕事が早くて助かるよ。じゃあな」

 カウント八か。結構粘ったな。

「お送りします」

「結構だ。関所の出口はもう見てる」

『エル、お前、ちゃんと考えてたんだな』

「どういう意味だ」

『関所を抜ける方法なんて、ノープランだと思ってたよ。カミーユには魔法を使って入るって言ってたのに』

「それは最悪のケースだよ。俺だって、穏便に済むなら、そうしたい」

『穏便?どこがだよ。脅迫じゃないか』

「脅迫されたのは俺の方だ。俺は何も悪いことなんてしてないぜ」

 魔法も使ってないし。

 気の短い金髪黒目の剣士が、強引に関所を抜けた、程度の話しだ。

 手続き上の不備だってない。

『リリーを連れて来なくて良かったね』

「連れてくるなら、もう少し穏便にやったよ」

『どうやって?』

「関所の連中を全員眠らせて、勝手に印を押す、とか」

『それ、本気?』

「一番安全な方法だろ」

『国際問題に発展しかねないぞ』

「俺がやったなんて、誰にわかるんだ」

『お前以外にそんなことできる奴いないだろ』

それは、考えてなかったな。

「なら、眠り薬でも置いておけばいいか」

『リリーを連れて来なくて良かったよ、本当に』

 関所の出口に、カミーユが居る。

「あれ。早かったな。ばれなかったのか?」

「ばれたよ」

「おい。どうやって通って来た」

「話し合いで解決だ」

「ぜってー嘘だろ」

『エル、もう少しましな嘘つけないの?』

「嘘じゃないよ。ちゃんと印だって押してもらったぜ」

 カミーユに手形を見せる。

「そうだな。間違いない。セルメアの通行印だ」

「さ、行こうぜ」

 無事にセルメアに入れたわけだし。

 あぁ。結局、目薬の効果あんまりなかったな。

 名前でばれてたし。

 セルメアに滞在中は、目薬は要らないだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ