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旧作1-1  作者: 智枝 理子
Ⅲ.共和国編
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 ラングリオン王国。

 オービュミル大陸随一の面積を誇るその国は、東に実質的な遅配地域であるオリエンス砂漠、西がティルフィグン王国とクエスタニア王国、南がラ・セルメア共和国と、それぞれ隣接している。

 広大な王国は、四つの地方に分けられる。

 王都のあるアルマス地方は、ラングリオン王国の北部に位置し、西にティルフィグン王国との国境であるアスカロン湾を臨む。

 中央部から南部にかかけては、東から順に、デュランダル地方、ジュワユーズ地方、オートクレール地方と呼ばれ、それぞれの地方を、公爵が統治している。

 隣接する国のティルフィグンは、もともとラングリオン王国領であった。数百年前の戦争で独立し、ラングリオンとの間でしばらく戦争が続いていたが、ラングリオン王家と王家の血を交換することで戦争が終結し、今では王室を通じて良好な関係を築いている。

 神聖王国クエスタニアとの小競り合いも、ラングリオンとティルフィグンの強い絆によって終結したと言われている。

 一方、三国の戦争中に政変を迎え、共和国として成立したラ・セルメア共和国とラングリオン王国の国境戦争は、数年前にようやく終結したばかり。

 オービュミル大陸最後の戦争は、デュランダル地方南のオリファン砦の戦い。

 ラングリオン王国とラ・セルメア共和国の共同宣誓によって、砂漠から北西に流れる大河・ローレライ川が国境となった。

 これが、正史。


 アルマス地方からオートクレール地方に入ったのは、王都を出て三日目。

 セルメアまで、海路で行ければ楽なのに。陸路だと、どうしても時間がかかる。

「お前さ、本当に、そのまま行くつもりだったのか」

「何か問題があるか?」

「門前払いに決まってるだろ」

「理由がない」

「理由がなくても入国拒否だ」

「最悪、魔法を使えば入れるだろ」

 闇の魔法を使えば、夜間に国境を越えるなんて簡単だ。

「不法入国する気か。後後面倒だぞ。下手したら、どの街でもお尋ね者だ。相手に、口実を与えるな」

「身分証の提示を求められることなんて、滅多にない」

「黄昏の魔法使いは、今でもセルメアの黒歴史だ」

 黄昏の魔法使い。

 国境戦争、オリファン砦の戦いで、ラングリオン王国の魔法部隊が初めて戦争に参加した。

 結果は敗北。魔法部隊の将軍が殺され、ラングリオン陣営は砦を明け渡して後退。

 しかし、その直後に、砦は一人の魔法使いに占拠される。

 魔法使いによって砦は闇に包まれ、炎で焼かれた。それがどれほど恐ろしい光景だったか。

 外から見ても、誰も近寄れないほどの光景だったのだから、中に居た人物が受けた恐怖は並大抵のものじゃないだろう。

 砦の中に居たセルメア軍は、その日の内に撤収。幸いにも、一人の死者も出なかったという。

 また、撤収した軍を通じて、魔法使いからセルメアに使者が出される。

 内容は、国境をローレライ川に定めて戦争を終結すること。

 そうしなければ国を滅ぼすこと。

 セルメアはこれを了承し、その文章がラングリオンの王都に届き、ラングリオン側もこれを了解。

 これが三日で終わったわけはないけれど。

 セルメアが国境をローレライ川に定めることを了承した日が、両国で戦争終結を迎えた日となっている。

 こうして、戦争は終結した。

 これが真実。

 その魔法使いは、炎と闇の魔法で世界を終焉に導くイメージから、黄昏の魔法使いと呼ばれるらしい。

 または、金髪にブラッドアイという容姿が、黄昏に見えるから、とも。

 いい迷惑だ。


「だいたいな、お前の、その瞳。隠せないだろ」

 わかってるよ。

「珍しいんだよ。黒髪でブラッドアイはいるけどな。金髪でブラッドアイなんて、滅多に居ないぞ」

 血のように赤黒い色。そして、吸血鬼種に多く見られる瞳だったから、ブラッドアイと呼ばれる。

 リリーは知らなかったから、カーネリアンと言ってくれたけれど。

「マリーだってピンクアイじゃないか」

「マリーは血統だ。光の精霊の祝福が濃いからだよ」

「魔法は使わない。それで十分だ」

「本気で通れると思ってるのか?」

「もちろん」

「あぁ、先が思いやられる」

 カミーユが頭を抱える。

「これ、渡しておく」

「なんだ?この薬」

「目薬だ。使ってみろ」

 目薬を差す。

 なんだこれ。視界に薄い膜が張ったような…。

「一時的に、ブラッドアイをピンクアイに変える」

 カミーユが鏡を出す。

 あぁ。本当だ。マリーほどきれいなピンクじゃないけれど、赤でもない。

「でも、ピンクアイは女性にしか現れない」

「だから、女装して国境を抜けるんだよ」

「あぁ、それは良い案だな」

「…良いのかよ」

「でも、名前で男だってばれるな」

「ほらよ」

「何だ?」

 市民証?

 エリエンヌ・ド・オルロワール

「オルロワールって、マリーじゃないか」

「マリーとシャルロに頼んで作ってもらったんだよ」

「偽造だ」

 マリーに兄弟は居ても、姉妹なんていない。無理やりこんなの作らせて。

「使えない。俺がセルメアで下手をしたら、マリーの家に迷惑がかかるだろ」

「下手をしなければいい。心配しなくても、偽造証書なんだから、いくらでも揉み消せる」

「俺は、使わないからな」

 市民証を炎の魔法で燃やす。

「あぁ。お前はそういう奴だよ。本当に、人の言うことを聞かないんだから」

「わかってるなら、そんなの作るなよ」

「心配するな。もう一枚あるから」

「使わないって言ってるだろ」

『エル、ブラッドアイを消せれば良いのぉ?』

 ユール?

『だったらぁ、ちょっとお買い物に行こうよぉ』

 何か、良い案があるのか?

「ちょっと、買い物に行ってくる」


 市場に行って、いくつか薬草と染料を買い、宿へ。

『本当は碧眼が良いんだけどねぇ。道具もないしぃ。今からじゃ難しいかなぁって』

 ユールに言われた通りに、材料をつぶして、混ぜる。

『紫と黒。どちが好きぃ?』

「…黒かな」

『ふふふ。そうだと、思ったぁ。じゃあ、こっちのも混ぜちゃうよー』

「なら聞くなよ」

『後はぁ、バニラの魔法で、目に優しくしてもらってねぇ』

 大地の、癒しの魔法をかける。

『そうそう、そんな感じぃ。後は、濾過すればできあがりぃ』

「瞳の色を変える目薬なんて聞いたことがない」

『カミーユなんてひよっこにぃ、負けてられないものぉ』

 なんで、対抗意識燃やしてるんだよ。

『吸血鬼たちはぁ、自分のブラッドアイを嫌ってたのよぉ?』

「吸血鬼と契約してたことがあるのか?」

『な・い・しょ』

 別に、内緒にしなくたっていいだろ。過去のことなんだから。

「で?もう、目に差していいのか?」

 完成した薬を小瓶に移し、ピペット付きのふたで閉じる。

『明日にしなよぅ。カミーユの薬の副作用も聞いてないしぃ』

「副作用なんてあるのかよ」

『悪い目薬はぁ、失明しちゃうよぉ』

「そんな危険なものなのか?」

『あたしのは、完璧よぉ?…カミーユのもぉ、たぶん、大丈夫だけどねぇ』

「カミーユの目薬の成分、わかるのか?」

『さぁ?知らなぁい。でも、エルが使うんだものぉ。絶対安全なはずよねぇ』

「…媚薬の件があるからな」

 絶対安全、なんて言えないと思うけど。

『あれだってぇ、副作用はなかったよぉ?』

 そのまま寝たから、覚えてないな。

 変な夢を見て起きた時には、かなり時間が経っていたし。

「お前ってさ、カミーユの評価が高いのか?低いのか?」

『嫌ぁい』

「好き嫌いの話を聞いてるわけじゃない。錬金術の話しだ」

『き・ら・い。…エル、毎日ちょっとずつ、量を調整してねぇ。一滴でどれぐらい時間が持つか、調べるのよぅ』

「わかったよ」

『あたしが大好きなのはぁ、エルだけよぅ。…リリーも、まぁまぁ、好きよぅ』

 で、カミーユは嫌いなのか。

 何か嫌われるようなことでもしたのか?…まぁ、精霊の好き嫌いなんてよくわからないけど。

『カミーユだ』

 メラニーが言った後、扉が開いて、カミーユが部屋に入ってくる。

「おかえり」

「あぁ。…何やってたんだ?」

「目薬作ってたんだよ。これで、黒に変わる予定」

「はぁ?…あのなぁ、変なもん混ぜたら、失明するぞ」

「しないよ」

「副作用が最も少ない成分で作ったのが、お前にやったやつだぞ?」

 ユールの言うとおりだな。

 そもそも染料なんて、体に良い成分なわけないけど。

「まだ、色はピンク?」

「いや、もう効果はないみたいだけど」

 ピペットに一滴分吸い取って、左目に差す。

 薄い膜。…カミーユのやつと、感覚はあまり変わらないけど。

「色、変わってるだろ?」

「あぁ。…黒だな。なんともないのか?」

「持続時間は試してみなきゃわからないけど」

「俺が作ったのは、一滴でおよそ半日。二滴で一日持つけど、一日に使う量は二滴までにした方がいい」

「なら、明日は二滴で試してみるか」

「…お前、どうやって作ったんだ?レシピ、知ってたのか?」

「あぁ」

 知っていたのは、ユールだけど。

「何で準備してこないんだよ。っていうか、もう一日王都に居れば、目薬もちゃんと準備できたし、髪だって染められただろ?」

「もう一日王都に?それは無理だ」

「無理?なんでだよ」

『そうだよ。出かけに、あんなにバタバタすることなかっただろ!リリーに挨拶だってしないでさ』

「だって、出発の日は決めてただろ」

 リリーの決闘の次の日って。レティシアにだってそう連絡済みだ。

「あぁ。お前はそういう奴だよな」

『本当、何もかも自分の思い通りに進めるよね、エルって。周りは振り回されて大変なんだからな』

「振り回してるつもりはないよ」

「お前に自覚があったら、もう少し世界は平和だ」

『カミーユは本当にエルに振り回されてるんだな』

 イリスとカミーユって、会話できないよな?

「どうした?」

「…いや。なんでもない。そろそろ夕飯の時間だ」

「そうだな。どっかに可愛い子いないかなぁ。やってられないぜ」

「俺は急いでるんだぞ。変なのに絡まれたら置いて行くからな」

「はいはい。わかったよ」



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