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旧作1-1  作者: 智枝 理子
Ⅲ.共和国編
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 早朝。

「エイダ、頼みがある」

『嫌です』

 まだ、何も言ってないんだけど。

「お前にしか頼めない」

『嫌です』

「俺は大丈夫だから」

『私が、簡単に引き受けると思ってたんですか』

「思ってた」

『連れて行ってくれると思っていたのに』

「わかるだろ」

 リリーが、また、何かに巻き込まれないとも限らない。

『リリーは立派な剣士よ。エルだって負けたぐらい』

「強いことと、危険にさらされないことは違う」

『王都には、リリーを気にかけてくれる人がたくさんいるわ』

「気にかけてくれる人がいるからって、必ず守ってくれるとは限らない」

『どうしても、だめなの?』

「フラーダリーは、俺が居ない時に死んだ」

『知ってるわ。だから、私に残れって言うんでしょう』

「あぁ。…イリス、起きてるだろ?俺について来い」

『はぁ?』

「エイダがリリーを守る。お前が俺と一緒に来る。それで決定だ」

『ちょっと、ちょっと待ってよ、ボクがリリーから離れるわけには』

「いいから来い。エイダも、それで良いな」

 エイダが顕現して、俺を抱く。

「どうして、エルはそう勝手なの」

「エイダ。俺は、自分の命よりもリリーが大切だ。わかるだろ?」

「私は、エルだけが大切な人間よ。たとえ世界が終わっても、あなただけは守る」

「俺はそんなこと望んでない」

「お願いだから、連れて行って」

「エイダ」

「私があなたを不幸にしているのに、償いすらさせてくれないというの」

「償いなんて必要ない。全部俺の責任なんだから」

「エル、お願い」

 エイダの手を払う。

「イリス、行くぞ」

『え?え?何?ボク、行かなきゃいけないの?エイダ、どういうこと?』

 エイダが俯く。

「わかりました。イリス、エルをお願い。約束するわ。あなたに代わって、リリーを守るって」

『ちょっと、そんな契約勝手に結ばないでよ。…もう!お前、勝手すぎるぞ!エル!』

「エル?…エイダ?イリス?」

 リリーが眠そうに目をこする。

 あ。起こした。

「おやすみ、リリー」

「ん…?」

 キスして、体を横に倒す。

 あれだけ酔っぱらっていたから、そう簡単に起きないと思っていたのに。

 騒ぎ過ぎたな。

 しばらく背中を撫でると、リリーはまた眠りについた。

『お前ってさ、本当にリリーだけ特別なんだな』

「……」

『わかったよ。ついて行く。エイダ、リリーを頼むよ。その代り、エルがエイダを呼び出したら、ボクはすぐリリーの元に帰る。エイダも、リリーがボクを呼び出したら、すぐにエルの元に行く。それで良い?』

「えぇ」

『エル、お前、最低だからな』

 勝手なのは、知ってる。

「エイダ、ごめん」

「エル。無事に帰って来てね」

「俺は死なない。だから、リリーと一緒に待っていてくれ」

 エイダが居れば、リリーは死なない。きっと。

「エル。…この子を連れて行って」

「この子?」

 エイダが、腹部に手を当てて、その中から、赤い光を…、精霊を、生む。

「名づけを」

「俺が?」

「もちろん」

 生まれたての炎の精霊が、こちらを見る。

「アンジュ」

『アンジュ』

 炎の精霊が繰り返す。

『炎の精霊、アンジュ』

「契約を…」

「必要ないわ、エル。この子は、あなたと繋がりの深い精霊だから。契約なんてしなくても、力を引き出せる」

「炎の力を?」

「そう。…これ以上は、精霊の秘密。無事に帰ってきたら、教えてあげる」

 精霊の、秘密?

「アンジュ、おいで」

『はい』

「よろしくな」

『よろしくな』

 炎の精霊が、体に入る。

「いってらっしゃい。エル、イリス」

「ありがとう、エイダ。行ってくる」

『リリーを頼むねー』

 階段を下りて、店に出る。

 ルイスが、カウンターに突っ伏して寝ている。

 カウンターには、荷物とサンドイッチと、コーヒー。

 コーヒーは、まだ湯気が立ち上っている。

「……」

 ルイスの脇に落ちている毛布を掛ける。

 コーヒーを飲みながら、出かける準備を進める。

 最低、か。

 そうだろうな。

 誰かに会うのが怖くて、こんな朝早くに出発するなんて。

 カミーユにも悪いことをした。また、怒らせるだろう。

 サンドイッチは、道中で食べよう。

 空のカップの横に、メモを残す。

 いってきます、と書こうとしてやめる。

 別の言葉を書いてペンを置くと、音をたてないように、静かに外に出る。

 空が黄金色に輝く。まだ太陽が地平線に居る時間。

 みんなで飲んで、シャルロの家で話した後も、こんな空だったな。

 暁。夜が終わって、朝陽が始まりを告げる時間。

 リリー。

 今から、会いたいなんて思っていたら、先が思いやられる…。

 別れるのが辛くて、挨拶ができない。一緒に来て欲しい気持ちが強いから。

 キャロルの泣いた顔も見たくないし、ルイスに辛い言葉を強いるのだって嫌だ。

 危ない目に合わせたくないから、カミーユにも黙って出発してる。

 最低。

 わかってる。

 エイダに全部押し付けたことだって。

 エイダは、自分の罪の為に俺を守ることを誓った。

 罪なんてないのに。

 エイダだって、俺の運命に巻き込まれただけだ。

 けれど、それも、もう終わらせる。

 リリーが居るなら。

 自分の運命も変えられるって、信じられるから。

「おはようございます、エルロックさん」

「おはよう」

 王都、サウスストリートの果て、南大門。

「ご出発ですか」

「あぁ」

「少々お待ちください。…カミーユさん!エルロックさんが来ましたよ」

「え…?」

 門番が、門の脇にある駐在所に向かって大声を上げる。

 駐在所から、眠そうな顔をしたカミーユが出てきた。

「…お前、まだ陽も昇ってないぞ。早すぎだろ」

「昇ってるよ」

「ここに居て正解だったぜ。行くぞ」

 読まれてた。

「お前、まさか俺に言ったこと、忘れてないよな」

「忘れてないけど…」

「もう休暇届は出してる。行くぞ」

 大丈夫。

 もう、誰かを失ったりしない。

「しょうがないな。足引っ張るなよ」

「引っ張るかよ」

 門をくぐる。

「お気をつけて!」



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