表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作1-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.王都編
22/45

29

「お前ら、喧嘩してるのか?」

「は?誰と誰が?」

「お前とリリーシアちゃん」

「してるわけないだろ」

 何言ってるんだ。

 っていうか。

「カミーユ。仕事はどうした」

 昼休みには、まだ早い時間だ。

「仕事中だよ。薬品の買い出しだ」

「さぼりか」

「さぼりじゃねーよ。お前こそ、店番してるなんて珍しいじゃないか」

「珍しくないよ」

 この前の休みだって、ここに居た。

 ルイスにこの前教える約束をしていた薬のレシピを教えて、キャロルと店番を交代したところだ。

「聞いたぞ。リリーシアちゃんと決闘するって」

「は?」

「三番隊の連中が言いふらしてるぜ。明日、訓練場で決闘するって。いつからそんな話しになってるんだよ」

「それは俺が聞きたい」

 いつから、そんな仰々しいことになってるんだ?

「デマだっていうのか?」

「リリーと戦うのは確かだけど…」

「その、レイピアで?だって、お前は絶対戦わないじゃないか」

 その通り。

 戦うつもりなんてない。初めから、相手に攻撃するつもりなんてないから。

「エル。何考えてる?なんで、今さらレイピアなんて引っ張り出してきた?」

「うるさいな。使うからだよ」

「使う?魔法を使うようになってから、お前は短剣しか持ち歩かないだろ。…ってことは、魔法を使わない?」

 カミーユが俺の肩を掴む。

「お前、まさか、南に行くつもりか」

 それだけのヒントで、良く答えにたどり着くな。

「なんでだ。なんで、今さらセルメアに行く必要がある。リリーシアのためか?」

「そうだよ」

 カミーユは、俺の肩を掴んだままうなだれる。

「そんなに危険じゃないだろ。公式に、俺を追うことなんてできないんだから」

「非公式に追うことはできるだろ」

「それなら、相手してやればいい」

 カミーユが顔を上げる。

「俺も行くぞ」

「え?」

「お前がどうしても行くって言うなら、俺も行く」

「何言ってんだよ。研究所はどうするんだ」

「心配するな。申請できる休暇は溜まってる」

「カミーユ」

「待ってるのはごめんだ。お前が死んだら、後悔する」

 その気持ちは、わかるけど。

 それはつまり、確実に危険に巻き込むことだ。

「わかったよ。俺がリリーに負けたら連れて行く」

「負けたら?どういうことだ?」

「リリーはセルメアに行きたくないんだ。だから、俺が勝ったら無理やり連れて行く。リリーが勝ったら、カミーユと行くよ」

「やっぱり喧嘩してるんじゃねーか」

「してないよ」

「まぁ、いいや。お前が勝てると思わないし」

 ようやく、カミーユは俺の肩を離す。

「どういうことだよ」

「一瞬の迷いを、剣士は見逃さない」

「何を迷うっていうんだ?」

「それは明日のお楽しみ、だ。俺は旅支度でもしてるかな」

「俺は負けないぞ」

「負けないのと、勝つのは同義じゃない」

 そう言って、カミーユは店を出て行った。

 薬品の買い出しじゃなかったのかよ。

「エル、セルメアに行くの?」

「ルイス、キャロル」

 二人が店の奥から入ってくる。

 そして、キャロルが俺に抱き着く。

「エル、また、どこか行っちゃうの?」

「そんなに危険なの?セルメアって」

「…大丈夫だよ。心配するな」

 ルイスとキャロルの頭を撫でる。

「リリーと一緒に、みんなで暮らすんじゃなかったの?」

 そう、思わせてたのか。

「僕らは、もう二度と親を失いたくないよ」

「エルぅっ」

 キャロルが泣きだす。

「俺は死なないよ。ルイスに教えてないことも、まだたくさんある。ほら、キャロル。泣かないで。せっかくの可愛い顔が台無しだ」

 屈んで、キャロルの涙を拭く。

「信じてるよ、エル」

「私、ちゃんと待ってるよ」

「あぁ。心配しないで」

 キャロルを抱きしめて、涙が止まるまで頭を撫でる。

「大丈夫だよ」

 だめだ。

 大切に想えば想うほど、泣かせてしまうんだ。

 未だに上手い距離の取り方が見つからない。

 悲しませたいなんて思ってないのに。

 どうして。俺は誰も幸せにできないんだ。

「今日は店じまいにして、一緒に出掛けるか」

「お出かけ?」

「…良いの?剣の稽古しなくて。リリーシアは今日も守備隊のところに稽古に行ってるよ」

「良いよ。明後日には出発するから、今日一日、のんびりしよう」

「うん」

「うん!」


 ※


 勝てる、かな。

 自信がない。いかに、奇策を取って、背後に回れるか。

 たぶん、背後に回ることができれば。

「ただいま、エル」

 リリーが部屋に入ってくる。

「おかえり、リリー」

「早いね。もう寝るの?」

「眠れるかな」

「眠れない?」

 リリーが隣に来る。

「眠れないかもしれない」

「私も。ドキドキしてる。いつもの勝負と違う。たった、一撃で決まってしまうから」

「リリーは俺に勝つ自信があるのか?」

「ないよ。今まで、一度もエルに当てられなかった」

「俺だってそうだ」

「エルは余裕じゃないか」

 余裕なんてない。

「そうだ。あのね、決闘の場所が、三番隊の訓練場になったんだ。あんまり派手にやると迷惑になるから、貸してくれるって」

「あー。一般人に迷惑かけられないからな」

 下手したら、守備隊が出る騒ぎになるだろう。

「訓練の邪魔しちゃいけないから、昼休みの時間を借りることにしたんだ。だから、正午きっかりに開始するよ」

 十分、邪魔してるけど…。リリーの場合、三番隊の連中も訓練になるから良いのか。

「わかった」

 どうせ、ガラハドも見物に来るんだろうな。

「なんで、一緒に行きたくないかは、まだ話せないのか?」

「私が勝ったら、教えてあげる」

「なんだよそれ」

「だって、エルが勝ったら、一緒に行かなくちゃいけない。そしたら、理由に意味がなくなる」

「なくならないよ。俺が知りたい」

「じゃあ、終わったら教える。…笑われちゃうかもしれないけど」

 どんな理由だ?

「じゃあ、ついでにジョージがなんなのかも教えてもらわないとな」

「か、関係ないよ」

「全く教える気がないよな。リリーの恋人だったのか?」

「違う。全然、違うよ。…私の恋人は、私の好きな人はエルだけ。今までも、これからも」

「…リリー」

 リリーの言葉に、翻弄される。

 こんなに感情が動くなんて。

「エル?」

 リリーの肩にもたれかかる。

 苦しくて。

 嬉しくて仕方がないのに。

 嬉しい、の一言が言えないぐらい。

「どうしたの?」

「幸せだ、って思って」

 リリーが俺のことを好きでいてくれて。

「うん。そうだね。私も幸せ」

 リリーが俺の頭にもたれかかって、手を繋ぐ。

「このまま、時間が止まればいいのに」

「二人で、琥珀に閉じ込められようか?」

 琥珀。

 氷の中に閉じ込められたリリーのイメージが蘇る。

「一緒なら、それもいいかな」

「銀の棺みたいだね」

 氷の精霊と、炎の精霊が手に入れた、永遠に一緒に居る方法。

「やっぱりだめだ」

「だめ?」

「一人だけ奪われたら、辛いから」

「一緒に居るのに?」

「琥珀を見つけた相手が、二人一緒にしてくれるとは限らない」

 現に。封印の棺は…。

「でも、もしそうなったら、絶対探し出すよ」

「見つけるよ。たとえどんなに離れていても」

 あれ?

 それなら、氷の精霊と、炎の精霊は…?

「トリオット物語みたいだね」

「え?」

「トリオット物語は、愛し合う二人が引き裂かれるところから始まるんだよ。女性の方が殺されて、棺に閉じ込められて、東の果てに連れて行かれる」

 確か、銀の棺がモチーフだったな。

「けれど、殺されたはずの彼女は実は死んでいなくて。連れて行かれた東の果てで目覚める。そして、恋人を求めて西を目指すんだ。一方で、そんなことは知らずに、彼の方は、死んだはずの彼女が入っている棺を求めて、東へ赴く」

 死んだはずの人間が復活する…?

「それで?出会えたのか?」

「まだ出会えていないよ。途中、彼の方は棺までたどり着くんだけど、棺が空っぽで、彼女が旅に出たことを知るんだ。彼女の方も、故郷に帰って、彼が自分を探していることを知る。物語の中でも、会いそうで会えないってことが何度もあって。最新刊では、同じ町に居たのに、結局、会えなかった」

「すさまじいすれ違いだな」

「うん。いつか、出会えると良いな」

 きっと、それが物語の終わりなのだろう。

「出会えるよ。一緒に居たいと願っているなら」

 リリーが顔を上げる。

「エル、ごめんなさい」

「ん?」

「本当は、一緒に行きたい」

 顔を上げて、リリーを見る。

「でも、だめなんだ」

「いいよ。リリーが俺のことを好きでいてくれるのは、わかってるから」

「ずっと一緒に居るって約束したのに」

「一緒に居るよ。どこに居ても。リリーのことを考えてるから」

「私も、エルのことを考えてる」

 リリーの頬を撫で、口づける。

「俺が勝てば、ずっと一緒だ」

「負けないよ。負けられないんだ」

 顔を見合わせて笑う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ