24
起きたのは、太陽が真南に来る頃。
「おはよう、ルイス」
「ようやく起きたの?」
「帰って来たのが朝だからな…」
「まったく。不摂生だね」
旅してる時の方が、よっぽど規則正しかったよな…。
「リリーは?」
「今朝、マリーが送ってくれて、今はキャロルと買い物に行ってる」
「そうか」
「盗賊ギルドから手紙を預かってるよ」
「え?」
「ほら」
昨日の今日で?
手紙を開く。
国境戦争の頃にラングリオンで多数、目撃される。
名前はジェイド・イーシャと名乗っていた。
戦争時、セルメア軍に雇われ、前線で活躍。
翡翠の騎士の二つ名を持つ。
現在もセルメアに居るらしい。
詳細な居場所は調査中。
調査が不要な場合は連絡をくれ。
南の方では、結構有名な傭兵だったのか。
翡翠の騎士、ジェイド・イーシャ。捜索にも役立つ情報だろう。アリシアにも手紙を書いておくか。
「ねぇ、エル」
「ん?」
「エルは、まだ旅を続けるの?」
「あぁ」
詳細な居場所が分かったら、会いに行かなければならない。
生きているにしろ、死んでいるにしろ。
っていうか、セルメアか…。
あんまり行きたくない場所だけど、しょうがない。
「そうだ。新しい錬金術のレシピを教えないとな。お前ができる奴も結構あるから」
「できる奴、って。僕ができるかどうか、良くわかるね」
「お前は俺に似てるから、進行度は把握できるよ」
「似てるって。…血が繋がってるわけじゃないのに」
「そうだな。俺と違って、ちょっと慎重すぎるかな」
「ただいまー」
「ただいま」
リリーとキャロルが帰ってくる。
「あ、エル。ようやく起きたの?」
「おかえりキャロル、リリー。どこに行ってきたんだ?」
「市場まで材料を…」
「秘密よ、秘密」
「用事がなかったら店番頼めるか?」
「もう、話し聞いてた?」
「それじゃあ、用事が終わってからでいいよ。ルイスに新しいレシピを教えたいから、その間、店番を頼みたいんだ」
「そうなの?…じゃあリリー、明日にしようか?」
「うん。そうだね」
「いいわよ、エル。私とリリーで店番してあげる」
「頼むよ。ルイス、研究室に行くぞ」
「その前に、エル、何か食べたら?」
「…そうだな」
「お昼も買って来たわよ。みんなで食べましょう」
「あぁ」
「看板裏返しておくね」
キャロルが店の扉を開けて、看板を裏返し、扉の鍵を閉める。
「キャロル、何買って来たの?」
「内緒よ。…エルは台所立ち入り禁止ね!」
「え?」
「だってさ。リリーシアとここで待ってて」
ルイスとキャロルが奥に入って行く。
「キャロルと何するんだ?リリー」
「えっと…、内緒?」
そう言って、リリーが首を傾げる。
「まぁ、いいけど。昨日は楽しかった?」
「うん。…マリーに色んな所に連れてってもらったよ」
マリーの奴。どれだけリリーを引っ張りまわしたんだ。
「疲れたんじゃないのか?」
「あの後、お風呂に入って、すぐ寝ちゃった。エルは徹夜してたの?」
「帰ったのは陽が昇るころだったからな…」
普通に家の鍵が閉まっていて。鍵を探すのに苦労したっけ。
あ。
「そうだ、家の鍵、渡してなかったな。ほら」
鍵をリリーに渡す。
「エル、持ってなくていいの?」
「その内作るよ。自分の家ぐらい、どこからでも入れるし」
こじ開けようと思えば、魔法で開けられるし、ベランダから入っても良いだろう。
一応、不法侵入されないように監視とトラップ魔法は仕掛けてあるんだけど。
「なんだかエルと話すの、久しぶりな気がする」
確かに。なんでだろう。
旅してる時の方が、一緒に居る時間が長かったせいかな。
「昨日、パッセの店では一緒に居たよ」
「うん。そうだったね」
あぁ、わかった。
昨日は夜に一緒に居なかったから。
「一人でも眠れたのか?」
「…マリーと一緒に寝たから」
「本当に、一人じゃ眠れないんだな」
「そんなこと、ないけど…」
でも、昨日はきっと泣いてないんだろう。
「あの…」
「ん?」
「エルは、どうして…」
「エル、リリー、できたよー」
「キャロル」
「もう荷物は片付けたから、台所に来て良いわよ」
「あぁ、わかった。リリー、行くぞ」
「うん」
きっと、どうして一緒に寝るのか聞こうとしてたんだろうな。
そんなの、俺だって上手く説明できない。
泣いて欲しくないから?
一緒に居たいから?
自分も落ちつくから?
…リリーが求めてくれるから?
※
ルイスは呑み込みが早い。
教えたレシピは、ほとんど一回で完璧に作りこなした。
後は、繰り返しやって身に着けばいいだろう。
一日があっという間に過ぎる。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、リリーが眼鏡をかけて、ベッドの上で本を読んでいる。
「エル」
俺に気付いたリリーがこちらを見る。
「何読んでるんだ?」
「トリオット物語」
「あぁ、マリーに借りたのか」
「うん」
ベッドに座ると、リリーが起き上がる。
「ちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃうよ」
あぁ、まだ、髪が乾ききっていないから。
リリーが頭上でタオルを動かす。
ディラッシュでも、してくれたっけ。
「風邪なんて引かないよ」
「もう。…髪、伸ばしてるの?」
「あぁ。精霊と契約するのに使うからな」
「まだ、契約するの?」
「どうかな。…ナターシャとは、オペクァエル山脈で会ったばかりだし」
リリーを助けた精霊の一人なんだけど。
「そんなに最近だったんだ」
「あぁ。雪の精霊なんて、こっちには居ないからな」
リリーが俺の頭からタオルを取って、ベッドの端に引っ掛けて干すと、また寝そべって本を開く。
「リリー、今日はキャロルと何するつもりだったんだ?」
リリーは本に目を落としたまま答える。
「キャロルから口止めされてるんだ」
「口止め?危ないことじゃないだろうな」
「それは心配しなくて大丈夫」
リリーは笑う。
「明日、時間があったら、ちょっと付き合って欲しいことがあるんだ」
「キャロルの約束とかぶらなければ大丈夫」
「朝と昼、どっちが空く?」
「午前中なら」
「じゃあ、午前中。朝食を食べたら付き合ってくれ」
「うん、わかった」
セルメアに行くなら、魔法使いとばれるような恰好では行けない。
物置を漁ってレイピアを探さないと。ついでに、手ごろな片手剣を。
「リリー」
「うん?」
本当に、無防備なんだから。
リリーの顎を掴んで口づける。
「んん」
これぐらいでいいかな。
今日も良く眠れそうだ。
「おやすみ」
「…エルの、ばか」
好きだよ、リリー。




