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旧作1-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.王都編
15/45

22

『みんな、エルを起こして!広場よ。リリーが危ない』

『エイダ』

『やばそうねぇ』

『エル!』

『エル、エル!起きて!早く、起きて!』

『起きてー!』

『エルロック!』

 精霊の声が頭に響く。なんだ?

『リリーが危ないのよっ!』

 頭が、一気に目覚める。

「何だって?」

『広場だ!急げ、エル!』

 飛び起きて部屋を出る。

 そのまま二階のベランダに出ると、風の魔法で隣の屋根に飛び、広場に向かって走る。

「リリーが?なんだって?」

『魔法部隊が戦ってる』

 広場には虎の姿をした亜精霊が三匹。

 二匹は普通の虎のサイズだが、残り一匹は巨大な虎だ。その頭は人間と同じぐらいのサイズがある。

 体に真空の魔法をかけ、炎の矢を放つ。

「エルロック、来たか」

「レティシア、」

 すでに交戦中の女魔法使い。

「隊長と呼べ」

「なんで街中にこんなのが居る!」

 一匹を風のロープで縛り上げ、炎の魔法で焼く。

 咆哮。

「殺すな。実験体だ」

「なんだって?」

 別の一匹が向かった方角に、リリーが居る。リリーは短剣で攻撃しつつ、虎の攻撃をかわす。

 リュヌリアンは、どうしたんだ?

「くそっ」

 風で縛っている虎に向かって闇の魔法を放つ。どろりとした闇の帳が虎を包み、虎は地面に張り付く。

 影縫いの魔法だ。

 新しい風のロープを作って、リリーに襲い掛かる虎を縛り上げる。

 縛り上げられた虎に向かって、リリーは短剣で攻撃する。虎は咆哮を上げて暴れ、風のロープをほどくと、リリーに向かって突進する。短剣で応じるも、リリーはそのまま吹き飛ばされた。

 その虎に向かってレティシアが大地の魔法で作った岩を叩きつける。

 風の魔法で加速してリリーの側まで走り、飛ばされた体を抱き留めると、炎の魔法で虎を攻撃する。

「エル、」

「剣はどうした」

「あれに刺さってる」

 リリーが指した方向。一番大きな虎の首に、リリーの剣が刺さっていた。

「なんだってあんなところに…」

 風の魔法でできる限り飛ぶ。けれど、結局は跳躍を補助する魔法だ。剣のところまでは届かない。

 炎の魔法で攻撃し、咆哮を上げて開いた虎の口内へ風のロープを伸ばし、ロープを虎の歯に巻きつける。

 リリーの剣の刺さってる場所まで、もう少し。

 虎が、大きく首を振る。

「うわっ」

 振り回された反動を利用して宙返りし、虎の背に捕まる。

 振り落とされないように持っていた短剣を突き立てて掴みながら、リリーの剣に手を伸ばす。

 届いた。

 深々と刺さったその剣を抜き、リリーに向かって投げる。

「リリー、受け取れ!」

 傷つけられて暴れる虎に向かって炎の魔法を放ち、風の魔法で、虎から離れた位置に着地する。

「リリー、こいつはそう簡単に死なないから、思いっきりやれ」

「わかった」

 虎はリリーに任せて、闇の魔法を集めるのに集中する。

 あんなにでかい奴にかける魔法なんて、魔法陣レベルだぞ。

 集中………。

「リリー、避けろ」

 行ける。これぐらいの力で。

 リリーが虎の側から離れたのを確認して、虎に向かって闇の魔法を放つ。

 闇の魔法は巨大な虎を地面に吸いつける。

 ジタバタともがけばもがくほど、闇は虎に絡みついて、離さない。

 虎が大人しくなったところで、レティシアが呪文を唱え、虎を魔法の瓶の中に吸い込む。

 ほかの二匹も、回収済みのようだ。

「リリー」

 リリーの傍に寄る。

「怪我は?」

「大丈夫。してないよ」

「してるだろ」

 うっすらと、真新しい傷が残る頬を撫でる。

「なんで戦ってるんだ」

「あの…、ごめんなさい」

 リリーは俯く。

「エルロック」

 レティシアの声に振り返ると、レティシアを先頭に、十人ぐらいの魔法使いが整列して並んでいる。

 王都魔法部隊。

「レティシア。リリーは一般人だぞ。なんで巻き込んだ」

「違うの、本当は、エルを呼びに来てたんだけど、私が代わりに…」

「伝令ミスだ。詫びよう」

「詫びで済むかよ!」

 これでリリーに何かあったら。

「もともとは、エルロックが招集に応じないからだ」

「俺はまだ、帰還の報告もしてない」

「帰還してるのは、周知の事実だ」

「何故、守備隊に援軍を頼まなかった。俺が来なかったらどうするつもりだ?」

「これは我々の任務」

「まだそんなこと言ってるのか?頭を冷やせ。ここは王都のど真ん中だ」

 守備隊に出動しないよう制限をかけているんだろう。

 もしくは、守備隊は市民の避難に尽力してくれているのかもしれない。

 協力すれば良いものを。つまらない意地やプライドを張りやがって。

「実験体は無事回収、市民に一人の怪我人も出さず、街には何の被害もない。完璧な成果だ」

 相変わらず、頭の固い奴だ。

「エルロック。明日の訓練には参加しろ。隊長命令だ」

「行かねーよ。…行くぞ、リリー」

 リリーの手を取る。

「待て」

「まだ何か用か?」

 レティシアはリリーの前に立つ。

「名前は?」

「リリーシア」

「リリーシア。先ほどは助かった。礼を言う」

 レティシアがリリーに向かって頭を下げる。

 そんなの、初めて見たぞ。少しは丸くなったのか?

「あの、勝手なことして、ごめんなさい」

「以上だ」

 レティシアは踵を返すと、魔法部隊と共に去って行った。

「帰るぞ」

「…怒ってる?」

「少し」

「でも、知らない人について行ったわけじゃなくて、ルイスは魔法部隊の人だって言ってたし…」

 俺が何を怒ってるか、全く分かってないな。

「もう、いいよ。無事だったから」

 これじゃあ、レティシアの言い分と変わらないけど。

「ねえ、エル、魔法使って、平気なの?」

「ん?」

 あぁ、そういえば、昨日、リリーにキスしたんだっけ。

「今、何時だ?」

「もうすぐお昼」

「昼まで寝てたのか…。帰ってキャロルの料理食べないとな」

 それから、昨日の続きを、思い出さないと。

 何を作ってる途中だったんだっけ…。


 ※


 リリーの呪いを解く方法。

 一番簡単で安全なのは、呪いをかけた本人に解いてもらうこと。

 それ以外で呪いを解く方法は、光や水の魔法使いに頼むこと。人間を本来あるべき姿に戻す魔法だ。

 けれど、リリスの呪いなんて、聞いたことがない。

 一体、誰が、どうやって?

 女王がその方法を知っているのか。それとも、悪魔召喚によってリリスの魂を呼び出しているのか?

 悪魔に列せられる魂は、穢れていて、そう簡単に死の世界に行けない。

 だから、その魂を呼び出して復活させることができる。


 そもそも、魂とは。

 世界の創世の話しに遡る。

 世界の始まり、すべての元だったもの。最も根源的な神。

 オーと呼ばれるそれを最初に分割したのが、境界の神であり、剣の神であるリン。

 リンがオーを分割することで、オーから、生まれ続ける神とし死に続ける神ができ、時間と世界が生まれた。

 そして、神の魂はリンによって幾つもに切られ、始まりの神々が作られた。

 広がり続けるものと、吸収し続けるもの。運動するものと停止するもの。温度を上げるものと、温度を下げるもの。溶けるものと、固まるもの。

 そして、命を作るものと、命を食べるもの。命を繋ぐものと、命を育むものへ。

 それが、自然や精霊であり、動物や人間に宿るものへと変わる。

 だから、生きているものすべてに魂が宿っている。

 そして、魂は必ず二つで一つの形をとる。この二つは、常に一つになろうと引かれあう存在。

 すべての生き物の魂の片割れは死に続ける神の世界、つまり、死の世界にあるとされ、だから生き物は死ぬと魂が死者の世界へ行くと言われている。

 そして、今まで死んでいた片割れが、生まれ続ける神の世界、この世界に戻ってくると。

 二つの魂が一つになることはない。もともと一つだった魂が一つに戻ると、魂は完全な姿を取り戻し、世界の始まり、オーに帰ると言われているからだ。

 いずれ帰る場所。

 それは、世界の終りであり、始まり。


 リリスの呪いか…。知識が足りない。調べないと。

 そう、思ったところで。

 急に胸ぐらをつかまれて、殴られる。

「エル!」

 リリーの悲鳴。

「カミーユ」

 目の前には、金髪碧眼長身の青年。

「帰って来たか?」

 現実に、引き戻される。

「あぁ。ただいま」

 カミーユは俺から手を離す。

「エル、大丈夫?」

 リリーが心配そうな顔で俺を覗く。

「大丈夫だ」

「…私が、殴り返す?」

 リリーがカミーユを睨む。

「うっわ、思った以上に可愛いじゃねーか。君がリリーシアちゃん?俺はカミーユ・エグドラ。エルなんてほっといて、俺と飲みにいかないか?」

「さ、触るな!」

 カミーユの手を振りほどいて、リリーが俺の後ろに隠れる。

「誰が手ぇ出して良いって言った?」

「今時、手すら握らせてくれない女性にはお目にかかれないね。決めた。俺はリリーシアちゃんを落とすぜ」

 あぁ。相変わらずだ。

「お前、本当に馬鹿だよな」

「それが王立錬金術研究所のエースに言うことか?」

「お前が馬鹿じゃなかったらなんなんだよ」

「うるせーな。相変わらず、変な研究しやがって」

 カミーユは、俺の実験器具と、机の上のメモを見る。

「何作ってたんだ?…変わった材料使ってるな」

 何、作ってたんだっけ。

 自分で書いていたはずのメモを見る。

「…なんだ、滅茶苦茶だな。ここの過程は要らないだろ」

「そうだな。ざっくり切って…。ここも触媒を使えばいいか」

「お。いいな。…で?なんの薬だ?神経中枢に働きかける?…睡眠薬?」

 違う。あまり眠くならないように工夫が必要?

 いや、眠くなってもいいんだっけ。その方が楽になるから。

「あぁ、思い出した。船酔い止め薬だ」

「酔い止め?んなもん、いつ使うんだよ」

「作ったことがないから、色々試してたんだよ」

「俺に言えば、レシピを取り寄せてやったのに」

「自分で作るから面白いんだろ?」

「酔い止めなんて、どうやって効果を検証するつもりだったんだよ」

「俺の作る薬が、失敗するわけないだろ」

「良く、そんなの断言できるよな。相変わらずクレイジーな奴だ」

「…エル」

 リリーが俺の服の裾を引く。

「あぁ、そうだな。そろそろ寝るか。というわけだから、帰れ」

「なんだよ、一杯ぐらい付き合えよ」

「…もう疲れた」

「連れねーなぁ。じゃあ明日、いつものところに集合な。リリーシアちゃんも連れてこいよ」

「集合?」

「マリーとシャルロも呼ぶぜ。…そういや、まだマリーに会ってないんだって?」

「会ってない」

「私は会ったよ?」

「え?」

 リリーが言う。

「店に来てたから」

 ルイスが追い返したのか?

「何か言ってたか?」

「えっと…。今度、本を貸してくれるって」

 あぁ、やっぱり趣味が合うのか。

「良かったな」

「じゃあな。忘れんなよ」

「あぁ」

 そう言ってカミーユが出て行く。

 何しに来たんだ?あいつ。

「悪かったな。巻き込んでばっかりで」

「いいよ。エルと居ると、毎日違うことが起こって面白い。…カミーユさんは、ちょっと苦手だけど」

「だから言っただろ。馬鹿が居るって」

「え?どこが馬鹿なの?」

 リリーが首をかしげる。

 わからなくても、かまわないけど。

「寝るか」

 リリーを連れて部屋に行く。

 廊下の荷物も、大分片付いてきてるが、まだリリーが部屋を使えるようにはなってないらしい。

 っていうか。今さらだけど。リリーの部屋を作ったところで、リリーは一人で寝るのか?

「そういえば、俺が居ない間、ずっと掃除してたわけじゃないよな?何やってたんだ?」

 ずっと引きこもっていたから、リリーが何やってたか知らない。

「エルにも、色々声かけてたんだけど…」

 全然、覚えてない。

 リリーはくすくす笑う。

「うん。大丈夫。集中してるとエルは何も聞こえないっていうの、ルイスから聞いてるから」

「…そうか」

 右も左もわからないラングリオンに連れてきて、三日間完全放置って。

 キャロルとルイスが居てくれたから良かったものの。

 何やってるんだ、俺。

「悪かった。なんていうか…」

「大丈夫。それも、ルイスから聞いてるよ」

「え?」

「きっと、自己嫌悪に陥るだろうから、慰めてあげてって」

 思わず、頭を抱える。

 どこまで、丁寧に話してるんだよ。

「家族って良いね」

 そうだ。誰かが、傍に居てくれること。それが、どれだけありがたいことかは知ってる。

「リリーも家族だ」

「それは…」

 リリーは何か言いかけて、やめる。

 ポルトペスタでも、自分の将来はあきらめてるみたいだったな。

「エル、ここに連れてきてくれてありがとう。私は今、幸せだよ」

―もし、この呪いが解けるなら。…幸せな家庭を築きたい。

 一緒に過ごすことで、その夢が少しでも叶うならって思ってた。

 でも、間違ってる。

「いいや。違う」

「違う?」

 こんなの、夢をかなえたことにはならない。

「俺は、リリーを幸せにしたい」

 呪いから、女王から解放する。

 そして。

「だめ」

 リリーは俯いて、首を横に振る。

「…だめだよ、エル。私は…。私は、エルの気持ちには答えられない」

「リリー?」

 声が、震えてる。

 リリーが、自分の顔を手で覆う。

「だって、私…」

 まさか、泣いてる?

 リリーの手首を掴んで引き、リリーの顔を上げる。

 大粒の涙が、その輝く黒い瞳から流れ落ちる。

「あぁ…」

 リリーの肩を抱き寄せ、きつく抱きしめる。

 また、泣かせた。

 泣かせるつもりなんてなかったのに。

 泣かせてばかり。

「エル…」

 どうして泣いてるんだよ。

 幸せにしたいって言った傍から泣かせるなんて。

 俺はリリーを幸せにすることはできないのか?

 なんで、俺は。

 リリーが何を想って泣いてるのか、わかってやれないんだ。

「ごめん。泣かせるつもりじゃなかった」

 泣かないで。

 リリーを離して、その涙を拭う。

 涙は枯れることなく、リリーの頬を伝って、落ち続ける。

「エル、苦しい」

 苦しい?

「エルが優しいから」

「え…」

「それに甘えてばかりいる。そんなこと、許されないのに」

 なんで、それがだめなんだ。

 そのせいで泣いてる?

「リリー、俺は、」

「一緒に居たいのに、一緒に居ることが辛い」

 あぁ。また。

 俺は一緒に居る人を不幸にしてたんだ。

 一緒に居るだけで辛い思いをさせるなんて。

 幸せにしたいと願ってるのに、叶わない。

 リリー。ごめん。

 俺が好きになったせいだ。

 俺が求めたせいだ。

「エル…、もう、だめ」

 もう、だめ?

 もう一緒には居られない?

「俺と一緒に居るのが、辛い?」

「うん」

「でも、一緒に居たい?」

「うん」

 わかってるよ。今ここで、何て言うべきか。

 一緒に居るのをやめようって。

 それがリリーが求めてる言葉。

 でも。

 その言葉を言うことはできない。

 何もかもが遅い。

 だめなんだ。

 もう、離したくない。

「お願い。一緒に居て、リリー」

「エル?」

 わがままだってわかってる。

 また、失うかもしれない。

「ずっと」

 もう、離すことなんて考えられない。

 離れたくない。

「うん」

 リリーが、俺の胸に頭を寄せる。

 その体を抱きしめる。

「リリー、好きだよ」

 もう、離さない。

 自分から離すぐらいなら、死んだ方がましだ。

「エル、ごめんなさい」

「いいんだ」

 傍に居てくれるだけで。

 わがままをかなえてくれるだけで。

 たとえリリーの気持ちを無視したことだったとしても。

 俺が幸せに出来なくても。

 好きな人と、一緒に居たいんだ。


 ※


 眠ったリリーの額に口づける。

『エル、馬鹿だな』

「…なんだよ、イリス」

『お前、何したのかわかってるのか?』

「何って?」

 何もしてない、はずだけど。

『お前は、いずれリリーの呪いを解くだろう。でも、それが何を意味するか分かるか?』

 呪いを解く?

 俺が?

「呪いって、リリスの呪いだろ?それがなくなれば、リリーは誰かから魔力を奪わなくて済むじゃないか」

『つまり?』

「つまり?」

 だって、リリーは。呪いが解けたら幸せな家庭を築きたいって。

 リリスの呪いは、人間から魔力を奪う力を得る代わりに、子供が生めなくなる呪いだから。

 あれ…?

 リリーが魔力を得る方法を、失う?

「それって、」

 魔力を集められなければ、魔法は使えない。試練の扉を壊せないし、帰れない?

「まさか…」

『そう。このまま行けば、リリーは死ぬしかない』

 そんな。

 …また、俺のせいで?

 今まで、呪いを解いて、女王から解放することを考えて来たのに。

 それがリリーを死に近づけることだなんて、考えたこともなかった。

 俺がリリーの呪いを解いてしまう?一緒に居ることで?

「呪いを解く方法は?」

『自分で調べな。どうせこうなると思ってたけどね』

 調べてる時間が残されてるのか?

 今、呪いを解くのって、かなりまずいんじゃ…。

「回避する方法は」

『ないと思うよ。そもそも、ボクが関われることじゃないし』

 なら、なんでわざわざ話しかけてきたんだ?

「俺にできることがあるんだな?」

『ボクに協力してくれるって言うなら、リリーに毎日魔力を渡して。ちょっとずつでいい』

「ちょっとずつ?」

『お前がまた倒れたら、リリーが気にするだろ』

「…それで、どうにかなるのか?」

『どうにもならないよ。エルがやろうとしてるのは、リリーを女王から解放することなんだろ?保険になってやる、って言ってるんだ』

「イリス…」

『お前が失敗しても、ボクがリリーを死なせない。でも、そのためには魔力が足りない』

 リリーが試練の扉を突破できるだけの魔力。

 俺が魔力を渡したところで、その半分しかイリスには貯まらないんだけど。

「後、どれぐらい必要なんだよ」

『それがわかってたら、もっと早くお前から魔力を奪ってる』

 そうだろうな。必要な量を集めきれば、リリーもそれ以上、誰かから魔力を奪う必要はないんだから。

 どれぐらい、渡せば良いんだ?

 今までの感じだと、キスしてる時間に比例して奪われてる気がするんだけど。

 目安がないな。

 いっそのこと、全部渡した方が手っ取り早いんじゃないか?

『おい、エル。忠告は無視するなよ』

「なんだよ」

『リリーは優しいんだ。お前が昨日、リリーにキスしたから、リリーはずっと気にしてたんだぞ』

「あれは…」

 俺が、勝手に。

『だから、エルが起きられないと思って、自分から亜精霊と戦いに行ったんだ』

 なんだよそれ。

「あれほど、俺のために戦うなって言ったのに」

『言い負かされてたくせに』

「…どこまで、馬鹿なんだ」

 なんで、守られる方なんだ。

『少しはリリーの気持ちも考えろよ』

「苦手なんだよ、そういうの。だいたい、リリーは俺に何も求めない」

『はぁ?…お前、馬鹿だろ』

「なんだよ」

『エルはぁ、そういうのはだめだめだよぉ』

『そうだねー』

『自覚がないからな』

「自覚?」

『もう、こんなにやきもきすることってないわ!』

「なんだよ」

『まぁ、苛めるのはこの辺にしておいてぇ、エイダ、手伝ってあげたらぁ?』

『そうですね。私が手伝いますよ』

「エイダ?」

『もし、リリーに魔力を渡し過ぎたら、私がエルに魔力を補給してあげる』

「何言ってるんだ。そんなことしたら、お前の寿命が…」

『時間がないんでしょう。リリスの呪いが解けたら、また私に還元してくれればいいわ。その間、私たちみんなエルから魔力を享受できないと思うけど、それで良い?』

『もちろん、賛成だ』

『良いわよ』

『いいよー』

『エルの恋を応援してあげるぅ』

『了解』

 あ。

 エイダに言われるまで、そんなことに気が回らなかった。

 リリーに自分の魔力を渡し続けるってことは、精霊に魔力を渡すことができない。

 こんなこと、精霊たちから、いつ契約解除をされても仕方ない事態だ。

「ありがとう。…本当に、だめな契約者だな」

『だめだめなエルにはぁ、あたしたちが必要でしょぅ?』

「そうだな。俺は、お前たちが居ないと何もできない」

『なんだい。エルらしくないなー』

「あぁ、そうだな」

 本当に。俺らしくないことばかり。

 眠っているリリーの頬に触れる。

 全部、大切なんだ。

 みんな、俺のわがままに付き合ってくれる。

 エイダから魔力をもらわなくて済む量。気を失わない程度の量。

 精霊たちに心配をかけないぐらいの。

 …難しいな。

 リリー。

 キスする相手が、リリーの好きな人じゃなくてごめん。



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