20
「よう、エルロック。お帰り」
「もう帰ったの?」
「連れてるの誰だよ」
「マリーにちゃんと連絡しろよ」
「あれ、久しぶり」
「仕事頼んであるからよろしくな」
「レティシアが怒ってたぞ」
「誰だ、その子」
「エル、うちの店にも顔出してね」
予想してたことだけど。
「悪いな、リリー」
リリーは俺のマントの後ろに隠れながら歩く。
見世物にする気はないんだけど…。
「なんで、こんなに声かけられるの?みんな、エルの友達?」
「そんなわけないだろ。付き合いが多いんだよ」
「…想像はつくけど」
「とりあえず、先にギルドに寄るぞ」
冒険者ギルドの中に入る。
「よぅ、エル。帰って来たんだってな」
「ただいま。頼まれてたもの、買い取ってくれ」
諸国を旅して集めたものを、片っ端から並べる。
「待て待て、そんなに広げるな」
「急いでるんだよ」
「急ぐことないだろ。査定もあるんだから、ゆっくりしていけ。…ん?なんだ、その子は。拾って来たのか?」
「一緒に旅してるんだよ」
ギルドのマスターは、リリーを覗きこむ。
「リリーシア、です」
「こりゃ、…エル、どういうことだよ」
「あー、もう。言いふらすなよ。査定が終わったら、店に来てくれ。じゃあな」
「おい、待てよ、エル!」
冒険者ギルドを出て、自分の家に向かう。
「いいの?待ってなくて」
「待ってたら見物客が増えるぞ」
「…それは嫌だな」
「だろ?っていうか、道覚えろよ。しばらく王都に居るんだから。俺の家はこっち」
リリーの手を引いて歩く。
「エル、歩くの早いよ」
「急がないと、何に捕まるかわからないからな」
「?」
王都のメインストリートの一つ、サウスストリートから職人通りへ入ってしばらく歩くとある、薬屋。
「ここが俺の家だ」
店の扉を開ける。
「いらっしゃいま…、あ!エル!おかえりなさい!」
「ただいまキャロル。良い子にしてたか?」
長い茶色の髪をなびかせて走って来たキャロルを抱き上げると、キャロルは大きな翡翠の瞳をこちらに向けて、怒る。
「もう、私、そんな年じゃないのよ。ちゃんとレディーとして扱ってくれる?」
「あぁ、そうだったな」
キャロルの膨れた頬に口づける。
変わらずに、元気で良かった。
「おかえり、エル。早かったね、もう一月ぐらい帰ってこないと思ってたよ」
奥の部屋から、キャロルと同じ髪と瞳を持つ少年が顔を出す。
「ただいま、ルイス」
「で?後ろに居るお姉さんは、エルの何?」
「あぁ、紹介するよ」
キャロルを降ろすと、後ろに隠れていたリリーを二人の前に出す。
「彼女はリリーシア。これからしばらく一緒に暮らすから、よろしくな」
「え?」
「え?ママになるの?」
「…違う。リリーシア、この子がキャロルで、あっちがルイス」
「はじめまして。リリーシア・イリスです」
「私はキャロル・クラニスよ。ルイスの妹なの」
「僕はルイス・クラニス。エルの弟子で、この店を預かってる」
「紹介も済んだところで、部屋の掃除をしなくちゃな。キャロル、俺の隣の部屋、リリー用に片づけてくれ」
「え?二階のあそこ、片付けるの?」
「あぁ。中の荷物は、廊下にでも出しておいてくれ」
「一日じゃ無理よ」
「そんなに酷かったか?」
「エルが不摂生に使ってるからよ!物置じゃない!」
「あの、私も手伝うよ。部屋を借りるわけだし」
「本当?よろしくね、ええと…」
「リリーでいいよ」
「うん。リリー、行くわよ」
キャロルがリリーを連れて店の奥へ入っていく。
「エル、どういうつもりなの?」
「ん?」
「リリーシア。エルの、何?」
「俺の、大切な人だよ」
「それって、恋人?」
「違う」
「また、中途半端な関係だね」
その通りだ。
「それはエルの悪い癖だよ」
「……」
「どこで捕まったの?リリーシアに」
「捕まった?」
「エルのことだから、頼まれて面倒見てるんでしょ?」
頼まれたに違いはないけれど。
「…でも、家に誰かを入れるなんて。初めてだよね」
三年間一緒に居ようって言ったのも、ラングリオンで一緒に暮らそうって言ったのも…。
「どっちかっていうと、俺がリリーを連れまわしてるな」
「エルが?」
「グラシアルから、ずっと一緒に旅をしてきたんだ。しばらく旅を休んでもいいかと思って、帰って来たんだよ」
「ずっと?…ってことは、一月ぐらい、ずっと一緒に居るの?」
「一月も経ってないと思うけど」
二十日、か?
「それ、本当?エルがそこまで誰かと一緒に居るなんて、初めてじゃない。今までずっと一人で旅してたのに。…今度どこかに行く時も一緒に行く気?」
「あぁ。そのつもりだけど?」
ルイスは頭を抱える。
「エル。そこまで一緒に行動しておいて、リリーシアとは何でもないっていうの?」
「そう、だけど」
ルイスはあきれたようにため息をつく。
「リリーシアも、エルに似てるのかな」
「どういう意味だ?」
「はい、これ」
質問には答えずに、ルイスが紙の束を寄越す。
「溜まった仕事。簡単な奴なら僕が作ったけど、知らないレシピはそのまま残してある。期日が明日までのもあったな」
「なんだって?」
「心配しなくても、できなかったらキャンセルになるだけだよ。エルが居ないことは説明してあるから。材料はそろえてあるし、作る気があるなら作ったら?」
紙の束をめくる。結構めんどくさいレシピが多いな。っていうか、一体この発注書、何枚あるんだ。
「作るよ。その代わり、帰ってきたことは、まだ誰にも言わないでくれ」
「それ、本気で言ってる?どうせもうばれてるよ。…まさか、リリーシアも居るのに、引きこもる気?」
「あぁ」
これとこれは一緒に作って…、こっちは後回しでもいいか。後は…。
「僕が粘れるのは三日だよ。後は知らないからね」
「あぁ、頼む」
店の奥に入ると、二階から、どたばたとものを動かす音が聞こえてくる。
一階には、台所とシャワー室、錬金研究室、それからルイスの部屋とキャロルの部屋。
二階は、俺の部屋と、書斎と、物置にしている部屋が二つ。
店部分の上は、そのままベランダになっている。
あぁ、リリーのベッド、用意しないとな。
そのまま錬金研究室に入る。
ルイスが整理しているらしく、部屋は綺麗だ。
「さて…」
久しぶりにやるか。
※
「エル、まだ寝ない?」
この液を、緑色に変わるまで一滴ずつ…。よし、良い色だ。
後は、こっちのを…。
「あ、リリー」
いつの間にか部屋に入ってきていたらしい。リリーが、ソファーに座っている。
「もうそんな時間か」
ちょうど区切りも良いところだ。今日はこの辺にしておくか。
「部屋は片付いたのか?」
「えっと…。キャロルは、ついでにもう一つの物置も片づけるって言ってたから、もう少しかかりそうだよ」
「そうだろうな。ずっと、二階の物置を掃除したがってたから。片付くまでは、俺の部屋で我慢してくれ。…たぶん、散らかってるけど」
「キャロルが掃除してたよ」
「…そうか」
なら、片付いているだろう。出かける前の部屋の状態なんて思い出せないけれど。
リリーを連れて二階に上る。
「キャロルとルイスって、エルの兄弟?」
「ん?あいつらは、俺の養子だよ」
「養子?だって、年が」
「ルイスは十三歳、キャロルは九歳。親を亡くしたから、俺が引き取ったんだ」
一年半ぐらい前の話しだ。
「そうなんだ」
二階の廊下は、なんだか埃っぽい。
キャロル、何日かけて掃除する気だ。
自分の部屋の扉を開けると、肌寒い空気が流れてくる。窓を開けっぱなしにして、空気を入れ替えていたのだろう。
「少し寒いな」
窓を閉じる。
「ベッドは使って良いぞ」
「一緒に寝よう」
もう、あきらめた方が早いか。口論する元気がない。
「わかったよ」
ベッドに入って、リリーを抱きしめる。
「あ、の、」
温かい。
リリーが何か言ったような気がする。
けど、だめだ。眠気が…。




