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旧作1-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.王都編
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「よう、エルロック。お帰り」

「もう帰ったの?」

「連れてるの誰だよ」

「マリーにちゃんと連絡しろよ」

「あれ、久しぶり」

「仕事頼んであるからよろしくな」

「レティシアが怒ってたぞ」

「誰だ、その子」

「エル、うちの店にも顔出してね」

 予想してたことだけど。

「悪いな、リリー」

 リリーは俺のマントの後ろに隠れながら歩く。

 見世物にする気はないんだけど…。

「なんで、こんなに声かけられるの?みんな、エルの友達?」

「そんなわけないだろ。付き合いが多いんだよ」

「…想像はつくけど」

「とりあえず、先にギルドに寄るぞ」

 冒険者ギルドの中に入る。

「よぅ、エル。帰って来たんだってな」

「ただいま。頼まれてたもの、買い取ってくれ」

 諸国を旅して集めたものを、片っ端から並べる。

「待て待て、そんなに広げるな」

「急いでるんだよ」

「急ぐことないだろ。査定もあるんだから、ゆっくりしていけ。…ん?なんだ、その子は。拾って来たのか?」

「一緒に旅してるんだよ」

 ギルドのマスターは、リリーを覗きこむ。

「リリーシア、です」

「こりゃ、…エル、どういうことだよ」

「あー、もう。言いふらすなよ。査定が終わったら、店に来てくれ。じゃあな」

「おい、待てよ、エル!」

 冒険者ギルドを出て、自分の家に向かう。

「いいの?待ってなくて」

「待ってたら見物客が増えるぞ」

「…それは嫌だな」

「だろ?っていうか、道覚えろよ。しばらく王都に居るんだから。俺の家はこっち」

 リリーの手を引いて歩く。

「エル、歩くの早いよ」

「急がないと、何に捕まるかわからないからな」

「?」

 王都のメインストリートの一つ、サウスストリートから職人通りへ入ってしばらく歩くとある、薬屋。

「ここが俺の家だ」

 店の扉を開ける。

「いらっしゃいま…、あ!エル!おかえりなさい!」

「ただいまキャロル。良い子にしてたか?」

 長い茶色の髪をなびかせて走って来たキャロルを抱き上げると、キャロルは大きな翡翠の瞳をこちらに向けて、怒る。

「もう、私、そんな年じゃないのよ。ちゃんとレディーとして扱ってくれる?」

「あぁ、そうだったな」

 キャロルの膨れた頬に口づける。

 変わらずに、元気で良かった。

「おかえり、エル。早かったね、もう一月ぐらい帰ってこないと思ってたよ」

 奥の部屋から、キャロルと同じ髪と瞳を持つ少年が顔を出す。

「ただいま、ルイス」

「で?後ろに居るお姉さんは、エルの何?」

「あぁ、紹介するよ」

 キャロルを降ろすと、後ろに隠れていたリリーを二人の前に出す。

「彼女はリリーシア。これからしばらく一緒に暮らすから、よろしくな」

「え?」

「え?ママになるの?」

「…違う。リリーシア、この子がキャロルで、あっちがルイス」

「はじめまして。リリーシア・イリスです」

「私はキャロル・クラニスよ。ルイスの妹なの」

「僕はルイス・クラニス。エルの弟子で、この店を預かってる」

「紹介も済んだところで、部屋の掃除をしなくちゃな。キャロル、俺の隣の部屋、リリー用に片づけてくれ」

「え?二階のあそこ、片付けるの?」

「あぁ。中の荷物は、廊下にでも出しておいてくれ」

「一日じゃ無理よ」

「そんなに酷かったか?」

「エルが不摂生に使ってるからよ!物置じゃない!」

「あの、私も手伝うよ。部屋を借りるわけだし」

「本当?よろしくね、ええと…」

「リリーでいいよ」

「うん。リリー、行くわよ」

 キャロルがリリーを連れて店の奥へ入っていく。

「エル、どういうつもりなの?」

「ん?」

「リリーシア。エルの、何?」

「俺の、大切な人だよ」

「それって、恋人?」

「違う」

「また、中途半端な関係だね」

 その通りだ。

「それはエルの悪い癖だよ」

「……」

「どこで捕まったの?リリーシアに」

「捕まった?」

「エルのことだから、頼まれて面倒見てるんでしょ?」

 頼まれたに違いはないけれど。

「…でも、家に誰かを入れるなんて。初めてだよね」

 三年間一緒に居ようって言ったのも、ラングリオンで一緒に暮らそうって言ったのも…。

「どっちかっていうと、俺がリリーを連れまわしてるな」

「エルが?」

「グラシアルから、ずっと一緒に旅をしてきたんだ。しばらく旅を休んでもいいかと思って、帰って来たんだよ」

「ずっと?…ってことは、一月ぐらい、ずっと一緒に居るの?」

「一月も経ってないと思うけど」

 二十日、か?

「それ、本当?エルがそこまで誰かと一緒に居るなんて、初めてじゃない。今までずっと一人で旅してたのに。…今度どこかに行く時も一緒に行く気?」

「あぁ。そのつもりだけど?」

 ルイスは頭を抱える。

「エル。そこまで一緒に行動しておいて、リリーシアとは何でもないっていうの?」

「そう、だけど」

 ルイスはあきれたようにため息をつく。

「リリーシアも、エルに似てるのかな」

「どういう意味だ?」

「はい、これ」

 質問には答えずに、ルイスが紙の束を寄越す。

「溜まった仕事。簡単な奴なら僕が作ったけど、知らないレシピはそのまま残してある。期日が明日までのもあったな」

「なんだって?」

「心配しなくても、できなかったらキャンセルになるだけだよ。エルが居ないことは説明してあるから。材料はそろえてあるし、作る気があるなら作ったら?」

 紙の束をめくる。結構めんどくさいレシピが多いな。っていうか、一体この発注書、何枚あるんだ。

「作るよ。その代わり、帰ってきたことは、まだ誰にも言わないでくれ」

「それ、本気で言ってる?どうせもうばれてるよ。…まさか、リリーシアも居るのに、引きこもる気?」

「あぁ」

 これとこれは一緒に作って…、こっちは後回しでもいいか。後は…。

「僕が粘れるのは三日だよ。後は知らないからね」

「あぁ、頼む」

 店の奥に入ると、二階から、どたばたとものを動かす音が聞こえてくる。

 一階には、台所とシャワー室、錬金研究室、それからルイスの部屋とキャロルの部屋。

 二階は、俺の部屋と、書斎と、物置にしている部屋が二つ。

 店部分の上は、そのままベランダになっている。

 あぁ、リリーのベッド、用意しないとな。

 そのまま錬金研究室に入る。

 ルイスが整理しているらしく、部屋は綺麗だ。

「さて…」

 久しぶりにやるか。


 ※


「エル、まだ寝ない?」

 この液を、緑色に変わるまで一滴ずつ…。よし、良い色だ。

 後は、こっちのを…。

「あ、リリー」

 いつの間にか部屋に入ってきていたらしい。リリーが、ソファーに座っている。

「もうそんな時間か」

 ちょうど区切りも良いところだ。今日はこの辺にしておくか。

「部屋は片付いたのか?」

「えっと…。キャロルは、ついでにもう一つの物置も片づけるって言ってたから、もう少しかかりそうだよ」

「そうだろうな。ずっと、二階の物置を掃除したがってたから。片付くまでは、俺の部屋で我慢してくれ。…たぶん、散らかってるけど」

「キャロルが掃除してたよ」

「…そうか」

 なら、片付いているだろう。出かける前の部屋の状態なんて思い出せないけれど。

 リリーを連れて二階に上る。

「キャロルとルイスって、エルの兄弟?」

「ん?あいつらは、俺の養子だよ」

「養子?だって、年が」

「ルイスは十三歳、キャロルは九歳。親を亡くしたから、俺が引き取ったんだ」

 一年半ぐらい前の話しだ。

「そうなんだ」

 二階の廊下は、なんだか埃っぽい。

 キャロル、何日かけて掃除する気だ。

 自分の部屋の扉を開けると、肌寒い空気が流れてくる。窓を開けっぱなしにして、空気を入れ替えていたのだろう。

「少し寒いな」

 窓を閉じる。

「ベッドは使って良いぞ」

「一緒に寝よう」

 もう、あきらめた方が早いか。口論する元気がない。

「わかったよ」

 ベッドに入って、リリーを抱きしめる。

「あ、の、」

 温かい。

 リリーが何か言ったような気がする。

 けど、だめだ。眠気が…。



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