道は自分で切り開く!
私はごく一般的な女子高生だ。適当に勉強してしっかり遊んでたまに夜遊びする、一般的な女子高生。の、はずだ。
ちなみに髪は染めてない。金髪には憧れてないし似合わないから。しかし色が抜けやすくて日光とか塩素によって自然と茶髪になってしまう。それで「染めるな校則違反」とか言われても困る。染めちゃ駄目なのに黒に染めろとか、可笑しいでしょ先生。
それはともかく。
どうしてこんなことになってんだろう。
「嫌ですわ! なぜわたくしがこんなどこの馬の骨とも知れない女を守らなくてはならないのです!」
「姫様のお気持ちはごもっともです。姫様ほどの白魔術の使い手はいないでしょうが、外の者を同伴させるように進言しましょう!」
さっきからイヤイヤ言っているのはこの国の王女様。ふわふわくりくりでツヤツヤの金髪美女。やや吊り気味の大きなぱっちり緑の目は目力ばっちし。ついでに肌は色白で唇や爪は珊瑚色。どっからどう見ても可愛い要素を含む美女。
そしてそんな姫に同情しているのが女護衛騎士。おかっぱパッツンだが、くすんだ茶色の髪と同色の目の効力か、こけしというよりはキリリと見えるから不思議。主君に習って態度悪い。このツンツンした態度が騎士仲間の男にはウケるらしい。そんな馬鹿な。
「わたしもちょっとねー。あんな弱そうなののそばにいたらわたしが強い魔術師だってバレちゃうじゃん。男にモテないよねそういうのは。今いいかんじのぼんぼん捕まえてるしー」
「そうだよねぇ。強い女ってもてないよねぇ。男は守りたいもんだし、女は守られたいもんだよねぇ」
男を捕まえておきたい故にしぶっているのはこの国一の女魔術師。
なんでもこの世界の魔術は主に三つに分かれていて、神の力を借りる治癒や防御に特化した白魔術。精霊に力を借りる攻撃に特化した精霊魔術。そして悪魔の力を借りる弱体化に特化した黒魔術。
さっきの姫は白魔術。そしてこの女魔術師は精霊魔術が大の得意らしい。白に近い青色の髪はまっすぐ胸の下まで伸びていて、ぎゅっと纏めると青色が濃くなって綺麗。目は髪の青さの原色みたいに濃い色で、気怠そうにとろんとしているのが常みたい。それが儚げに見えるんだと。目を覚ませ、男ども。
そして女魔術師に同意しながらも実は全くそうは思ってないのが態度に出てしまっているのは女黒魔剣士。言いながら笑っちゃってる。身体のラインにぴったりそった、黒に深紅の模様の入ったスーツみたいなのを着ていて、無造作に撥ねる焦げ茶のショートヘアは彼女の快活さと表しているよう。ちなみに目は真っ黒。黒魔術の使い手は目が黒くなるらしい。もの凄く強い人は黒い目に金環があるらしい。黒魔術を使う時しか見れないらしいけど。
ついでに彼女は剣士でもある。黒魔術の使える剣士ってことで、黒魔剣士。
「あなた!」
「あ、はい」
唐突に大きな声をかけられてはっとする。目の前に高飛車王女が指を突きつけていた。
「このわたくしが力を貸さねばなりませんのに、その態度はなんですの?」
「どう、とは?」
言ってからしまったと思った。こんな高飛車にこんな聞き方したら火に油だった。
「なっ……土下座して乞えと言っていますのよ! さあ、さっさとなさいな!」
「そうだお前! そんな無礼な態度ですぐに首を切られないのは神剣の所有者だからだと覚えておけ!」
喧々囂々。神獣とやらに無理矢理つれて来られてからずっとこれだ。ずっとヤダヤダと言っている王女様に威厳とか感じるわけもない。しかし護衛騎士が本気で剣を抜きそうでこわいから、一応謝っておく。ぺこりと頭を下げて。
「すみません」
「そこへ土下座して姫に謝れ!」
いい加減に飽きてきた。この二人面倒くさい。
「あの、この神剣で邪気を封印出来たら神獣が元の世界に帰してくれるんですよね?」
謝罪はスルーしてそう訊ねる。大事な質問だ。
「そうですわよさっさといなくなればいいんですのよ!」
「ええそうですね。それで皆さんはどうしてもわたしについて来なくちゃならないんですか?」
「女についていきたいわけがございませんでしょう!? 神剣の新たな所有者は男性だと思っていましたのに! なんという仕打ち!」
大げさだなこの王女様。うるさいわ。
「なんでお前がつれてこられたんだ! 姫様の夢が!」
イケメンを期待してたんですか。そういや神剣の所有者は今まででも男女半々くらいだって言ってたっけ。運が悪いなわたし。
「わたしも男だって思ったから同伴名乗り出たのにー。女じゃやる気起きないなー。女を守る女ってモテないよねー」
女魔術師の呟きに、王女を守る女護衛騎士が反応した。
「女を守る女がモテない……?」
ひくりと口元がひきつっている。それをちらりと見て女魔術師が鼻で笑った。
「フッ。だってー、男の出番ないじゃん? って事は男から寄ってくるのはナイよねー」
「……!」
寄ってきて欲しかったんだ、女護衛騎士。その態度で? 厳しくないか?
「で、ついてこなくちゃならないんですね?」
話が逸れたのでもう一度聞くと、王女が怒りでぶるぶる震えながら怒鳴った。
「そうですわ! こんな屈辱、他にありませんわ!」
やりたくないオーラ全開。ついには泣き始めた王女様を慰めつつ、女護衛騎士はわたしを睨んでくる。殺意を感じるんですけど。
「貴様! 姫様を泣かせるなど万死に値するぞ!」
そんな理不尽な! と叫びたいのを堪えて、わたしは顔を上げた。異論はないだろうと踏んで。
「それじゃあわたし、一人で行きます。それでいいですよね?」
えっ、と四人が黙った。ぽかんとわたしを見ている。どうやらわたしは神獣とやらに無理矢理こっちへ連れて来られて、邪気を封じ込める神剣の所有者になってしまったようだ。まあいわゆる勇者的ポジション。そしてこの四人はそんな勇者にあてがわれた多分最強メンバー。
しかし。
女だということでこっちへ来た瞬間から落胆され、さらに美女じゃないと落胆され、さらに才女でもないと落胆され。王様には嫌々この四人を差し出され、その四人に嫌がられ、性別というどうしようもない事に難癖つけられてはや二週間。
疲れるわ! 仕方ねーだろ生まれ持った性別なんだから!
「お供はいりません。わたし一人で行ってきます」
せっかくの提案にぽかんとしている四人にもう一度言った。
「……そう、そうですわよね。あなたがそう言えば済むことでしたのに、わたくしったら……」
「姫様……! これであの国の王子にアタックしに行けますね!」
「ああ、ほんとうだわ! なんて素晴らしいことなんでしょう!」
良かった。王女様たちはすんなり納得してくれたみたい。ちらりとあとの二人に目をやると、二人も頷いていた。
「もっとはやく言ってよねー。さ、それじゃあダーリン捕縛に行きますかー」
「あんたがそう言えば国王も納得するだろ。じゃあちゃんと言っといてよね」
納得してさっさと部屋を出て行く四人。最後の黒魔剣士が扉を閉めるときにひらひらと手を振った。それに苦笑したところで、ぱたんと扉が閉められた。
しばらく、しぃんと静寂が部屋を支配する。
わたしは目を閉じた。ゆっくり深呼吸する。
そして。
「——っふざけんなー!!」
お腹の底から絶叫した。ドスが効いた声になったのはこの際仕方ない。
「自分から立候補したわけじゃねーのになんでイチャモンつけられなきゃなんねーんだよ理不尽だろーが!」
ずっと。
「文句があんなら神獣サマに言えよ馬鹿野郎! 来たくて来たんじゃねーよこっちは!」
こっちへ来てからずっと。
「女子高生だっつーの! 武芸なんかやったこともない女子高生だっつーの! こっちには魔術なんかねーんだよ! 妖魔もいやしねーんだよ!」
溜まっていた鬱憤を大声で吐き出す。ぜぇはぁと肩で息をして、ふぅっと呼吸を整えた。
よし。とりあえず鬱憤は晴らした。
「では、生きますか」
手にした神剣を握りしめる。妖魔が跋扈するらしいこの世界では、これが頼りだ。
来てしまった以上は受け入れるしかない。あの王女様みたいに嫌だ嫌だと言っていたって状況は変わらない。変えるには動くしかない。
幸いにも道は示されている。この神剣で邪気を封印すれば帰れるのだ。なら、それをしに行かなくちゃ。とにかく余計な厄介事は避けたい。だからあの四人は置いていくことにした。邪気を封じる前にあの四人に参りそうだからね。
もう一度深呼吸して閉じられた扉に手をかける。少し押すと、わずかな隙間から通路の光が差し込んだ。
さあ、開こう。自分の未来は自分で勝ち取る。邪気を封じて普通の女子高生に戻るんだ!