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Brave Soul  作者: トム助
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吹き荒れる疾風

 エレナは息を上げながら、闘技場へと入った。闘技場まで来る途中、何人かの生徒に会って、じろじろと見られたような気がするが、そんな事は気にならなかった。なぜなら、エレナは魔法が使えるようになったと思われるからだ。それも世にも珍しい賢者の魔法を。エレナは早く練習を始めて、自分を笑ったやつらを見返してやろうという気にさえなっていた。

 しかし、その前に同じ賢者の七魔法の使いであるとわかったロトの試験が気になる。校長がもうすぐと言うのだから、もうすぐなのであろう。だから、急いで闘技場へと来たのだった。早く来た理由の一つに、友達でもあるし、ということも付け加えておいた。

 観客席につくと、ちょうどこれから試合であろうロトとバロンとすれ違った。


「おう、エレナ。もう大丈夫なのか?」


 ロトはエレナの事を心配してくれる。こう見えても意外とやさしいヤツだという事がここ最近でわかった。突然に出る天然発言は玉に傷だが。


「うん。この通り、バッチリよ! ロトは次試験なの?」

「おう。相手は大蛇の墓(サーペントクレイブ)だ」

「必ず倒す」


 ロトの横にいたバロンは静かに言ったが、胸の内には熱いものを感じる。


「そういえば、バロンも一緒なの?」

「あったりめーだろ。バロンは俺の相棒だからな」


 バロンはまるでガーンとでも聞こえてきそうな形相で、エレナを見てピクピクしている。よほどショックだったらしい。


「そこまでへこまなくても……。ごめんね、バロン」


 そう言って、バロンの頭を優しくなでてやると、さっきまでの落ち込んでいた表情はどこかへ消え、頬を少しだけ赤らめ、そっぽを向いて照れるのだった。こういう所が意外と可愛い。


「よっしゃ! 俺エレナの分も殴って来てやっからな」

「任せておけ!」

「いや、そんなに殴りたいわけじゃないんですけど……」


 エレナは突っ込みながら、つい先ほどエレナが入ってきたところに向かって歩きだす、一人と一匹の姿を見送った。その時、がしっと両肩を突然誰かに掴まれ、思わず声を上げてしまう。振り返るとそこにいたのは、エレナの肩を掴み、ニヤニヤしているアリサ・クライヴだった。アリサには確か、入学初日に声をかけられたはずだった。


「なになに~? もしかして入学初っ端からロトとイイ感じか」

「ち、違うって、べ、別にそう言うのじゃ」

「顔赤い、どもってる」

「……」

「冗談冗談」

  

 アリサの指摘に思わず黙り込んでしまったエレナはアリサの顔を見ていられず、服装に目をやった。アリサは先日会った時の制服とは全く種類の異なる服を着ていた。まるで、極東と呼ばれる地域の武士のような格好だった。エレナはそれを古い歴史の教科書の小さな欄でしか見た事がない。紫色のしなやかな髪も、服装に合わせて一つ結びにしてあった。アリサはポンとエレナの肩に手をのせる。


「まあ、試験の結果はそんなに気にすることないさ、いつだって巻き返し可能だしな」

「うん。ありがとう」


 少し馴れ馴れしいかもしれないが、自分の事を気遣ってくれているのだと思うと嬉しかった。


「まあ、気楽に試験でも見よう。ロトの試験を」

「だから違うって!」

「別にあたしはロトの試験を見よう、としか言ってないぞ。何が違うんだ?」

「もー」


 席に着くまでもアリサのエレナいじりは続いた。エレナはそれにぷくっと頬を膨らませる。それでも、やはり友達、仲間とはいいものだと実感するのだった。


「あはは、可愛いな。妹みたい」

「やっぱり年上?」

「そうだと思うけど、気にしない、気にしない。同じ勇敢な魂たち(ブレイブソウル)だからね」


 魔法が使えなくても関係ない。勇敢な魂たち(ブレイブソウル)だったらそれだけで十分だ。そういう環境がエレナにとって初めてでとても嬉しかった。


「あ、エレナさん」


 席に座ってからすぐに、エレナの左側に一人分ほど席をおいて座っていた、白衣の小柄な少女がエレナを呼ぶなりその距離を縮め、隣まで来た。彼女、ライラ・フリンデルは隣に来るなり、虫眼鏡片手にエレナの顔を覗き込んでくる。


「ライラ、近いよ」

「あ、ごめんなさい。つい観察したくなっちゃうんですよ。癖なんです」

「どういう癖よ!」


 エレナに突っ込まれたライラは舌を出してテヘへと笑った。どうやら治す気はないらしい。


「おう、寮会長じゃないか」

「寮会長!?」


 アリサは何気なくライラを「寮会長」と呼んだようだが、それは正直信じられなかった。内心かなり驚いている。エレナはアリサとライラを交互に見て確認した。


「寮会長って偉いアルか?」


 それまで静かだった肩に乗っているナッシィが、口を開いた。


「うーん。勇敢な魂たち(ブレイブソウル)では偉いとかは特にないですね。みんな平等で、私はその中の代表ですから……というか君も興味深いですね」


 ライラはそう言うなり、ナッシィの頬を引っ張ったりするなど、観察をし始めた。


「来た、来た」


 アリサはウキウキしているかのように、闘技場中央に目をやっている。エレナもいじられているナッシィをよそに、同じようにそこを見た。

 闘技場中央に赤い髪をなびかせ、たたずむロトと黒いドラゴンのバロン。彼らの正面には大蛇の墓(サーペントクレイブ)の男子生徒が立っていた。


「おうおう、やっと試験だぜ。待ちくたびれたな」

「……チッ、なんでお前となんだよ」

「あぁ? 相手が誰だろうと関係ねえだろーが、大蛇の墓(サーペントクレイブ)のジャック・ラヴァさんよぉ」


 ジャックと呼ばれた男はロトを見ようとはせず、ただブツブツと何かを言っていた。


「では、よろしいかな? ……始め!」


 試験官兼審判の教師が言い放つと、もう既に何回もの試験が行われているのにもかかわらず、闘技場内は激しい盛り上がりを見せた。


「喰らっとけ!」


 始めの合図のすぐあとに、ジャックは一瞬で右手に纏わせた炎をロトに向けて投げつけてきた。炎は唸りながら、ロトへと一直線に向かっていく。そして、その炎は大きな音を上げて、ロトに直撃した。闘技場内がざわつき始める。


「あ!」

「ロトなら大丈夫だよ。こんなんでやられるほどやわじゃない」

「……そうなの?」


 エレナはアリサから目を離し、ロトが立っていた場所、今は煙に覆われているそこを見つめた。


「痛くも痒くもねーぞ」 

「……チッ」


 煙が突然に吹き飛ばされ、手を前に突きだした無傷なロトが姿を現した。闘技場内はそれによりかなり盛り上がっている。


「バロン、来い」


 ロトは突きだした手を開きながら相棒のバロンに呼びかけた。バロンはこくりと頷く。その直後、バロンの身体が光り始め、段々とバロンの姿が丸い光の球体へと変わっていき、一瞬強い光を放った後、バロンの姿はそこにはなくなっていた。その代わりに、ロトの開いた手には漆黒の大きな槍が握られていた。大きさはロトの背丈以上で、竜の装飾が施されている。


「バロン・トライデント・ドラグーン。私が追い求める竜であり、槍でもある不思議な存在ですよ」


 エレナがバロンが黒槍になったという光景に驚きを隠せずにいると、それを察したのかライラが言った。


「バロン君は日々観察・研究中なんですが、わからない事があり過ぎますね」


 ライラはそう言いながら、赤い眼鏡の位置を直すと、再びナッシィの事を観察し始めた。ナッシィは「止めてくれアル」と言いながらのけぞっている。

 

「行くぞ、バロン!」


 ロトは、大きな声でそう言って槍であるバロンを握り締めると、その場から消えた。否、消えたように見えるくらいの速さで、ジャックに向かって突っ込んだ。

 しかし、ジャックもそれに対抗するように、いつの間にか両手に纏わせた、大きな炎をロトに投げつける。灼熱の炎はとても大きく、かなりの魔力がなければ吹き飛ばす事は出来ないと思われた。

 ロトは炎の前で立ち止まると、槍を炎に向かって突き出す。ただそれだけだ。しかし、槍の三つに分かれた穂先から吹き荒れた風によって、まるで巨人に強く息を吹きかけられたように、炎は吹き消されたのだった。

 ロトは、炎がかき消されたのとほぼ同時に動きだし、ジャックとの距離を一気に縮める。そして、風を纏わせた槍の柄の方で、ジャックの腹を突いた。ジャックは呻き声を上げて、壁に叩きつけられる。


「うおぉぉぉぉおおおお! 殴らせろおおお!」

 

 ロトは槍を背中に背負うと、握りしめた右拳に大きな風を巻き起こし、壁にめり込んでいるジャックに向かって突っ込む。


「風竜拳!」


 纏った風と、ロトの素早い動きで勢いのついた拳は、周囲の空気を切るようにして進み、ジャックに襲いかかった。既に壁にめり込んでいたジャックは、ロトの風竜拳によって轟音と共に壁に埋め込まれた。ジャックは叫び声もあげる事が出来ずに、ぐったりとしてしまった。

 ロトがそれを見て、誇らしげに鼻で笑うと、背中の黒槍は、先程同様に、光を放ってバロンの姿に戻った。


「つまんねーな」

「オレの出番ほとんどなかったな」

「でも殴ったからいっか」


 闘技場内は、ロトとバロンの見事な早技に、大蛇のサーペントクレイブ以外は沸き立っていた。


「風の魔法……」

「そう。ロトの魔法は『竜の風』って言う賢者の魔法の一つなんだとよ」

「そ、そうなんだ」


 しかし、賢者の魔法の要素に「風」というのはあっただろうかとエレナは首をかしげる。それを見たアリサは「どうかしたの?」と聞いてきたがエレナはそこで考える事をやめ、首を振った。


「エレナさん」

「はい?」


 エレナは後ろからの呼び声に振り向くと、アラクネ・フリギアスがいた。アラクネといえば勇敢な魂たち(ブレイブソウル)の顧問教師である。そして、先程校長がエレナに魔法を教えてもらえるように頼んでおいてくれたはずの人物だ。


「校長先生から話は聞いています。行きますよ」

「あ、はい。お願いします」


 エレナはその場に立ちあがって、アラクネに向けてぺこりと一礼した。


「私は厳しいですよ」

「構いません」

「闘技場横の訓練場です」


 アラクネは「それならよろしい」と言うと、踵を返して歩きだしてしまった。


「アラクネ先生に呼び出し? 何かあったの?」


 その様子を見てか、アリサが不思議そうにエレナに尋ねてきた。


「ちょっとね、秘密」


 エレナは秘密と聞いてさらに不思議そうにするアリサと、立ち上がったエレナの方に乗っていたナッシィをいじっていたライラに向けて、ウインクをした。

 そして、闘技場中央で誇らしげに雄たけびを上げているロトに目をやり、アラクネを追いかけた。

バロンの出番も少ないけど、ナッシィの出番も少ない。

セリフ入れるの忘れそうだ。

気になるエレナの魔法は……次回解明(予定)!

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