幼馴染ラバーズ
初めての投稿となります。
ぜんぜん技術もないですがよろしければ見ていってください
「ほらほら、早くしてよ。電車遅れちゃうよ」
短いポニーテールが跳ねる、高校の制服姿の天真爛漫な女子が俺の手を引っ張る。
「冬希? なにやってんの? ぼーっとして」
俺の顔を見ながら話し掛けてきた。やっぱりこいつ、かなりかわいい女子の部類にはいるだろう。
あ、俺の名前は白浜冬希。一般的な高校生だ。ちなみにこの俺に話し掛けてくる女子は、黒海晴夏。俺とは幼馴染の関係である。こいつとは学年こそ同じだが、俺は二月生まれで、こいつは四月生まれでほぼ一歳の差があるため、よく姉貴面をされる。もっとも、それに付き合う俺も俺なんだが。
今日だって町に買い物行こうとなり無理矢理付き合わされている。こいつの容姿とか性格なら俺なんかよりもいい男だっているだろうに……。
「すまんすまん。ちょっと考え事してた」
思考を一度止め、答える。
「明日は予習する教科ないでしょー。いざとなったら私がノート見してあげるから大丈夫だって!」
そうだ、こいつとは幼稚園、小学校、中学校、そして高校と全て同じ学校、それどころか同じクラスだ。席も隣り合わせになったことだって一度や二度ではない。そんなもんだからクラスメートらにこいつとの関係を囃し立てられるんだ。俺なんかがこいつと釣り合うわけないのにな。
「予習は大丈夫なんだけどな。つーかそろそろ急がないと駄目じゃね?」
腕時計を確認する。今、改札にいるのだが、電車の到着まであと一分。走って行かなければならなそうだった。
「走るよ、冬希!」
俺と晴夏は急いで走って行った。
結論。間に合わなかった。俺達の前でドアは非情にも閉まっていった。
仕方無しに俺達は十分少々待った。俺はたかがこの程度待ってもいいかと思ったが、晴夏はその時間も勿体ないようだった。そんなに急いでんなら一人でいけばいいのに。
とにかく、次の電車に乗って俺達は町についた。
俺達が住んでいる場所は住宅街で何か買い物に行きたいときは電車を使い町に行くのが普通なのである。
「とうちゃーく」
晴夏が大きく伸びをする。この年齢にして少し大きめの胸が強調され――。
「ちょっと、どこ見てんの?」
指摘されてしまった。しかし、改めて見るとスタイルいい体してるよなあこいつ。出るところは出て、くびれるところはくびれている。
「冬希が私を獣のような目で見てる……」
半眼で俺を睨みつけてきた。そろそろこいつから目を逸らす。
今、駅前の広場に俺達は立っている。ここからなら、本屋服屋ショッピングモール等、主要な店にほとんど行くことができる。
「気のせいだろ。てか買い物だろ? さっさと済ませちゃおうぜ」
そうは言っても俺はどこに行くのか知らない。学校で晴夏に買い物に誘われたときもただ買い物と言われただけで、なにを買いに行くのかは聞かされていないのだ。
「じゃあ、ついて来てよ」
歩くこと数分。目的地に着いたようだった。
「最初の店はこれね」
目の前にあるのは若者向けの、値段が廉価なことで売れている服屋だった。
というか、最初に、ということは次もあるってことかよ。別に最後まで付き合うけどさあ、毎回毎回荷物持たされる俺の体のことも考えてくれよな。
そんなことを考えているうちに晴夏は店に入ってしまった。
「これ、どうかな?」
試着室のカーテンが開いて出てきたのは、ワンピースを来た晴夏だった。
いつもの元気なのを清楚なワンピースが押さえ込んでいる。このギャップは……なんというか、とてもかわいい気がする。
「うん、かわいいんじゃ……ないかな」
俺がそういうと、晴夏は顔を少し赤らめた。
「あ、ありがとう」
少し声が震えている。大丈夫かな。体長が優れないのだろうか。
「どうした? 調子でも悪いのか?」
「そんなことないよ。平気だってば」
強く反されてしまった。そういうことなら良いんだけどさ。
こんなやり取りをしている間に、店員が来た。おしゃべり好きなおばさん、といった風貌だ。
「あら、お姉さん、似合ってますよ~」
「そうですか? ありがとうございます」
俺と話すときとは違い、かしこまった言葉遣いをする。いつもと違う感覚にむずがゆさを感じるな。
「お支払いは彼氏さんに任せますか?」
この店員、俺を晴夏の彼氏扱いしてきやがった。晴夏は単なる幼馴染だっつうの。ほら、その証拠に……
「え? いや、違いますって。こ、こいつは、単なる幼馴染で、その……彼氏とは違うんです!」
といっている。しかし最後の部分とかそんなに大声で言わなくてもいいじゃないか。ほら、店中の人がこっち見てるじゃねえかよ。顔、さっきよりもずっと真っ赤だぞ。
結局、服代は晴夏が支払った。
「もう……なんなのあの店員……」
まだ顔が赤い。やはり熱でもあるんじゃないか?
「今日はもう帰るよ! ここの裏路地通ると近道できるから!」
すたすたと先に行ってしまった。辺りは暗く、既に晴夏は見えなくなっていた。なんだもう帰っちまうのか……。残念だ。
「え? 今なんて?」
思わず口にだしてしまった。しかし、こいつと一緒にいられなくて残念? 確かに今、そう思ったよなあ。
「だからここ通ると近道だって――キャアァァァッ」
不意に晴夏の悲鳴が聞こえた。
「晴夏!?」
大声でその名を叫ぶが返事は聞こえない。急いで道を進むと――
腹から大量に出血し、地面に倒れている晴夏がいた。
目を開けると、そこは病院だった。正確には、病室。ベッドの脇の椅子に座ったまま、寝てしまったようだった。時計を見ると既に朝七時。かなり長いこと寝ていたようだ。
「は…………はる……か?」
ベッドには、あの直後に逮捕された通り魔に腹を二カ所刺された晴夏が横になっていた。その寝顔をじっと見ながら昨晩のことを思い返していると――。
「ん……えっと、ここは……?」
まぶたをゆっくりと、晴夏は開けた。上半身だけ起き上がる。昨日のことを詳しくは覚えてないらしい。気を失っていたのだから当たり前なのだが。
「冬希? どうしたの? って、泣いてるの?」
気がつけば、俺は顔のしたにある布団に、染みを作っていた。晴夏が指摘した通り、涙のようだ。
「そうだよ……。泣いてるよ……。当たり前じゃないか。お前が倒れた後、救急車の中で、血液型一緒だったから輸血して……。もし、もし! 血液型の問題で輸血できなかったらって思うと……」
後はもう、言葉にならなかった。
「そうだったの……。ごめんね、心配かけっちゃった。あはは」
最後に笑ったが、上手く笑顔が作れていない。よく見ると彼女の両眼にも、キラリと光るものがあった。
俺は感極まり、晴夏に抱き着いた。
「ふえ……えぇぇ!? ふ、冬希!?」
始め、なにが起こったのか理解できなかったのだろう。しかしだんだんと状況を理解していくにつれ、顔がまた赤くなっている。
「ごめん。本当に、ごめん。ずっと、俺がそばについていればお前を守ることが出来たかもしれないのに……」
思わず腕に力を入れてしまう。晴夏も、かなり苦しいはずだ。あわてて、力を弱める。そして、思いを、ぶつけた。
「だから、さ。ずっと……そばにいても……いいかな」
心臓が早鐘を打つ。体がかあーっと暑くなる。手も汗ばんでくる。
だが、冷静になってみると、晴夏も俺と同じような状態のようだ。
「いい……よ」
確かに、聞こえた。
「いいの?」
この問いには、なにも言わずにただ、こくりと頷いてくれた。
俺自身、こいつとは釣り合わないと思っていたのでとても驚いている。
「だから、いいって言ってるじゃん。もう、遅いよ。私なんかずっと冬希一筋だったのに」
予想外の一言だった。しかし、うれしかった。とても、うれしかった。
「ねえ……。傷痛いのはわかるんだけどさ……。もう少し、このままでいさせてくれないかな……」
晴夏はなにも言わずに俺を抱きしめる力を強くした。もちろん、俺も。
もう二度と、こいつのそばを離れてやるもんか、と思った。
最後まで読んでいただきありがとうございます