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戦後日本に戦艦長門が残ったら。

作者: 如月 愁
掲載日:2026/04/09

1945年8月15日終戦の日――

戦艦『長門』は横須賀で佇んでいた。

姉妹艦『陸奥』は戦中に爆発事故を起こし沈没。

老齢の金剛型戦艦、違法建築艦橋の扶桑型戦艦、航空戦艦として改造された伊勢型戦艦、日本の技術の結晶である大和型戦艦…そのほとんどが戦没している中唯一「艦の形を保って浮いていた」戦艦だった。

史実ではアメリカに接収され、核実験の標的艦となり二度の核爆発に耐えたあとに

沈没した――――



だが、長門がビキニ岩礁に曳航される前、世界情勢が突如として歪み始めた。

極東における勢力均衡を崩すようにソ連軍が三十八度線を越えて南朝鮮へ侵攻を始めた。

「限定的進出」と言われたはずのソ連軍の動きは大規模軍事行動へと変わり、アメリカは対応を迫られた。


しかし、太平洋戦争終結間もない米海軍は、機動艦隊の戦艦の多くを予備役、またはドッグ入りしていた。

航空戦力はあれど、沿岸地域に対して圧倒的な火力を叩き込める"打撃力"が決定的に不足していた。


その時、横須賀に目立った損傷がない一隻の戦艦が残されていることに再び注目された。


戦艦『長門』。


旧式ではあったが、46cm砲を除けば世界トップクラスの打撃力を持つ41cm砲を搭載し、艦体は健在。

何より他の日本戦艦が全て失われた中、「実戦投入が可能な戦艦」として浮いている唯一の存在であった。


米海軍は苦渋の決断を下す。

長門を標的艦ではなく暫定戦力として復活させる―――。


応急的ながらも近代化改修が施された。

対空兵装は米式に換装され、レーダーと通信装備も更新。

副砲も取り外され、3インチ連装速射砲へと換装された。

機関の換装も検討されたが、いち早く戦力にするために延期された。

そして何より、艦を知り尽くした者達が呼び戻された。


かつて長門に乗り、敗戦とともに艦を降りた旧日本海軍の乗組員たち。

彼らは元敵国所属の軍艦だが、愛着ある軍艦に再び乗り込むという矛盾を抱えながら乗艦した。


艦名は変えられなかった。

長門は、『長門』のまま出撃する。


1946年仁川沖――


濃霧の中、海岸線に向けてゆっくりと進む巨影をみて誰もが言葉を失った。

かつて日本の象徴であった戦艦が今は星条旗を掲げ、別の戦争の最前線に立っている。


やがて号令が下る。


主砲、仰角よし。


目標、敵陣地。



――打ち方始め!




41cm砲が火を吹いた瞬間、半島の海と陸は再び震撼した。

それは過去の亡霊か、それとも姉妹がいなくなり、時代に取り残された最後の戦艦の咆哮か――


仲間が、姉妹が、戦友が散って行く中、活躍できなかった戦艦はその後悔を晴らすかのように初弾を敵陣地に叩きつけた……






初弾は敵沿岸砲台の直近に着弾。

観測機からの修正が飛ぶ。


艦橋の中で旧乗組員の声が交錯する。

英語と日本語が入り混じりながらも、動きに迷いは無い。


次々に砲弾が打ち続けられる。

敵砲台は反撃をするまでもなく沈黙する。

数十回斉射しただろうか。

上陸地点の奥の方で巨大な爆発。


やがて上陸部隊から入電が入る。


―橋頭堡確保!抵抗急速に減衰!


艦橋の空気が僅かに緩む。

だが直後、敵航空機接近の報。


米式に換装された三インチ速射砲が乾いた連射音を刻む。

曳光弾が灰色の空に線を引く。


一機炎上。

しかし二機が対空砲火をくぐり抜け長門に接近する。


魚雷が投下され、白い航跡が海面を走る。

舵が切られ艦がゆっくりと傾き、魚雷は艦尾を掠めるように通過するが、一発が至近で炸裂。


機関室で浸水が発生。

だが、速度は落ちない。


主砲が内部陣地に向け砲撃。

揚陸部隊が安全に物資を荷揚げできるように。


夕刻。

仁川沖の海面に黒煙が漂う頃、作戦成功が確定した。


長門はその後横須賀に帰投。

損傷の応急修理は施されたが、本格的な近代化改修は見送られていた。

ミサイルの研究が進み、ジェット機が空を制する時代――。

巨砲を備えた戦艦は既に過去の遺物であった。


それでも長門は解体されなかった。

理由はただ一つ。


「仁川沖で実戦を行った唯一の旧日本戦艦」


という事実。


やがて朝鮮半島の緊張は固定歌詞、世界は冷戦へと突入する。

長門は動かぬまま、横須賀の岸壁でその時代を見つめ続けた。


1954年春。

日本に新たな海の組織が生まれようとしていた。

その名は海上自衛隊。

創設を前に、政府内で一つの議論が起こる。


長門をどうするか。


解体か、あるいは保存か。


仁川沖で共に戦った米海軍関係者の証言、旧乗組員たちの嘆願、そして戦後を象徴する艦という評価。

最終的に日米間で合意が成立する。


「長門を武装解除のうえ、記念保存艦とする。」


主砲は完全不活性化。

弾薬庫は封鎖。

推進系は停止。


だが艦橋は違った。


機密装置のみ撤去し、

計器類はそのまま残す。


羅針儀。

速力計。

射撃指揮装置。

操舵輪。


仁川沖で命令が飛び交ったその空間は、

可能な限り当時の姿で保存された。


1954年7月1日


海上自衛隊発足式典の日。

横須賀。


新しい制服を着た若い隊員たちが、岸壁に整列する。


その背後で、巨大な灰色の艦体が静かに浮かぶ。


戦艦『長門』。


もはや戦う艦ではない。


だが、新しい時代の海を見守る存在として、そこにある。


式典の最後、旧乗組員の一人が艦橋へ上がる。


操舵輪に手を置き、ゆっくりと呟く。


「これからは……撃たなくていい海になるんだな」


遠くでラッパが鳴る。


新しい海軍――いや、平和な海が始まる日。


長門は、静かにその門出を見届けていた。


どうでしたか?


感想、評価お願いします。

誤字があれば教えてください。

それでは。

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― 新着の感想 ―
まぁ佐藤大輔作(征途)では(大和)が海自の超大型護衛艦(やまと)として朝鮮戦争ならぬ北日本との戦争で活躍してベトナム戦争でも更には湾岸戦争ではイージス艦に改装されてる。更には北日本との決戦で北日本戦艦…
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