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蹴り飛ばせ! 恋するカエル姫は愛しの王子様の元へと蹴り進む!!  作者: 功野 涼し


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6/6

アメって名前になった日

「えっ、えええっと。ジャ、ジャンティ王子様、こ、こここちらに御用が……あるっ? ありますか?」


 緊張から噛みまくるシェールを見てジャンティ王子が微笑む。


「突然訪ねて申し訳ない。ここに森で倒れていた子がいると聞いてね。それで様子はどうだろうか?」


「ももも、申し訳ないだなんて! そっ、そのようなことはございません! お客様は支度を終えてここに!」


 慌てふためくシェールが私の元へ一瞬で駆け寄るとジャンティ王子の元へと引っ張っていく。


「こっ、この通りお客様には新しい服を着ていただき、おくつろぎいただいておりました!」


「そうか。ご苦労様」


「はうっ⁉ もったいないお言葉ですっ!」


 ガチガチに緊張してうわずった声で話すシェールにジャンティ王子が労いの言葉をかけると、シェールは石のように固まってしまう。そんな姿を見て微笑んだジャンティ王子は私を見て目を大きく開く。


「髪も整えて見違えるように綺麗に……いや失礼だった、元から美しい方なのだな。お名前は思い出せただろうか?」


 私の手を取って話しかけるジャンティ王子の手を私も反対の手で重ねて握る。それを見て髪の毛を逆立ててシェールが驚き、ジャンティ王子の後ろに立つ護衛の兵士が警戒心をむき出しにして前に出る。それを握られていない方の手で制したジャンティ王子が私を見て優しく微笑む。


「名前がないと不安だろう。そうだな雨の中出会った……美しい湖のような澄んだ瞳を持つ者か……」


 耳から入ってきたジャンティ王子の言葉が頭の中で反復され映像が浮かぶ。それは思い出すという表現で間違いないが、なんとなく私の記憶に別の情報が混ざってきた感じだった。


 大きな葉っぱを揺らしながら地上へ降りそそぐ雨の音と湿る土の匂い。そして私の体の上にも流れる冷たく心地よい雫の感触をくれるものを雨と呼ぶことを知った私は声に出していた。


「アメがいい」


 私の言葉にジャンティ王子が顔を上げ私と目が合う。


「名前、アメにする」


「アメ? どうしてその名前にするんだい?」


「雨が好きだからアメにする」


「そうか、良い名前だね。それじゃあアメ、しばらくゆっくり過ごすといい」


 これが私がアメになった瞬間。この世界に漠然と存在していた私がたしかに存在した瞬間。知らない人間ではなく私をアメとし見てくれたジャンティ王子の優しい視線にそう感じれた。


 ジャンティ王子は優しく微笑むとアメの手をそっと放して姿勢を正す。それがここから離れる合図だと気づいたアメが引き留めようと王子の手を取ったら、シェールたち周りの人が今にも飛び上がりそうなほどビックリする。


 緊張にも似た空気が張り詰めるなかジャンティ王子は普段通り優しい笑顔を見せアメの手を握ってくれる。


「そうだアメ、もしも行く場所がなければ記憶が戻るまでここで働いても構わないがどうだろうか?」


「働く?」


「あぁそうだ。帰る場所が分からないなら、寝るところや食べる場所にも困るだろう」


 ジャンティ王子に言われてから、お腹をさすってみて初めて自分がお腹が空いていることに気づく。


「ご飯食べたい……働いたら食べれる?」


「ああ、衣食住は保証しよう」


「じゃあ働く」


 ━━こうしてアメはお城で働くことになった。メイドデビュー! いぇーい。


「何がメイドデビューよ! アメが王子の手を握ってしかもタメ口で話すのを見て本当に驚いたんだから。しかも働きだしたのはいいけど……大変だったんだから」


 語りながらシェールが遠い目になる。


「シェール先輩にはお世話になった」


「ほんとよ、まったくぅ。……まあ、でも面白い日々でもあったけど」


「今、なんて言った?」


 アメが顔を近づけのぞき込むとシェールが赤くなった顔を逸らしてしまう。


「メイドデビューした経緯は分かったけど、なんで城から出てここにいるんだよ。記憶が戻ったからとかなのか?」


 手を挙げて会話に入ってきた少年をアメが指さす。


「リネロ、アメは記憶喪失じゃないから戻ったとかはない」


「ああそうか、アメ(ねえ)はカエルだったって話だったもんな。わりぃーわりぃー」


 リネロが頭をかきながら謝るとアメは腕を組んで満足そうにうなずく。


「で? なんで城を出たんだ」


 リネロの問いに、よく聞いてくれたと大きく頷いたアメに対しシェールは苦虫を嚙み潰したような表情をする。


「追い出された」


「追い出された? 今までの流れからお城で頑張って働きましただろ? 追い出されたっていったい何したんだ?」


 リネロの質問に対し、ふふ~んと腕を組んで得意気な顔をするアメの代わりにシェールが口を開く。


「この子、ジャンティ王子にキスしたのよ。しかも皆の前で……」


「しちゃった!」


 いぇ~いとピースをするアメとは対照的にシェールが頭を押さえてため息をつく。


「ほっほっほっ、それはそれはアメ様らしいですな。追い出された原因はキスだとして、なぜキスをしようと思ったのですか?」


 ランロットが質問すると、今度はシェールが頭を抱える。


「す、好きな人とキスをするんだって……その私が言ったから……」


「言われた!」


「なんだシェールが悪いんじゃねえかよ」


「うっさいリネロ! あんた後でひどいからね!」


「うわっ! シェールが怒った!」


 拳を振り上げるシェールから逃げたリネロがランロットの背後に隠れる。


「まあまあシェール様落ち着いてください。リネロ様も気になりませんか? アメ様がどのようにして王子にキスをして追い出されたのか」


「ま、まあ……それはそうだけど」


 リネロがチラッとアメを見て頬を赤らめると顔を逸らす。それを見たシェールが口元を押さえてわざとらしくクスクスと笑いからかうと、リネロが舌を出して変顔で対抗する。


「では続きを聴かせていただきますかな?」


「分かった」


 戯れるシェールとリネロを見て笑顔を見せたランロットが話の続きを催促する。


 再び始まるアメの話に皆が耳を傾ける。

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