愛され勇者候補
ギルドへ本登録をするためには様々な依頼をこなす必要がある。これは戦闘だけでなく、採取から雑用まで幅広く行うことで自身の適正を見い出し、多くの人と関わる機会として設けられた制度である。
つまり腕っぷしだけでは冒険者にはなれず人として関わりを持って人としての信頼を得ることを目的としたものである。
もちろん完璧な制度などではなく、苦手な依頼は仲間内で処理して突破する者も多くいるのも事実である。
冒険者の知り合いがいないことは抜け道が使えず正攻法でやる必要があるわけだが、アメにとってそれはハンディではなくむしろアドバンテージとして働くことになる。
家の解体現場で屈強な男たちが汗を流しながら物を運ぶ中、作業を手伝うアメが柱を数本肩に抱えて現場を走りまわる。運ぶ柱の重さを感じさせないぴょんぴょんと軽やかに跳ねるアメを現場の男たちは見慣れているのか、手を振るアメに手を振って応えている。
「生が出るな。それを置いたらおやつにしようか」
「おやつ! 分かった行ってくる!」
現場監督のおじさんに声をかけられたアメがあり得ない速度で柱を運ぶと一瞬で戻ってくる。
「おやつの時間にしよ!」
「お、おおう。ちょっと待ってくれるか」
「うん、待ってる!」
元気よく返事をしたアメがぴょんぴょんと跳ねて、解体して出た資材と解体材を仕分けし記録を取るランロットの元にやってくる。
「ランロット。おやつの時間だって」
「もうそんな時間ですか」
笑顔でおやつの時間を知らせるアメに、額の汗を布で拭ったランロットが笑顔で応える。
「待たせて悪いな」
数人の男たちを戻ってきた現場監督のおじさんが簡易テーブルに焼き菓子を広げる。
「アメのお嬢ちゃんが一番働いているんだ。たーんと食ってくれ」
「うん! 食べる!」
クッキーやスコーンを両手に取り口に放り込むと満面の笑みでモグモグと食べるアメを見て現場のおじさんたちが頬を緩めて自分の分まで分け与える。
「いいの! ありがとう‼」
おじさんが差し出したクッキーをはじけんばかりの笑顔で受け取ったアメはおいしそうに食べる。屈託のない笑顔で食べるアメの姿はおじさんたちに癒しを与え、周囲にほわほわした空気をもたらしている。
「それにしてもあの子が現場に入るってときは驚いたが、今は助かってるっていうかなくてはならないくらいの存在だ」
「そのように言っていただけると大変嬉しいです」
現場監督の言葉にランロットがお礼を述べると、二人は皆と楽しそうに話すアメの方を見る。
「なんでも噂だとアメの嬢ちゃんが勇者の末裔とか聞いたけどよ、そんなおとぎ話の人間なんてどんな堅物のめんどいやつかと思ってたけど、会ってみれば素直でいい子で驚いたな」
「ええ、とても素直で優しいお方です」
そう言ってランロットは優しく微笑む。
***
アボンド王国の城下町であるアボンドの隣にある町、シュエットでアメとランロットはフィナンシェを買うと丁寧に梱包された箱を抱える。
「お目当てのものは買えましたね。それでは帰りましょう」
「うん。おばあちゃん待ってるから早く帰る!」
待ちきれないといった様子で足踏みをするアメを見てランロットが微笑むと自身に補助魔法をかける。
「ランロットって魔法上手だよね。アメはまだうまくできない」
「わたくしの教え方が悪いのであってアメ様は確実に魔法が使えるようになっています。現に防御系魔法の成長は著しいものがあります。自信を持って大丈夫でございます」
「ほんと?」
「本当でございます」
ランロットに褒められ嬉しそうに体を揺らしたアメは手に持った箱を大切に抱く。
「それでは行きましょうか」
「うん!」
元気に返事をしたアメとランロットが目にも止まらぬスピードでその場から去って行く。土煙が上がって消えた二人のあとには、唖然とした顔のフィナンシェを売ったお菓子屋の店主と周囲の人たちが残されていた。
道中を爆速で駆け抜けるアメを必死に追いかけるランロットの二人は、馬車で半日かかる距離をわずか数時間で走り終える。もちろん道なき道を進み、目的地へ一直線で駆けるので一概に比べれないが速いことには変わりない。
汗一つかいていないアメと静かに息を整えるランロットは、ある一軒の家の前で足を止めアメがドアをノックする。
「おばあちゃん。頼まれたもの買ってきたよ」
アメの元気な声に反応したドアが開き杖をついたおばあさんが顔を覗かせる。おばあさんの顔を見たアメは、はじけんばかりの笑顔で箱を差し出すとおばあさんは嬉しそうに受け取る。
「おやおや、もう買ってきたのかね。早いねぇ~」
「うん、おばあちゃん楽しみって言ってたから早く帰った」
「そうかい、そうかい。アメちゃんは優しいねぇ~さあ、お入り」
家の中に案内されたアメは慣れた様子でおばあさんと一緒に台所へと行くと、おばあさんがお湯をそそいだ急須とコップと皿が載ったお盆を運びテーブルの上に置く。
そこからはランロットが鮮やかな手つきでコップにお茶をそそぎ、アメたちに配膳する。
「すまないねぇ。あたしがもてさなきゃいけないのに」
申し訳なさそうに謝りながらおばあさんはアメから受け取った箱を開けてフィナンシェを皿に移す。
「さあお食べ」
「わーい!」
両手を挙げて喜ぶアメの隣でランロットが頭を下げる。
「いつもおもてなしをしていただきありがとうございます」
「いいのよ。足の悪いあたしのお菓子が食べたいなんてお願いを叶えてくれているんだから。それに一人で食べるよりおいしそうに食べるアメちゃんと食べる方が楽しいんだからお礼を言うのはあたしの方だよ」
そう言ってアメを見たおばあさんは箱から出したフィナンシェをアメに手渡し、お礼を言っておいしそうに食べるアメを見て優しく微笑む。
これらのような個人的依頼というものもこなす必要があるが、それらの必要ポイントは少ないゆえに一件につき1ポイントともらえる量も少ない。
それでもアメは好んで個人的依頼をやるので、多くの人から知られ愛される存在となっていく。
(わたくしを助けていただいたお礼にと困っているアメ様を手助けいたしましたが、改めて考えるとアメ様と出会ったのは偶然ではなく必然だったのかもしれませんね。老い先短いわたくしが最後に仕える人として最高の人と出会えたのだと今は思っています)
フィナンシェを食べるアメを見て物思いにふけったランロットはフィナンシェを口に運ぶ。
「大変おいしいです」
「うん! おいしいよね!」
微笑むランロットを見てアメも嬉しそうに同調する。




