私がカエルだったころの話
彼女がカエルだったころ、正確には魔物の一種であるディモンガエルと呼ばれていたときのこと━━
ディモンガエルは座布団一枚ほどの大きく丸い体につぶらな瞳、愛嬌のある顔を持っているが、彼らは立派な魔物である。
ただ人を襲うことなどなく、人が討伐したモンスターや動物の死体を食べる森の掃除屋と呼ばれている。
今日もとある一行が討伐した魔物にありつけるかもと、物陰に身を潜め今か今かと待つディモンガエルたち。
そんな彼らの存在に気づいた一人の青年が、物陰から顔だけ出して並ぶ姿を見て微笑む。
「カエルたちはご馳走が待ちきれないといった様子だ。討伐対象になっていない魔物ははここに置いて帰ろう」
「ジャンティ王子はお優しいですな。かのような下等な生き物にまで情けをかけるとは、いやはや感心感心」
年老いた眉の長い男が長いあごひげをさすりながら言うと、ジャンティ王子は少しばかりムッとした表情であごひげの男を見る。
「下等とはいうが、このディモンガエルのような生き物がいるから森やダンジョンが清潔に保たれているんだぞ」
「ははは、ジャンティ王子は博識であられますな」
「カティナまで茶化すか。全ての生き物には何らかの役割がある。無いように見えるのは我々がそのものの本質を知らないからだ」
「いやはや、常に学ぶ姿勢はさすがでございますな。私も見習わなければいけませんな、ぬはははは」
カティナと呼ばれた屈強な男が笑いながら褒める言葉を背にジャンティ王子はその場に屈むと群れから離れ近くにいた一匹のディモンガエルを抱きかかえる。
「どうだ二人とも、可愛い顔をしていると思わないか?」
ドヤ顔で言うジャンティ王子に対し二人の反応は薄く、お互いに顔を見合せてしまう。
「まあいい。今の段階で理解してもらおうだなんて思ってはない。ただ将来我が国の発展を願う私としてはあらゆる物事に気付ける人でありたいと思っている。たかがディモンガエルといえ何が役に立つかは分からぬぞ」
「さすがは王子ですな」
「これで我が国の安泰は間違いないですな」
ジャンティ王子の言葉にカティナたちは手を叩いて褒め称える。
「それは本心で言ってるのか?」
「ええ本心ですとも」
「もちろんでございます」
ジト目で見るジャンティ王子の視線に負けない笑顔で拍手をする二人との視線の戯れがしばし続く。
やがてジャンティ王子が自身の抱いていたディモンガエルに目を向け微笑むとそっと地面に置く。
「食事の邪魔をして悪かったね。仲間のところへお帰り」
優しく地面に置かれたディモンガエルは群れに帰ることなく王子をつぶらな瞳で見つめるとケロっとひと鳴きする。微笑んで応えた王子はディモンガエルに背を向けるとその場をあとにする。
小さくなっていく王子の背中をディモンガエルは名残り惜しそうにじっと見つめていたが、やがて見えなくなるとまるでため息をつくかのように口からふぅっと息を吐きだす。
━━それが私と王子との出会い。
アメは自分の前にいるランロットとメイド姿の少女、顔の半分と腕や足を包帯でぐるぐる巻きにした少女、フライパンを持った少年、大きな体で鎧を磨いて手入れをしている男を順に見る。
「出会いって言ったってそれカエル目線での話? まだ信じられないんだけどさ、なんでアメは今の姿になったのよ」
メイド姿の少女が疑いの目でアメを見る。
「シェール先輩は疑り深い子」
「あのさ、私は昔カエルでしたって言って誰が信じるのよ。たしかにアメが城に来たときすっごく変な子だとは思ったけど、カエルはないでしょカエルは」
メイドの子シェールは頭をかきながらアメを疑いの目で見る。
「じゃあ続きを話す。この体になったときの話」




