カエル姫と呼ばれる少女
魔物や魔族があふれるこの世界においてそれらを専門に討伐する者たちがいる。国が直接運営する防衛団に所属する『傭兵』と、一般人が集まり組合として設立した冒険者ギルドに所属する『冒険者』と呼ばれる者たち。
どちらも強者ぞろいの集団でありこの世界にはなくてならない職業だが、男くさい職場であるのは仕事上仕方のないことかもしれない。だが、今これまでの状況を全て覆す一人の少女が現れ新たな歴史を刻んでいくことになる━━
地面を蹴って空高く飛んだ少女が空中の何もない空間を思いっきり蹴る。
それは『ウインドフィックス』と呼ばれる魔法で空中の空気を固めて敵の攻撃を逸らしたり、空中での方向転換を可能にするもの。普通の人であれば一度方向転換に使用できれば、かなりの手練れといえるがこの少女は違う。
空中に足場を生み出しては軽やかに跳ねジグザクに空中を飛び跳ね地上から飛んでくる槍や矢、魔法で作られた炎など敵の攻撃を容易く避けながら敵陣に突っ込んでいく。
激しい動きにも関わらず束ねた金色の長い髪を乱すことなく、澄んだ水のような水色の瞳を敵の大将である巨大なオークに向ける。自身に向かっているのに気付いた巨大オークは大きな剣を振りかぶって少女を一刀両断しようとフルスイングする。
「けろっと!」
少女は空中で体を丸めくるくると回転しながら巨大なオークの頭上へ飛んでいくと体を開きかかと落としを脳天に放つ。空気が震えるほどの衝撃が周囲に広がり、その圧で周りにいた小柄なオークたちが吹き飛ぶ。
すさまじい衝撃に頭蓋骨が凹み顔が潰れた巨大オークが地面に倒れる前に、空中で横回転した少女が回し蹴りを巨大オークの胸元に放つ。
小さな少女が放った蹴りによって巨大なオークはぶっ飛ぶ、遠く離れた場所で土煙が上がる。
スタッと軽やかに着地した少女は胸元を守る薄手のアーマーと、スカートの埃を払うと、すねから足にかけて装備された銀の防具の具合を確かめるかのようにトントンと地面を蹴る。
その様子をやや遠巻きに見ていたオークの集団だったが、ハッと我に返り一斉に少女に向かって襲いかかる。
気付いた少女は焦ることなく身を低くし、一番最初に襲ってきたオークの腹を蹴る。凄まじい衝撃波と共に蹴られたオークは周囲のオークたちを巻き込んで吹っ飛んでいく。
そこからは少女の独壇場。鋭い蹴りは銀の閃光となってオークたちに襲いかかる。数分と経たぬうちに、たった一人で30そこらはいたであろうオークの集団を制圧し、彼らは物言わぬ塊となって地面に伏せていた。
「アメ様! ご無事ですか」
数人の鎧を身にまとった男性たちが少女に駆け寄る。アメと呼ばれた少女は集団に気づくとそちらに目を向ける。
「アメは大丈夫。ランロットの方は成功?」
「ええ、アメ様がオークどもを引き付けてくれたおかげでオークによって封鎖されていた村を救うことができました。ところでこちらは?」
ランロットと呼ばれた口ひげを生やした初老の男性は周囲に倒れているオークの集団を見てアメに尋ねる。
「倒した」
「おぉ! 一人でやってしまわれたのですね。当初の予定ではオークどもを引き付けて、いやまあ、それをお一人でやると言ったときも驚きましたが、まさか全滅させるとは想像もしていませんでした。相変わらずお強いことで」
「うん、避け続けるより倒した方が早いって思ったから。ダメだった?」
「いえいえ。倒していただいた方が、今後のことを含めて非常に助かります」
「良かった」
アメは笑顔を見せるとすぐに自分のお腹をさする。
「お腹空いたから帰ろう」
「ええ、そういたしましょう。傭兵の方々、わたくしどもはこれにて失礼いたしますので、報酬の分配については明日担当の者とお伺いいたしますのでそのとき改めてということで」
ランロットは深々とお辞儀をするとアメの元に寄る。
「さあアメ様、帰ってお食事にいたしましょう」
「うん、する!」
元気よく返事をしてぴょんぴょん跳ねるアメを連れその場から去っていくランロットたちを見送った傭兵たちは辺りを見回す。
「……うそだろ、これを一人でやったっていうのかよ」
オークたちの屍を見て口をポカンと開けたままの傭兵が呟く。
「あれが噂のカエル姫……」
「あぁ噂通り……いやそれ以上だ」
傭兵たちに『カエル姫』と呼び、驚愕と感心の気持ちを向けられる彼女は自身のことをカエルだと言うのでそう呼ばれるようになったのである。
皆は信じていないが実は本当である。
そう彼女は人間ではない。
魔族の体に人間の魔力回路と知識を合わせた最強のボディ。そして最後にレアなカエルを合わせて生まれたのがカエル姫ことアメなのである。




