第99話 王を縛るもの
「王権制限の臨時法案」
その言葉が落ちた瞬間、
空気が変わった。
さっきまでの戦場は外だった。
だが今は違う。
王宮の中だ。
円卓室。
重臣、評議員、そして――大公クラウディウス。
全員が揃っている。
逃げ場はない。
王は席に座る。
ゆっくりと。
「内容を」
短い。
だが圧はある。
大公が口を開く。
「臨時措置として、王の軍事・財務決裁を評議会承認制に移行」
沈黙。
「期間は危機収束まで」
合理的な顔をしている。
だが本質は違う。
王権の制限。
レオンが低く言う。
「実質的な権限移譲だな」
「共同統治です」
大公は即答する。
第二王子が言う。
「速度が落ちる」
「だが暴走は防げる」
アルノーが続ける。
「現に地方は不満を抱えている」
「王都優先の判断が続いている」
正論。
だが。
リリアーナは気づく。
これは“善意の制度”ではない。
“主導権の奪取”だ。
王は静かに聞いている。
一言も挟まない。
そして。
「質問がある」
口を開く。
全員が見る。
「この法案は」
「危機を早く終わらせるためのものか」
大公は即答する。
「当然です」
「では」
王の声が少し低くなる。
「承認に時間がかかり、判断が遅れた場合」
「責任は誰が負う」
沈黙。
一瞬。
だが確実に揺れた。
アルノーが答える。
「評議会が」
「全員で」
王は頷く。
「全員で負う責任は」
「誰も負わない責任と同じだ」
空気が凍る。
リリアーナの胸が震える。
言い切った。
王は続ける。
「私は間違う」
「だが責任は私が負う」
「それが王だ」
静寂。
重い。
第二王子が小さく息を吐く。
レオンは目を閉じる。
大公はわずかに目を細める。
「理想論ですな」
低く言う。
「現実には、一人で国家は背負えぬ」
王は即座に返す。
「だから支えがある」
視線が動く。
レオンへ。
第二王子へ。
そして。
リリアーナへ。
「だが決めるのは一人だ」
断言。
アルノーが一歩出る。
「では問います」
「もしその一人が誤ったら」
王は迷わない。
「修正する」
「どうやって」
その問いに。
王は静かに言う。
「制度で」
リリアーナの心が強く揺れる。
繋がった。
王と制度が。
対立ではなく。
共存として。
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
大公が口を開く。
「……面白い」
小さく言う。
「王が制度を使うか」
視線が鋭くなる。
「では試そう」
空気が変わる。
「この法案は撤回しない」
「評議会で正式に議決にかける」
対立は終わらない。
むしろ。
始まった。
王は頷く。
「受けて立つ」
短い。
だが十分。
回廊。
リリアーナは歩く。
心臓が速い。
今の言葉。
王の言葉。
それは。
制度を否定しない王。
制度に支えられる王。
そして。
制度を使う王。
完成に近づいている。
だが。
同時に。
敵も増えている。
その時。
新たな報が届く。
「北方、正式使節派遣を要請!」
足が止まる。
外も動いた。
内も動いた。
戦場が重なる。
リリアーナは静かに息を吸う。
――ここからが、本当の選別だ。
ついに内部対立が表に出ました。
外の戦いに勝ち始めた瞬間、
内側の力が動き出す。
王という存在の本質に踏み込んできています。
次話では「外と内の同時交渉」に入ります。
かなり熱い展開になります。
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