第98話 効いた一手
封鎖線が、崩れた。
完全ではない。
だが確かに、変わった。
「北方、監査対象区間の通行を許可!」
報告が軍務棟に響く。
静寂のあと、
空気が一気に動いた。
地図の上。
太く引かれていた線に、隙間ができる。
副補給線と繋がる。
流れが通る。
王は地図を見つめたまま、言う。
「どの範囲だ」
「三区間」
「監査団立ち会いのもと、限定的に開放」
レオンが低く言う。
「……通したか」
第二王子が口元を歪める。
「圧の意味が薄れたな」
封鎖は絶対ではなくなった。
交渉の一部になった。
王は短く言う。
「第一段階、成功だ」
誰も異論はない。
だが。
財務卿がすぐに続ける。
「市場も反応しています」
「為替、回復傾向」
「連盟、凍結解除の再検討」
空気がさらに軽くなる。
押されていた流れが、
初めて戻る。
リリアーナは静かに息を吐く。
通った。
王の一手が、現実を動かした。
だが。
「喜ぶのは早い」
レオンが言う。
「北方は譲ったわけではない」
「調整しただけだ」
その通り。
第二王子も頷く。
「次はもっと深く来る」
沈黙。
その時。
別の報告。
「地方ルグラン、再度混乱拡大!」
空気が再び張り詰める。
「今度は商人層も参加」
「流通格差への不満が顕在化」
王都が持ち直すほど、
地方の差が目立つ。
王は目を閉じる。
一瞬。
だがすぐに開く。
「状況を整理する」
冷静な声。
「王都は持ち直す」
「地方は悪化」
言い切る。
逃げない。
リリアーナが言う。
「配分を再調整すべきです」
レオンが即座に返す。
「削れば王都が揺れる」
第二王子が言う。
「地方を放置すれば、内部崩壊だ」
正論がぶつかる。
王は静かに聞く。
そして。
「分けるのではない」
短く言う。
「増やす」
沈黙。
レオンが目を細める。
「どうやって」
王は言う。
「連盟との契約を拡張する」
「輸送量を増やす」
「地方にも流す」
財務卿が即座に言う。
「資金が足りない」
「借りる」
即答。
誰も言葉を失う。
「高利でもか」
「今は時間を買う」
王は迷わない。
リリアーナは気づく。
この王は、
“均衡”を取らない。
“押し切る”。
その時。
レオンが小さく笑う。
「らしくなったな」
第二王子も言う。
「王だな」
評価。
だが同時に。
怖さもある。
回廊。
リリアーナは王の隣を歩く。
「陛下」
呼ぶ。
「負担が集中します」
「承知している」
「王に」
「承知している」
同じ言葉。
だが意味が違う。
「それでもやる」
その一言で終わる。
リリアーナは足を止める。
背中を見る。
強い。
だが。
危うい。
その時。
遠くから声。
「評議会から緊急提案!」
振り返る。
使者が息を切らしている。
「内容は」
言葉が落ちる。
「王権制限の臨時法案」
空気が凍る。
リリアーナは息を呑む。
来た。
内部の反発。
王の力が強くなるほど、
抑えようとする力も強くなる。
王は静かに言う。
「持ってこい」
逃げない。
だが。
戦場は広がっていた。
外だけではない。
内側でも。
王の一手が確かに効きました。
でも、それは同時に「王が強くなりすぎる」という新しい問題を生みます。
外の敵と内の反発。
二つの戦場が重なってきました。
ここから一気に物語はクライマックスに向かいます。
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次話、かなり熱い展開になります。




