第95話 流れの変化
最初の報告は、予想よりも早く届いた。
「副補給線、開通しました!」
軍務棟に声が響く。
山岳路。
細く、険しく、これまで主流ではなかった道。
そこを、荷馬が列をなして進んでいる。
護衛付き。
速度は遅い。
だが――動いている。
王は地図を見つめる。
線が一本、増えた。
「どれほど持つ」
レオンが即座に答える。
「三日は凌げる」
「五日は厳しい」
だがゼロではない。
それだけで違う。
第二王子が低く言う。
「北方は予想している」
「主要路を押さえている以上、こちらが副路を使うことは読んでいる」
王は頷く。
「だからこそ、同時に動かした」
その時、別の報告。
「南方連盟、輸送契約に応じる意向」
室内の空気がわずかに緩む。
マルコの判断。
利があると見た。
だが。
「条件は」
「高利」
当然だ。
足元を見られている。
レオンは即答する。
「受けるべきだ」
「市場は動き始める」
王は短く頷く。
「承認する」
決裁。
即断。
そして三つ目。
「北方への提案、返信あり」
静寂。
エルヴァーンの文。
王が自ら読む。
数秒。
沈黙。
「どうだ」
第二王子が問う。
王はゆっくり言う。
「……乗ってきた」
視線が集まる。
「共同監査団、限定的に受け入れる」
条件付き。
だが明確な変化。
封鎖は絶対ではなくなる。
レオンが小さく笑う。
「合理は通じるか」
だが。
軍務卿が言う。
「完全解除ではない」
「主導権はまだ向こう」
その通りだ。
勝ったわけではない。
だが。
流れは変わった。
王は椅子に座らない。
立ったまま言う。
「次に備える」
その時。
別の報告が飛び込む。
「地方ルグラン、再度暴動発生!」
空気が一変する。
「今回は鎮圧済みですが……」
言葉が濁る。
「王都優先への反発が明確です」
沈黙。
副補給線は王都を救う。
だが地方はまだ苦しい。
アルノーの言葉がよぎる。
――地方は切り捨てられたと感じている
王は目を閉じる。
一瞬だけ。
だがすぐに開く。
「地方へも回す」
レオンが即座に言う。
「量が足りない」
「ならば分ける」
王の声は揺れない。
「王都も地方も、どちらも持たせる」
無理な配分。
だが。
均衡ではない。
選択でもない。
“両方”を取る決断。
第二王子が低く言う。
「綱渡りだ」
「承知している」
王は答える。
回廊。
リリアーナは歩きながら思う。
確かに流れは変わった。
封鎖は揺らぎ。
市場は動き始めた。
だが。
歪みも生まれている。
地方の不満。
資金の圧迫。
軍の緊張。
全てが同時に存在している。
王は前を見ている。
止まらない。
だが。
その背は、少しだけ遠くなった気がした。
そしてその夜。
密かに届いた報。
北方軍、再配置。
封鎖線を“広げた”。
リリアーナは静かに息を呑む。
――まだ終わっていない。
むしろ。
ここからが本番だ。
流れが動き始めました。
王の判断は確かに効いている。
でも、それは同時に新しい歪みも生みます。
ここから「本当の試練」に入ります。
次話では、北方の真意がさらに見えてきます。
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