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第93話 王は一人か

 王都は静かだった。


 だが、その静けさはどこか歪んでいた。


 朝の市場。


 人はいる。声もある。だが視線が落ち着かない。


 パン屋の前で、女が囁く。


「また上がるって」


「穀物、地方はまだ足りないらしい」


 別の男が低く言う。


「王都ばかり守ってるからだ」


 その言葉は小さい。


 だが、広がる。


 壁に貼られた紙。


 粗い字。


 ――王は一人で決めるな


 ――評議制を強化せよ


 その署名。


 アルノー・ベルトラン。


 王宮。


 報告はすぐに上がる。


「市中での王権批判が拡大しています」


 レオンが淡々と告げる。


 新王は書類から目を上げない。


「暴動の兆候は」


「現時点ではなし」


「だが不満は確実に蓄積」


 静かな危険。


 リリアーナは窓の外を見る。


 静かすぎる。


 爆発前のように。


「放置すれば拡大します」


 短く言う。


 新王は頷く。


「ならば会う」


 即答。


 「誰に」


「アルノーに」


 回廊。


 アルノーは呼び出しに応じ、迷いなく現れた。


 礼は正しい。


 だが視線は逸らさない。


「陛下」


「王権批判の意図を聞きたい」


 直球。


 アルノーは一歩も引かない。


「批判ではありません」


「提案です」


「地方の声を制度に組み込むべきです」


 静かな論。


「現状、王都中心の判断が続いている」


「地方は切り捨てられたと感じている」


 事実。


 否定できない。


 新王は言う。


「だからこそ責任を私が負っている」


「評議会は助言する」


「だが決断は一つでなければならない」


 アルノーは即座に返す。


「一つである必要はありません」


 空気が張り詰める。


「複数の視点が制度に組み込まれていれば」


「誤りは減る」


 合理的。


 だが。


 リリアーナが一歩前に出る。


「決断が遅れる」


 短く。


「危機では致命的です」


 アルノーは彼女を見る。


「では今の地方の不満は?」


 刺さる。


「遅れた判断の結果ではないのですか」


 沈黙。


 リリアーナは言葉を選ぶ。


「優先順位の問題です」


「全てを同時には救えない」


「だからこそ王が決める」


 アルノーは小さく息を吐く。


「ならば問います」


 視線が王へ向く。


「地方がさらに悪化した場合」


「次も同じ選択をしますか」


 数秒。


 長い沈黙。


 新王は答える。


「必要ならする」


 迷いはない。


「だが」


 続ける。


「その結果も、責任も、私が負う」


 アルノーの目がわずかに揺れる。


「……覚悟はある」


 認める。


 だが納得ではない。


「しかし」


 静かに言う。


「王一人では、全てを見切れない」


 それは事実だ。


 否定できない。


 リリアーナの胸がわずかに軋む。


 制度。


 評議。


 王。


 どれも必要。


 だが全ては同時に満たせない。


 その時。


 使者が駆け込む。


「報告!」


 空気が一変する。


「北方、補給線を封鎖!」


 室内が凍る。


「交易路が遮断されました!」


 完全封鎖。


 次の段階。


 アルノーが呟く。


「……来たか」


 新王は即座に立つ。


「軍務棟へ」


 迷いはない。


 動きは速い。


 だが。


 回廊を走る中で、


 リリアーナは初めて明確に感じる。


 王は決断する。


 だが。


 それでもなお。


 王は――一人では足りないのではないか、と。

ここで第8章の核心に入ってきました。


王の覚悟は固まった。

でも、それだけで国家は回らない。


「正しさ」と「限界」が同時に見えてくるフェーズです。


次話では、いよいよ北方封鎖に対する王の初手が描かれます。


ここから一気に緊張が上がります。


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